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イマジナリーフレンド

作者: AtNamlissen

 高校二年生の冬、僕はイマジナリーフレンドと久しぶりに遊んだ。






 母によると幼い頃、僕は周囲に馴染めず、いつも一人で遊んでいる子供だったらしい。

 でも、僕にとってはそうではない。

 僕はいつも、ある友人と一緒に遊んでいたのだ。

 既にもう十年も前のことだから、その子の名前は思い出せないが、僕からすれば、その子は確かに実在していた。


 無口で、内気ではあったがいつも僕のそばにいて、一緒に砂遊びや追いかけっこをしていたのを今でもおぼろげながら覚えている。

 こういう友達のことを俗に、イマジナリーフレンドと言うらしい。


 小学校に入ってからは、友達も増えて、すっかりそいつのことも忘れてしまっていた。

 中学に入ってからも、そいつを思い出すことはなかった。

 高校に入り、うまく友達が作れずに一人で過ごすことが多くなったとき、ふと、そいつのことを思い出した。


 そいつが誰だったのか、僕は無性(むしょう)に気になり、両親や小学校時代の友人に訊き回った。

 結果、そいつはいなかったのだと僕は知ることになった。

 イマジナリーフレンドという言葉を知ったのもその頃だ。


 ふと気づくと、いつの間にか学校で僕が変な奴だという噂が立ち、たまに話しかけてくれていた人も僕から遠ざかっているようだった。

 家族からの目も、どことなく腫れ物を触るような感じだった。


 僕には居場所が無くなり、登校するのも億劫になって、何も言わない家族に甘えてついには登校するのをやめた。


 家から一歩も出ない日々が続き、朝と遅い夕食以外の時には部屋で寝てばかりでいるようになった頃、僕は毎日のよう見ある夢を見るようになった。


 それは、イマジナリーフレンドと、家の中でかくれんぼをする夢だった。


 早朝。まだ日が出る前の薄ら明るい時間に、その夢で目が覚める。

 そのたびに、布団から出れない僕は二度寝をして、大抵は十時になるまでは起きなかった。


 そんな生活を続けていたある日、僕はふと、あいつは僕とまた、かくれんぼをしたいんじゃないだろうかと気付いた。

 そういえば、あいつが家に来たときは、いつもかくれんぼをしていたような気がする。

 そしていつも通り朝早くに目が覚めたとき、僕は布団から飛び起きて、そいつを探し始めた。



 僕は何も言わない。そいつも何も言わない。だからそいつがどこにいるかは分からない。でも、家の中で隠れられる場所なんていくつもないから、僕はそこを順々に回った。


 そして風呂場に着いて、その扉に手をかけて勢いよく開けたとき、そいつはいた。



 そいつは僕から背を向けて、しゃがんで風呂場の床を見つめていた。

 そいつは僕の制服を着て、僕に似た髪型をしていた。

 そいつは間違いなく、僕の友達だった。

 昨日も一昨日も、中学でも高校でも、小学校のときも、僕はそいつといつも一緒に遊んでいた。

 でも、僕はそいつの名前を思い出せなかった。


 僕は怖くなった。

 そいつは僕に背を向けたまま立ち上がり、僕の方に振り向こうとした。

 僕は咄嗟に目を瞑り、耳をふさいでしゃがみこんだ。


 少しして目を開けると、そいつはいなくなっていた。




 それ以降、僕はそいつには会っていない。

 しかしその日までそいつは確かに存在していたし、僕だけはそれを知っていた。


 思うに、そいつは寂しかったのではないだろうか。

 誰かと一緒にいたい。誰かに認められたい。誰かの記憶に残りたい。

 そんな気持ちは誰しも抱くものだし、僕だって持っている。

 そいつもそんな気持ちだったのだろう。

 あの時、そいつは勇気を出して、僕に何かを伝えようとしたのかもしれない。

 それはそいつの思いだったのか、名前だったのか、それは僕には分からない。

 ただ、それを拒絶した僕に、そいつは深く傷ついたんだろうな。


 あの時、そんな行動を取らなければよかった。そんなことを言っても、あの時の出来事がまた起きることは決してない。

 

 

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