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異世界コネクト  作者: 在原ナオ
第3章 姉妹の約束
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第13話 期待外れ

 俺たちの目の前に大きな盾が現れる。

 リブラも盾に変身できるがそれとは違う、禍々しく、攻撃的な印象を受ける盾だ。

 スナイパーの攻撃はその盾に受け止められてしまい、代わりに甲高い音があたりに鳴り響いた。

 一瞬拮抗したものの、スナイパーの放った衝撃波はその盾の堅牢さに霧散した。

 そしてその音が鳴ると同時に、役割を終えた盾は消失し、まるで何事もなかったかのように静けさが漂。

俺と先輩は呆然としながらその光景を見ていた。


「・・・・・」


 スナイパーは驚いたのもつかの間、すぐに意識を切り替えて俺たちの後ろをじっと見ていた。

 俺も視線を何とか向けて、背後の人影を見る。


 そこには少女がいた。

 茶髪のショートカット、ゴシックファッションのような服でフリフリの黒いドレスを着ていたのでまるで人形だと思ってしまった。そして冷たく凛とした瞳がなんとも印象的だった。

 


「誰っスか、君」

「・・・・・」


 スナイパーは少女に問いかけるも、少女は何も答えない。ただスナイパーのことを視線から外してもおらず、冷たい瞳でスナイパーを見据えていた。


「あーもしかして、コマンダーが言っていた不穏分子って、君の事っスか?」


 その言葉を聞いた瞬間、少女が動いた。

 俺たちのほうへ歩みを進め、右手を掲げながら


創造(クリエイト)


 そう唱えた瞬間、少女の周りにジャラジャラと鈍い金属音をまとわせながら黒い何かが現れる。


 それは鎖だった。

 先端には刃のようなものがついており、俺が知る鎖よりも一回り大きく、今もなお長く伸び続けているのだ。


 それを見たスナイパーは少女に向かって攻撃を開始した。


「っ・・・『空撃(ショット)』!」


 衝撃波の弾丸が飛んでいくも、少女はあわてない。しっかりとその攻撃を見据え


 ガキィィィィン


 鎖を操って弾丸をはじいたのだ。

 そして緩急入れず、鎖がスナイパーに向かって伸び始める。その光景を見たスナイパーは初めて焦りの顔をのぞかせた。


「なるほど、確かにこれは強力な異能力っスね・・・」


 スナイパーは跳んだ。否、空を飛んだのだ。まるで彼の周りにだけ無重力空間が展開されているかのように、一度の跳躍で先ほどの電柱の上まで届いた。


 何とか鎖を躱したものの、スナイパーは悟った。


 あの鎖に拘束されたら確実に負ける


 そこからの攻防は一分に満たなかった。

 まず少女が追撃を始めた。もともと一本だった鎖は今や五本以上は出現している。

 スナイパーは空を走るように躱し続けながら少女へ攻撃をしているも、鎖にはじかれ届かない。

 少女も限界なのか、それともこれで十分だとでもいうのか、これ以上鎖を増やそうとしなかった。

 ただその表情には限界など見えず、異能力特有の制約のようなものがあるのかもしれない。


 そしてスナイパーは異能力で乱れ撃ちをするも、すべてが鎖にはじかれてしまうので苦い顔をしていて、迫りくる鎖をよけていた。

 それどころか最後のほうは鎖をよけるのに全力を注いでいた。


「わかったっスよ、やめるっス」


 少し両者に熱が入ってきたころ、スナイパーは落ち着き払った表情を見せながら地上へと着陸した。そしてそれを見た少女も鎖を消失させる。たったそれだけでこの場の支配する空気が多少は軽くなったものの、息苦しさはたいして変わらない。


「今日のところはひとまず諦めてあげるっスよ。けど、この場にいる全員の顔は覚えたんで」


 そういうとスナイパーは大きく跳躍し、住宅街の闇の中へ消えていった。すると周りの音が先ほどよりも明確に大きくなった気がする。


 少女もその光景をただただ眺めており、これ以上追おうとしなかった。


(助かったのか?)


だがしばらくすると、少女が俺たちのほうへと徐々に近づいてくるのがわかった。

コツコツと、足音を響かせながらやってくる。


「っ!?」


 さすがに俺もいきなり現れた人物をすぐに信用する心を持ち合わせてはいない。むしろここにきて新しい異能力者だ。ガイアと戦っていたことから敵ではないはずだが、それだけの理由で警戒を緩めるわけにはいかない。


「・・・」


 少女は依然無言のままだ。そして俺と遊香先輩のことを交互に見るとため息をついて目を細める。


「あなたたちのことを見ていたのだけど」


 ここにきて茶髪の少女は一人でしゃべり始める。しかしその眼はとことん冷たいものだった。


「正直期待外れだったわ、失望すらした」


 期待外れ。その言葉を聞いた瞬間俺は心の底に重いものが引っかかるような感覚に陥った。


『案外期待外れだったようだな』


 最近敵であるコマンダーにも同じことを言われた。俺は何度自分の力不足を痛感すればいいのだろう。


「無謀にもほどがある戦い方をして、挙句に無関係であるはずの人をを巻き込んだ。それを愚かと言わずなんと言うのかしら」


 そもそも遊香先輩がこの場にきてしまったのは、俺が中途半端に遊香先輩と別れてしまったからだ。あの時点から浅はかだったのだ。

 もう少し事情を説明できていれば、あるいは俺がとっとと帰っていれば遊香先輩を巻き込むことはなかっただろう。

 俺は何も言えずに口をつぐんでしまう。


 すると少女は俺から興味をなくしたのか


「あなたもあなたよ」


 少女は遊香先輩のほうを向いてそう言った。その眼は嫌悪感を隠そうともしておらず、怒りをあらわにしているようだった。


「あなた、最後諦めていたわよね?」

「あっ・・・」


 そういわれて遊香先輩がたじろぐ。どうやら思うところがあったらしい。実際、この少女が来てくれていなければ少なくとも遊香先輩はあの時確実に死んでいただろう。


「私、諦めたり途中で投げ出したり人って、嫌いなの」


 そういって少女は倒れている俺のことを見下ろす。否、見下しているようにも見えた。


「せいぜい足搔きなさい。もしあなたが自分の殻を破ることができたのなら、もう一度姿を現してもいいわ」


 先輩は呆然として少女のことを見ていた。もはや何が何だかわからないらしい。

 かくゆう俺も、この少女が何者なのかさっぱりだった。


「まあ、あなたたちがその時まで生きているのなら、だけどね」


 そういって少女は振り返りもせずに去っていった。その姿に迷いなどなく、静かな炎を燃やしているようだった。


『正直期待外れだったわ』


 俺の心の中で、あの少女の言われた言葉が木霊する。あの言葉が耳から離れない。


「く・・・そっ」


 そして俺の意識もどんどん遠のいていく。完全治癒をするために一定の睡眠が必要になったため、体が急かしているのだ。


「レンレン!?」


 先輩は意識を失いかけている俺の気づき、慌てて体をゆする。だが俺はもう限界で・・・


「死んじゃだめだよ、起き・・・あれ、体が治ってきてる?」


 先輩は俺の体が勝手に治っていくのを見て呆然としていた。


 そしてその光景を最後に、俺は意識を失った。


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