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異世界コネクト  作者: 在原ナオ
第2章 薄氷の絆
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第24話 不協和音

 ボロボロになった服に付いている汚れを払い、俺たちはレインの元まで歩く。

 最初の小さな姿に戻ったレインは完全に気を失っており、口から泡を吹きながら痙攣していた。


「璃子、いろいろと話さなきゃいけないことはあるんだがもう少し待ってくれ。やらなきゃいけないことがあってな」

「うん、わかった」


 こいつには聞きださなければいけないことがいくつもある。


 この世界に来た最後の異世界人。俺を殺した相手でもあるオセロという人物の事。

 そして佐藤和奏失踪についての顛末。

 なにより、こんな男が今まで問題を起こさなかったとは思えない。絶対に何かしらをしでかしていると思われるのでそのアフターケアをしなければいけないだろう。


 しかし問題はどう尋問するかだ。そもそも俺一人でこの男を抑えきれるのだろうか。

 こういうのはリブラの得意分野なので葉島の家に泊まっているリブラを呼び出すしかなさそうだ。

 こんな真夜中に電話をかけるのは気が引けるが、やむを得ないだろう。

 そう思った俺は、リブラと一緒にいるであろう葉島に電話をかけようとする。

 しかしその瞬間


「ゲホッ、おぇ、気持ちわるー」

「なに!?」


 いまだに倒れこんだままだが、レインが意識を取り戻した。そのうつろな瞳はゆっくりと俺の方へと向けられ、思わず体が固まってしまう。


(いくらなんでも早すぎる、逃げるべきか!?)


 異能力を使い果たした俺ではもうレインを止められない。璃子どころか自分の身を守る力も残ってはいなかった。また暴れられたら、次は死を覚悟しなければいけないだろう。


「そんな警戒しなくてもいいよ。僕はもう動けないから」


 ぐったりとした様子のレインが不安な表情を見せる俺に告げた。

 どうやらレインも異能力の使い過ぎで体が動かなくなっていたらしい。寝ころびながら俺にそう言ってくる。

 レインは諦めた様子で夜空に浮かぶ星を眺め始めていた。


「この世界にも星はあるんだね。まったく、僕が負けるなんて二度とないと思っていたのに」

「でも、王宮の人たちに捕らえられたんだろ?」

「卑怯な手を使ってだよ? 真正面から打ち破られたのは今回が初めてだ。おめでとう。君は勝者になったんだ。敗者はおとなしく言うことを聞いてやりますよ」


 先ほどまでとは違い、圧倒的な覇気が消え哀愁が漂ってくるような雰囲気を醸し出すレインは、どうやらすでに諦めたらしい。

 もしかしたら本人は初めての敗北を経験しているのかもしれない。


「それで、僕に聞きたいことでもあるのかな」

「いいけど、お前は答えてくれるのか?」

「その方が面白そうだしね。まあ答えたくないことには答えないけど」


 レインがそう言ったので俺はできる限り情報を引き出そうとする。


「オセロさんの居場所? それは僕も知らないよ。というか、あの人とこの世界で会ってないから」


 ここにきて判明した事実がある。どうやら異世界から来たこいつらは、元仲間とは言えこの世界でもその関係を保っているわけではないらしい。

 こいつらのリーダー格であるオセロはどうやらアズールとレインに見切りをつけたらしい。


「そもそも、僕あの人嫌いなんだよね。僕たち仲間なのに容赦がないし」


 どうやらオセロという人物は仲間意識など、はなからないらしく、個人的に何かしらの目的のために行動しているようだ。


「そうそう。これから多分一番大事なことを話してあげるよ」


 俺が考え込んでいるとレインが自らしゃべり始めた。まだ何か隠していることがあったようだ。


「俺たちはバラバラにこの世界に飛ばされたんだ。観光がてら、この世界をしばらくさまよってたら、変な奴らに声をかけられたんだ」

「?」


 異世界からやってきたのはリブラを除き三人ということなのでその手段は間違いなくこの世界の人間だろう。たまたま声をかけたのだろうか。


「なんか変なやつらでね、僕に取引を持ち掛けてきたんだ」

「取引?」


 こんな異世界の犯罪者に取引を持ち掛けるなど正気の沙汰ではない。そもそも、どうしてわざわざ異世界の住人に取引を持ち掛けたのだろうか。


「アビリティストーンに認められた人間が必要なんだって、それも生きた状態で。奴らは異能力者を集めてる」

「・・・」


 アズールはあの日、葉島を襲っていた。その目的がいまだに謎だったがここにきて判明した事実。

 どうやらアビリティストーンを取り込んだ人間を欲している組織があるらしい。

 アズールが葉島を生かしてどこかへ連れ去ろうとしていた。これであの日の真実が多少は明るみに出てきたのだ。


「どうやら二人はその取引に乗ったらしくてね、僕もまあ暇つぶし程度に探していたんだけど見つからないから諦めてたんだよね」


 アズールが葉島を見つけたのはほぼ偶然だったのだろう。

 激昂しやすいせいで最後の方には殺す勢いで攻撃していたが、それはアズールが短気なだけだ。


「もし生け捕りにできたら見返りとして、なんでも願いをかなえてくれるんだって」

「願い?」

「そ。あの二人って野望とかいっぱいあるだろうから積極的になってるんだよ。僕はそう言うのこれっぽっちもないから消極的だったんだけどね」


 こいつはこいつで、この世界を適当にかき回していたらしい。恐らく余罪がつつけば大量に出てくるだろう。

 俺はそれを置いておき、その組織とやらについて聞きだすことにした。


「それで、その組織について何か知っていることはあるか?」


 するとレインが難しい顔をして目をつぶりながらうなりだした。


「正直、あいつらについて知っていることはないんだよね。この世界の人間だろうし。ああでも」

「でも?」


 ここで俺は驚愕の事実を知る。


「そいつら三人くらいいたんだけど、全員が異能力を手に入れていたよ」

「・・・・・はい!?」


 どうやら事態は、俺の知らないところで最悪の方向に向かっているようだった。



  ※



 俺はその後もレインからいろいろなことを聞き出した。


 なんでも空き巣や放火などを繰り返していたらしく、一月ほど前の不審な事件の数々の多くはこいつがしでかしたものらしい。こいつが来ていた執事服もどこかで盗んで手に入れたものだった。

 俺はその場所や時間などを簡単にまとめ、後日に様子を見に行こうと決めるのだった。


 それとは別でリブラに伝えなければいけない情報なども手に入れることができたのであとはこちらに向かっているであろうリブラを待つだけだ。

 すでに葉島に電話をかけこちらにリブラを向かわせてもらっている。あと数分もせずに駆け付けてくれることだろう。


 俺があらかた聞きたいことを聞き出せた時だった。


「あ、あの!」


 突然璃子が声を上げるのだった。そう言えばいたのを忘れていたし、肝心の要件を忘れてしまっていた。

 新しい異能力集団がいるという衝撃にすべてを持っていかれてしまった。


「さっきからよくわからないことばっかりだけど、あなたに聞きたいことがあるの。あなたは佐藤和奏を知っているの? 私の大切な友達なんだけど!」


 どうやらレインは佐藤和奏について何か知っているようなことをほのめかしていたらしい。俺もそれには初耳で思わず璃子のことを見てしまう。

 それを聞いたレインも、そう言えばというような顔をする。


「あの女の事ね、というかあの女こそが・・・」


 レインが何かを話そうとしたその瞬間だった。


 ザクッ


 レインの頭に何かが突き刺さるのが見えた。あまりにも一瞬でよく見えなかったが、レインが意識を手放したのが分かった。


「なっ、レイン一体どうし・・・」


 俺がそう声をかけて気づく。

 レインの頭に弓矢が刺さっていたのだ。しかもただの弓矢ではない。それは圧倒的な冷気を纏った()()()だった。


「うそ・・・」


 璃子は顔を青ざめその場にへたり込んでしまう。


「ダメか・・・」


 レインは完全に絶命していた。脳を貫かれたのだ。即死で間違いないだろう。


 俺は意識を切り替え、その弓矢が飛んできた方向に目を向ける。

 しかしそこには誰もおらず、暗い闇が広がるだけだった。



  ※



「終わったよ」


 町の離れにある廃屋。そこで一人の少女が自らの成果をそこにいる二人の少年たちに報告する。


「やはりあの男では無理だったか。まあ最初から期待はしていなかったがな」

「でも何となく敵の強さも知れたし、よかったんじゃないスか」


 ひとりは高校生くらいの少年。

 金髪で一見どこにでもいそうな高校生に見える。しかし、その少年からは圧倒的なオーラが放たれており、カリスマ的な雰囲気を感じ取ることができる。なによりかなりのイケメンで普通の女子なら色めき立つだろう容姿をしていた。そしてこの場を取り仕切る人物だった。


 もうひとりは大学生ほどの青年。

 ぼさぼさの黒髪を雑に整えており隣の少年と比較して頼りがいがなく、やる気がないような口調で少女を見るその瞳は全てを諦めているような感情を映し出す。しかし、誰よりも正確に仕事をこなせ、他を圧倒する頭脳を持ち合わせていることはこの二人にとって周知の事実だった。


「それはそうとウィッチ、お前なら例の少年とやらをその場で殺すことができたのではないか?」

「・・・・・」


 少年がウィッチと呼ばれた少女に問いかける。それだけでその場の空気がガラリと変わった。

返答次第ではまるで命が脅かされるような雰囲気を目の前の少年は醸し出す。


「もしかして、君の友達が近くにいたんスか?」

「なるほどな・・・今回は不問にするが、次は確実に仕留めろ」


 仕留めろ。それは恐らくあの少年だけではない。関わってしまったすべての人物を殺せと言っているのだ。


「・・・りょーかい」


 ウィッチと呼ばれた少女はやる気なさげに適当な返事をする。

 だがそれでも少年は満足したらしい。


「それで()()()()()、次はどう動くんだよ?」


 ウィッチは先程の少年をコマンダーと呼び、そう問いかける。

 今までは隠密行動を心掛け、彼らのことを探っていたのだ。そして異世界人は既に二人もやられた。ならば、こちらが動くのも時間の問題だとウィッチは考える。


 するとコマンダーと呼ばれた少年は不敵な笑みを浮かべ、おもむろに立ち上がる。


「なに、あちらも派手に動いてくれたんだ。そろそろ我々も動くべきだろう。つまり・・・宣戦布告だ」


 ひとりでいきり立つコマンダーにウィッチともう一人の少年は呆れている。どちらにしろただでは済まないことは確かだ。


「ウィッチ、()()()()()。これからは全面戦争だ。容赦はいらない。彼女も言っていたが最悪死体でもいいらしい。なら我々は争い合おうではないか!」

「へいへい」

「まあ、ほどほどに頑張るっスよ」


 コマンダー、ウィッチ、そしてスナイパーと呼ばれた男。


 蓮たちと彼らが衝突するのは時間の問題だった。



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