第9話
外はすっかり暗くなってしまっていた。
……この時間ならば、「ブレイブヒーロー」の面々は好き放題飲み歩いているはずだ。
……まあ、一緒にいるかどうかはわからない。
「ブレイブヒーロー」の面々はみな、我が強い。
そのため、仲良く行動するということがほぼない。
迷宮攻略の時は、俺を虐めると言うことで一致団結しているのだが、それ以外の部分ではわりと良く喧嘩をしていた。
「兄さん、兄さん」
部屋のベッドで腰かけていると、ルーナが甘えるような声とともに隣に腰かけてくる。
……やたらに距離が近い。
俺が迷宮内にいたのは12日ほどだったらしい。
これまでルーナとそれほど離れたことがなかった。
ルーナももうすぐ15歳になり成人となる。
そろそろ兄離れをしてほしいと思っているのだが、まだまだ難しいようだ。
「どうしたんだ?」
「確認したいのですが、ギルドの規則を破った勇者たちにはどのような罰則が与えられるんですか?」
「……そうだな。まあ、冒険者としての活躍の様子も考慮すれば――恐らくだが罰金じゃないかな?」
……冒険者としての実績もなければ、ギルドカードの剥奪などが行われるが、彼らはそれなりに実績があるからな。
恐らくは罰金だ。
「なるほど……その罰金ってどのくらいになるんですかね?」
「そうだな……。多くて1000万ゴールドくらいじゃないか? 今回は、俺が死にかけたわけだしな」
「……それでも、人一人の命がかかっていると思うと少ないですね。それに、世界で一番かっこいい兄さんが死にかけたんですよ? もっと支払われるべきではないですかね?」
「賠償金にはカッコよさとかは関係ないからな。……まあ、でもそれでもかなり重いはずだ」
「そうですよね……でも、支払う能力はあるんですかね?」
「どういうことだ?」
「……その、私も直接聞いたわけではありませんが兄さんがパーティーを離れてからどうにもうまくパーティーが回っていないみたいなんですよね」
「……そうなのか?」
まあ、一応迷宮攻略の準備などはすべて俺が引き受けていた。荷物の手配、それぞれの好みの食事の準備、また迷宮内に入ってからは荷物持ちとして、そして迷宮攻略の上で泊まる必要がある場合は睡眠時の見張りは俺が行っていた。
それを五人で手分けしてやるのだから、まあ今までのようにはいかないだろう。
「はい。新しく荷物持ちを雇ったようですけどみんなクビにしたみたいなんです。……なんでも兄さんにできたことがみんなはできなかったみたいで」
「……なるほどな。でも、まあ勇者たちはそれぞれ貯金していたからな。合わせればそれなりに金はあるはずだ」
皆最低限の金を持つようにしていた。……まあ、もしかしたらそれも使い込んでしまっている可能性はあるが。
「それならいいですね。兄さんのこれまでの苦労の分まで支払ってもらえればいいんですけどね」
「とりあえずは、明日を待ってからだよな」
「……そうですね」
ルーナはにこりと微笑んでから俺の手をぎゅっと握ってきた。
「兄さん。今日は一緒に寝ましょうね?」
「……おまえな。いい加減兄離れしろって」
「大丈夫です。私たち血の繋がりないんですから」
ルーナと俺は孤児院で暮らしていた。俺が十五歳になって孤児院を出るときに、ルーナもついてきた形だ。
……もともと可愛がっていた妹みたいな存在なので、同行に関しては認めていた。
……それに、当時は俺も「再生の勇者」としてそれなりに冒険者として活躍できると思っていたからな。
俺がルーナを呆れた目で見ていると、彼女は目を伏せた。
「その、今日は変な意味はなく純粋に隣で一緒にいたいんです。……寂しかったんです」
彼女の寂し気な表情に俺は弱かった。ぽりぽりと頭をかく。
兄離れしろ、と言っているわりにはこういうところで突き放しきれていない俺も原因なのかもしれない。
「……分かったわかった」
「やった!」
ルーナはけろっと表情を変える。先ほどのは演技だったのかもしれない。
……まったく。
とはいえ、ルーナに心配かけていたのは確かだ。今日くらいは、ルーナのわがままを好きに聞いてもいいだろう。
俺がベッドに入ると、ルーナも笑顔とともにぎゅっと抱きついてきた。
柔らかな感触。続いて幸せそうなルーナの顔を見て、俺もようやく戻ってきたんだと自覚する。
「……兄さんの匂い、兄さんの匂い」
鼻をぐっと押しつけてすんすん吸ってくる。……ルーナの教育、どこで間違えてしまったんだろうか。
「あんまりくっつかないでくれ……暑くて寝れないんだが」
「ぎゅっとしてください。今日は一杯私を甘やかしてください。寂しかったんです!」
……そう言われると、俺としても諦めるしかない。
そして、次の日。
ギルドに呼び出しを受けた俺がそこに行くと、苦虫をかみつぶしたような顔をした勇者の面々がそこにいた。
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