第41話
4月23日となった。
今日がルーナの誕生日だ。
俺は彼女のプレゼントとしてネックレスを用意した。
……あんまり高級なものだとルーナも受け取りにくいと思ったので、5万ゴールドほどのものにしておいた。
落ち着いたシルバーのアクセサリーだ。
朝、ルーナが目を覚まし、寝ぼけ眼をこすっていた。
そんな彼女のほうにネックレスを差し出した。
「誕生日おめでとう、ルーナ」
「へ?」
ルーナはぼけーっと未だ寝ぼけた様子で俺の渡したネックレスを見ていた。
そして、はっとした様子で目を見開いた。
「……あ、ありがとうございます」
「欲しいものとは違うかもしれないけど……良かったら受け取ってくれ」
「そんなことないですよ! 兄さんからもらったものは何でも嬉しいです! ありがとうございます!」
ルーナはぺこりと頭を下げてから、ネックレスを手に取った。
目を輝かせた後、彼女は嬉しそうに首から下げる。
「に、似合っていますか?」
「ああ……良かったよ似合ってて」
「兄さんが選んだんですから大丈夫ですよ。……それでは兄さん、今日は一日付き合ってくれるんですよね?」
ルーナがにこりと微笑んでくる。
ルーナは仕事を休みに、俺も今日は迷宮攻略を休みにしていた。
「ああ、今日は存分に遊びまくろう」
「はい!」
嬉しそうに笑ったルーナが身支度を整えるまでの間、俺は廊下で待機していた。
ルーナが廊下に出てきて、俺の腕に腕を絡めてきた。
宿泊客からじろっと嫉妬の目を向けられる。
……なんでも、ルーナはこの宿で人気者らしいからな。
宿を出てからも嫉妬の目は変わらず多かった。
たぶんだが、宿の食堂が昼時に開放されているからだ。最近、宿の昼時がとても忙しくなったと聞く。
……たぶん、ルーナが影響しているんだろうな。まあ、ルーナは兄という色眼鏡をなくしてもとても可愛い子だからな。
「……ふふふ」
「嬉しそうだな」
「今日は兄さんとずっと一緒ですからね。朝から晩まで……こうして一日一緒にいるのは久しぶりですから!」
「そういえば、そうだな……」
別に疲労とかないため、ほとんど毎日朝から晩まで迷宮にこもっていたからな。
「これで、ルーナももう15歳だな」
「……そうですね。良い才能がもらえるといいんですけどね」
「そうだな。きっと大丈夫だ。ルーナなら」
「そうですかね?」
「だって、ずっと良い子にしていたからな」
俺がそう言うとルーナはくすりと笑った。
「それ、子どものしつけのために言うことじゃないですか。でも、そうですね。良い才能がもらえたら嬉しいです」
彼女がそう言った通り、子どものしつけのためにこういうのだ。
『良い子にしていないと、良い才能がもらえない』というのは親が良く言っているそうだ。
俺たちも、孤児院にいたころは良く言われたものだ。
「ありゃ、お兄さんお久しぶりー」
「お、お兄さんじゃないです……っ」
むっとルーナが頬を膨らませ、現れたエフィを睨んだ。
エフィと他の冒険者四人もいた。アローの姿はない。
皆が手分けして荷物を持っていることから、恐らく冒険の準備をしていたのだろう。
「エフィは今日もタウロス迷宮か?」
「そうだよ! とにかくレベルを上げておかないとだからね! そっちはデート楽しんでねー」
「はい、楽しみますね」
デートじゃないんだけど、という言葉はルーナの言葉にかき消されてしまった。
エフィと別れた後、街を歩いていく。
と、ルーナは街の人たちを見て、ぽつりと呟くように言った。
「それにしても今日は人が多いですね」
「なんでも、5月1日の成人の儀に向けての搬入作業などが増えてきているらしいな」
「ああ、そうなんですね。そういえば、宿の店長も人の出入りが増えて喜んでいましたね」
成人の儀の際にはささやかではあるが祭りのようなものが開かれる。
5月などはそこまで派手ではない。
1月などの新年になるとさらに盛り上がったものとなる。
だから、12月に生まれるように子どもを作るというのが一般的に人気だった。
12月1日以降に生まれた子の成人の儀は、1月に行われるからな。
と、しばらく街を歩いているとルーナが腕から離れた。
「どうしたルーナ?」
ずっとくっついていたルーナが突然離れたものだから驚いてしまう。
と、ルーナはにこりと微笑み、
「兄さん。私も兄さんにプレゼントを買いたいと思います」
「……え? なんでだ?」
「兄さんにこれまでお世話になったからです。だから、一時間ほど分かれませんか?」
「……いや、別に俺はいいけど」
「駄目です。私からも何か兄さんに渡したいんです!」
……ルーナは一度決めると頑なだからな。
俺は諦めるように息を吐いた。
「分かった。それじゃあまた一時間後にここで集合な」
「はい! 楽しみにしていてくださいね!」
ルーナが元気良く手を振って去っていった。
……さて、一体何を買いに行くんだろうか。
俺は冒険者通りを歩き、しばらく時間を潰していた時だった。
「な、なんだ……あれは?」
不気味な、不安げな声が俺の耳に届いた。
と、同時……浮かんだ太陽に影が差す。
皆が次々にその空にいた物を見ては、指をさし、声を上げる。
俺もじっとそれを見ていたのだが、段々とそれは街へと近づいてきて――
「ま、魔物じゃないかあれは!?」
街の人々の不安げな声が伝染していった。
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