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サバンドの戦い2

「な、なんだ!?」


ドシン、ドシンと断続的に地鳴りが戦場に響いて、困惑する兵士たち。慌てて辺りを見渡す無精髭の目に不思議なものが写った。それは小高い丘の裏から出てきた小さな白い小山。地鳴りの音が大きくなるにつれて小山は、まるで海面から朝日が昇るように、その正体を現した。


現れたのは巨人型のゴーレム。節々が太く、そして丸みを帯びているため、たるを繋げて作られたような格好。頭はなく、胸の部分にぎょろぎょろと忙しなく動く目玉が一つついていた。武器は

巨大な棍棒を持ち、それを振り回して兵士たちを吹き飛ばしている。


兵士たちは、その巨人に恐れ慄き《おののき》全速力で逃げていく。仲間を置き去りにしてでも、我先にと逃げようとする。

無精髭は恐怖でその場を動けなかった。


「な、なんだよあれ。あんなのがいるなんて聞いてないぞ……!」


手から剣が滑り落ち、カランと鳴った。ドシン、ドシンと近づいてくる巨人の圧に負けてその場で尻餅を着く無精髭。逃げるんだ、逃げるんだと何度も自分に言い聞かせるが、足が震えて使い物にならなかった。


「無理だ。あんなの勝てっこない……」


「確かに。おっさんじゃ無理だな」


その声に無精髭は横に立つガーディを見上げた。彼の表情は、無精髭の絶望しきった表情と違い、この状況でも生き生きとしていた。


「まあ見てな。俺がぶっ倒してやるよ」


ガーディはそう言ってニヤリと笑うと、巨人めがけて走り出した。と同時に、無精髭のすぐ側から怒声のような甲高い声が響いた。


「怯むな!弓部隊!爆弾準備!」


エリックが喝を入れるようにそう叫ぶとどこからか弓を持った兵士たちが何人も現れた。彼らが持つ矢の先には導火線のついた爆弾が巻き付けらている。その弓部隊の1人が松明を持ってその導火線に順々に火を付けていった。そして標的を暴れ回る巨人型ゴーレムに合わせた。


「撃て!」


エリックの号令を合図に一斉に矢が放たれる。それは弧を描き、巨人に直撃、爆発した。それは巨人を怯ませるには十分な威力を誇っていた。

巨人の動きが鈍くなり、その隙にガーディはどんどん迫っていく。

逃げ回る兵士たちの間を縫って、脱兎の如く巨人に迫っていく。巨人は唯一近づいてくるその存在に気付き、ぐるりと目玉がそれを捉えた。


巨人の棍棒が高く振り上がる。簡単に人を粉砕するであろうことは見る者全てが肌で感じていた。しかし、ガーディはおくするどころか嬉々としてゴーレムにたち向う。


1体と1人の距離が目と鼻の先になった瞬間、その棍棒は振り下ろされーー。と同時に1本の矢が空を切った。パキンッと割れる音が響き、矢がゴーレムの目玉に突き刺さった。


撃ったのはエリック。狙いを済まして、渾身の一撃を巨人に喰らわした。

そしてゴーレムの動きが一瞬止まる。その隙にガーディは地面を思いっきり蹴って、飛び上がった。飛んだ先はゴーレムの体の上。その上に着地すると、くるりと振り返り、斧を振り上げた。


「さっさと土に帰りやがれ」


ザンッと斧がゴーレムの身体に突き刺さった。深く、斧の刃の半分がその硬い身体にめり込んだ。しかし、その強烈な一撃を喰らってもまだゴーレムはその機能を失っていなかった。最後の抵抗、ぐわんとうねったその巨大な手がガーディを掴んだ。


「なっ!?」


思いっきり勢いを付けてゴーレムは彼を振り投げた。ほぼ一直線に地面に激突し、土煙が立つ。

直後、パキンッという甲高い音が響いて、突き刺さった斧を起点にゴーレムの体に亀裂が走った。その亀裂はやがて全体に広がっていき、最後にはガラスのようにゴーレムは砕け散り、家程の砂の山が出来上がった。


「うおおお!やった!やったぞおおお!」


歓声が、戦場に爆発した。阿鼻叫喚あびきょうかんの逃亡が、巨人の崩壊によって、勝利の雄叫びへと変わった。まだ戦争の決着はついていないが、彼らの喜びは、それほどまでに巨人の脅威が大きかったことの現れだろう。涙を流して喜んでいた。


無精髭は、この歓声を産んだ英雄、ガーディの元に急いだ。

ガーディはあの勢いで地面に衝突したのだ。無事では済まないだろう。最悪死んでいるかもしれない。一刻も早く治療隊の元に運んでやらなくては。あの男を死なすのは、こちら側にとって大きな損失だと、無精髭は考えた。が、そんなことよりも、単純に助けたいと言う思いが、足を早くした。急ぎすぎて足取りが乱れ、這うように走っている。

そんな無精髭の横を一頭の馬が追い抜いた。エリックだ。土煙が立ち上っている小さなクレータへ向かっている。その険しい表情は、ガーディの安否を心配してのことだろう。あと少しでたどり着くと言ったところで、馬が走るのをやめた。遅れて無精髭も追いついた。


土煙の中に揺れ動く影があった。ヌッと現れたのは、泥と血で汚れたガーディだ。無精髭を見つけ、


「どうだ?ぶっ倒したぜ」


と勝ち誇った笑みを浮かべ、その場に倒れたのだった。


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