戦斧のガーディ
灰色の鎧に身を包んだ兵士と真っ白な陶器のような肌をした兵士が剣を交えていた。灰色の兵士は無精髭を生やした男で、必死の形相を浮かべながら、片刃の剣を幾度も振り下ろした。振り下ろすたびに、「死ね!」と言う言葉が口から漏れている。
それを受けている兵士は、見るからに人ではなくゴーレムだ。銀色の鎧を纏い、剣を振るう姿は遠目から見れば人と見間違うかもしれないが、一点の曇りもない真っ白な肌がその認識を否定する。ゴーレムは、まるで流れ作業をするかのように灰色の兵士の繰り出す斬撃に剣を合わせて防ぎ続け、隙を窺った。
相手の剣を叩き折ろうとするかの如く一振り、一振りに全身全霊を賭けていた灰色の兵士は、疲労のせいか、攻撃の手が一瞬、緩んだ。ゴーレムはその一瞬を逃さず、灰色の腹に蹴りを入れた。
「ゴホォ!」
もろに蹴りを喰らったその兵士は、あまりの痛みに腹を抑えて、その場に膝をついてしまった。
真剣勝負の場で、それは自殺行為に等しい。無精髭は頭の中ではそれを分かっているが、脚が言うことを聞かない。
痛痒に震える身体に叱咤する兵士の前で、ゴーレムは剣を振り上げた。まるで今から薪でも割るかのように一切の慈悲を感じさせないその姿を兵士は見上げた。のっぺりとした穴の無い無機質な無表情が、より一層の恐怖を感じさせる。
ーー死んだ。ついに死んだ。
そんな言葉とともに思い浮かんだのは、避難先に残した家族。妻とまだ幼い娘と過ごした幸せな日々が脳裏を過ぎ去っていく。戦争が始まるまでの家族との楽しい思い出が走馬灯となる。
しかし、そんな感傷に浸らせるのも贅沢だと言わんばかりに無慈悲に、剣は振り下ろされて……
瞬間、ゴーレムが割れた。
無精髭には、何が起きたのかはっきりと分からなかった。分かったのは、ゴーレムが腰の部分で真っ二つに切断され、その上半身が地面に転がり落ちたという結果だけだった。
地面に転がる上半身の中身には砂だけが詰まっていた。割れたビンのような切断面を残す下半身からも、サラサラとした砂がこぼれ落ちる。
それは糸が切れたように兵士の方へ倒れた。
「おい。ケガねぇか?」
無精髭の興奮冷めやらぬ胡乱な目に写ったのは、自分よりも数段若い兵士の姿だった。
どこかの田舎町から来たのか、ボサボサの黒髪が品の無さを物語っている。加えて、鋭い目つきと、見え隠れする八重歯がやや怖い印象を与えた。
そして、右手には剣ではなく、使い古された手斧が握られている。
無精髭にはその兵士は見覚えがなかった。だが、斧を使う稀有な兵士には聞き覚えがあった。
数百のゴーレムをただ1人で殲滅した、バケモノのような斧使いの兵士がいる、と。
その兵士の名は、ガーディ。
人呼んで、戦斧のガーディ。