第45話 エフィ視点3
アローの時間を稼ぐため、前衛が突っ込んでいく。私も同じだ。
デュラハンは私たちを見て大剣を振りぬいてきた。
それを、寸前でかわした。
「がああ!?」
盾で受け止めた一人が、力によって吹き飛ばされた。その心配をしている暇もない。
私は才能【風の加護】がある。これは自身に風をまとい、加速できる才能だ。
……そのおかげもあり、デュラハンの動きには何とか食らいついて行けるけど……!
剣を振りぬくが、デュラハンはあっさりとかわす。デュラハンの振りぬいてきた大剣を、私は即座に横に跳んでかわした。
しかし、大剣にまとわられていた黒い魔力が体にまとわりつく。
「……え?」
瞬間、ごっそりとスタミナが奪われたような感覚に陥る。
体が重たい。呼吸が乱れる。
まるで、全力疾走でもした後のような疲労感に襲われる。
呼吸が乱れ、足が重い。泥沼にでも足を取られたような……倒れそうになる中、デュラハンの大剣が迫ってくる。
「ファイアキャノン!!」
仲間の魔法が飛び、デュラハンの体を吹き飛ばす。
「アローレイン!」
デュラハンがよろめいたのを見たアローが魔力の矢を放つ。
倒れたデュラハンの体へと、無数の矢が襲い掛かる
それはまさに矢の雨だ。それが途切れることなく、デュラハンの体へと放たれていく。
その体を殴りつける弓の雨。圧倒的物量によってデュラハンの体が地面へとめり込んでいく。
「はは! どうしたのですか!? 僕の弓の雨で仕留めきってみせましょう!」
助かった……私は一度呼吸を整え、デュラハンの様子を確認する。
アローレインは、アローが持っている魔力の矢を同時に何度も連続で射出する技だそうだ。
彼は片手を向け、何度も魔力の矢を放ち――そして。
「ふう……こんなところでしょうか。僕のアローレインに一度飲みこまれた魔物が立ち上がれたことは一度も――」
アローは言葉を途中で中断させざるを得なかったようだ。
……デュラハンはこともなげに立ち上がったからだ。
そして、アローへと視線を向ける。
「くっ!」
……アローを失えば、まず間違いなく勝てないのは分かっている。
私の体を覆っていた魔力も消え、今なら自由に動ける。
風の加護をまとったまま、私は一気に加速してデュラハンへと迫った。
デュラハンの背中側からの一撃。しかし、デュラハンは一瞥することもなく大剣を振りぬいてきた。
「うぐ!?」
何とか寸前で剣を割り込ませたけど、私の腕が嫌な音をあげ、曲がってはいけないほうへと折れてしまう。
そして、ボールのように弾かれ、壁に背中をぶつけて止まった。
痛みがじんわりと腕と背中から全身へと伝う。
「じ、時間を稼いでください! もう一度アローレインを放ちます!!」
アローは顔面蒼白でそう叫び、他の冒険者たちが動き出す。
デュラハンが大地を蹴り、その間に割り込んだ冒険者だったが、大剣に殴り飛ばされ、壁に叩きつけられ、動かなくなる。
魔法使いの才能持ちだった二人が攻撃を放ったが、デュラハンは魔力をまとった大剣でその魔法をうち返した。
「がああ!?」
「熱い!!?」
二人は自分の放った魔法に吹き飛ばされ、悲鳴とともに倒れた。
「く、食らいなさい!!」
アローが慌てて叫んだ一撃は、しかしデュラハンにかわされる。
無情にも大地を襲った魔力の矢を見て、アローが目を見開いた。
そんなアローへとデュラハンが迫り、剣を振りぬいた。
「あびゃ!?」
剣の腹で殴られたアローが15階層の扉へと背中をぶつけた。
まだ意識はあるようで、よろよろと立ち上がった彼へとデュラハンが迫っていく。
「い、いや……だああああ!! 死にたくない! 死にたくない!! 開けろ! 開けてくれぇぇ!」
アローは一人逃げ出した。背中を向け、15階層の扉を叩き続ける。
しかし、その壁は固く閉ざされていた。
6人でこの階層へと足を踏み込んだ以上、その扉が開くことなんてないのだから。
デュラハンは、アローに狙いをつけたようでどんどん迫っていく。
私たちの中でもっとも火力があったから? それともうるさく叫んでいるから?
どちらかは分からないが……私は痛みによって動けそうになく、アローが殺される様子を見ていることしか出来ない。
それは他の仲間たちもだ。……いや、私以外の人たちはすでに意識を失ってしまっているようだった。
「ぼ、僕は英雄に英雄に……ひゅ!?」
叫んだアローが放った最後の魔力の矢は、その鎧に弾かれた。
そして、デュラハンの大剣がアローの体を頭から股まで振りぬかれ、アローは真っ二つになって倒れた。
デュラハンはもちろん何も言わず振り返り、私の方へと迫ってきた。
……もしかしたら、このパーティーで次に強いと思ったのかもしれない。
あはは……あれほどの強者に実力を認められて、ちょっとだけ嬉しいかも。
死が迫った瞬間に、私はそんなことをぼんやりと考えることしかできなかった。
頬を涙が伝う。
死にたくないという気持ちがこみ上げてくる。でも、もうどうしようもなかった。
ごめん。ごめんお母さん、お父さん。
村を守れるくらい立派な冒険者になって帰るって約束したのに、約束守れなくて……ごめん。
……孫の顔も見せられなくて、ごめんね。
結婚……とかしたかったなぁ。
思うと、さらに悲しみがあふれる。
デュラハンは私の前で足を止める。そして、大剣が振り上げられた。
その一撃が私へと振り下ろされる瞬間――目を閉じた私だったが、何の衝撃も痛みもなかった。
「大丈夫か?」
「……え? エミル、さん? ど、どうして?」
目を開けると、そこにいたのは……エミルさんだ。
柔らかな笑みを浮かべた彼に、私はドキリとする。
「助けに来たんだ。……エフィを死なせるわけにはいかなかったからな」
その言葉に、さらに心臓がどくんと跳ねた。
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