第50話
俺はぎゅっと抱きついたままのエフィに声をかける。
「も、もう大丈夫だから……ほら、落ち着いてくれ」
そう呼びかけるとエフィはハッとしたようにこちらを見てきた。
それから慌てた様子で俺から離れる。
「……え? あ、う、うん……! そ、そうだよね……あはは、みっともなく抱きついちゃってご、ごめんね……!」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたままだ。
しばらく、頬の紅潮は消えそうにない。
俺はちらと周囲を見る。
どうやらまだ冒険者たちは気絶してしまっているようだ。
つまり、先ほどの俺のアローの心臓を喰らった様子は、エフィにしか見られていないようだ。
「とりあえず、俺は14階層につながる階段に戻ってギルド長たちに報告をする。エフィたちはこの先にある魔法陣を利用して迷宮から脱出してくれ」
俺が宝箱を開けると、すぐ近くに魔法陣が出現した。
……中身は大したものはないな。大きな魔石が一つあったので、アイテムボックスへとしまう。
売ればそれなりの金額になるだろうけど、俺としては大剣とかが欲しかったな。
「……う、うん分かったよ」
「アローについては、俺からもギルド長たちに説明するけど……詳しい話はエフィたちからしてくれ」
「そうだね。みんなの意識が戻ったらみんなと一緒に話すね」
「ああ。……それと、さっきのアローの心臓を食べたことは……出来れば忘れてほしい」
俺がそう言うと、エフィは一度考えるような素振りを見せた後、こくんと頷いた。
「……うん」
思った以上に素直にエフィは頷いてくれた。
……というか、普段と様子が少し違う。なんというか、ぼーっとした様子でこちらを見ていた。
「……大丈夫か?」
俺が彼女の顔を覗き込むと、エフィは真っ赤になって首を横に振った
「う、うん大丈夫だよ! そ、それじゃあね!」
エフィは冒険者たちを魔法陣に乗せると、自分も同じように乗った。
俺はそれから14階層へとつながる階段へと向かうと、ギルド長と騎士隊長がいた。
「お、おう! どうなったんだ!?」
「……アローは、ここで死んでいました。それ以外の冒険者は怪我こそしていましたが、皆命はある状態でした。冒険者たちは先に魔法陣で帰還してもらっています。アローに関して、詳しい話は冒険者たちから聞いてください……俺もどのようにして死んだのか見たわけではありませんから」
俺はアローの死体を担ぎ、二人の前へと運んだ。
それをじっと見てからギルド長が息を吐いた。
「……なるほど、な。アローが死んだおかげで、おまえは15階層に入ることが出来たわけだな」
「はい。それでデュラハンを仕留めました」
「……マジかよ。よく一人で勝てたな、すげぇなおい」
ギルド長も騎士隊長も目を見開いていた。
「……たまたまです。とりあえず、街が心配です。俺たちはこのまま徒歩で戻りましょうか」
「そう、だな。まあ、異常発生した魔物どもは多分消滅しているだろうが……どんくらいの被害になっちまったかは確認しねぇとな」
ギルド長の言葉に、俺は少しだけ焦っていた。
「……やっぱり戦闘に時間をかけすぎてしまいましたかね?」
「あー、いや悪い。別に責めるつもりで言ったんじゃねぇからな? たぶんおまえが勝てなかったんじゃ誰も勝てねぇよ。時間は気にするな。おまえは十分すぎる活躍をしてくれたよ。……まさに勇者の才能に相応しい活躍だったんだ」
「そうです……誇っても良い行いをあなたはしてくれました」
とん、とギルド長が慰めるように肩を叩き、騎士隊長もそう言ってくれた。
それからすぐに俺たちは迷宮の外へと脱出した。
道中は戦闘を行わず、移動最優先だったために大して時間はかからなかった。
その頃には、エフィたちのパーティーメンバーも意識を取り戻していたようで、外に出たところでエフィ以外の冒険者たちに囲まれた。
「エフィから聞きました! あ、ありがとうエミルさん!」
「あなたがいなかったら私たちは死んでいました!」
「本当に、本当にありがとう!」
「もう、なんて言ってお礼をすればいいか分かりません」
「……あ、ああ。別に気にするなって。俺は冒険者として当然のことをしたまでだ」
俺がそういうと、彼らは嬉しそうに笑った。
「……同じ勇者でも、こうも違うんだな!」
「……ほんと、アローに無理やり連れていかれて……死ぬ寸前だったわよ!」
「死んでくれて清々したぜ!」
……アロー、やっぱり無理やり連れて行っていたんだな。
そのあたりの詳しい事情は後で聞くとして、今は街に戻るのが先決だ。
皆で移動していく。……溢れていた魔物たちはすでに消滅していた。
そのため、街へはすぐに戻ってくることができた。
町は……さすがに、全く被害がないということはなかった。
街のあちこちに、戦いの傷跡が見られた。
……結構な戦いだったんだろう。
それでも、死者は出ていない。
大怪我を負ってしまった人はいても、死者はいなかった。
……今はそれだけで満足しておいたほうがいいだろう。
俺が避難所に行くと、
「兄さん!」
こちらに気づいたルーナが嬉しそうな笑みとともに飛びついてきた。
俺は彼女の体を受け止める。
その感触が確かにあることに、俺は喜びを覚えた。
「怪我は、してないな?」
「……はい。兄さんも大丈夫ですか?」
「……とりあえずはな」
俺はそういってルーナの頭をそっと撫でた。
彼女の笑顔を見て、俺はこの笑顔をもっと確実に守れるようになりたいと強く思った。
【お願い】
ここまでの物語、いかがだったでしょうか?
ここで、この物語の第一章が終わりとなります。
エミルの物語はまだまだ続きますが、一つお願いがあります。
もう一度日間上位に上がり、より多くの人にこの作品を見ていただきたいと思っています。
もしも、日間上位に上がれるのならば、第一章が完結したこのタイミングくらいしかないのかなぁ……。
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