第31話
レベル上げとともに、ウォリアソードの強化も行っていく。
目安としては、一週間ほどだ。
まずはオーク迷宮。
こちらはウォリアソードの結晶を狙っての周回が基本になる。
……とはいえ、中々結晶が出てこないときもあるので精神的に苦痛な部分もある。
「……さて、どうするかね」
困ったのは攻略の途中だった。魔物相手に苦戦していた冒険者たちがいたのだ。
迷宮内では基本的に他の冒険者への干渉は禁止行為だ。
声をかけ、相手が許可を出した場合のみに限っては手を出して良いことになってはいるが……。
苦戦しているが、ギリギリ倒せそうにも見える。ただ、声をかけるのが遅れれば手遅れになる可能性もある。
そんなこんなで迷っていたのだが、
「くっ!?」
前衛に立っていた女性がオークの攻撃を受けて態勢を崩してしまった。
それをカバーするようにほかの冒険者たちが動き出す。
……連携が乱れてしまっているのが目に見えていた。
「大丈夫か、手を貸そうか?」
そのタイミングで俺は素早く声をかけた。オークが迫っている中、パーティーのリーダーと思われる女性が今にも泣きだしそうな様子で首を縦に振った。
「た、助けてくださいぃぃ!」
甲高い悲鳴のような声。オークがそんな彼女らへと斧を振り下ろすより先に、俺は大地を蹴りつけ一瞬でオークへと迫る。
「があ!?」
念のため、体を【シャドーアサシン】で拘束させてもらったが、その必要もなさそうだったな。
俺の速度にまるでついてこれていないオークの首を両断して見せた。
剣を鞘へとしまい、女性三人のパーティーをちらと見た。
「……大丈夫か?」
「は、はい……いたた」
前衛にいた女性が足をさすっていた。そんな彼女に、リーダーの女性が近づいて片手を当てている。
柔らかな光が生まれると、女性の足に出来ていたあざのような傷が消えていく。
回復魔法だ。久しぶりに見た。
俺にはまったくもって不要な才能の一つだが、世の中全体で見れば回復魔法が使える才能は非常に希少だ。
「とりあえず、怪我をしていないのなら良かった。この辺りから、魔物も強くなってくるから気をつけて行動するんだぞ?」
「は、はい……ありがとうございました! えっと、確か……エミル、さんでしたっけ?」
「ああ。名前、知っていたんだな」
……どうやら名前を知られていたようだ。彼女は目を輝かせながらこちらを見てきた。
「は、はい……! そ、そのギルドで勇者の方と戦った現場を見まして……」
あの決闘のときか。
確かに訓練場は決闘が行われていた前後以外は通常通りに解放されていた。
決闘が行われているときだけ、一時訓練などを中断させてはもらっていたが、確かにあの場にはギャラリーも多くいた。
「そういうことだったんだな」
「はい! そ、その時からファンになったんです! さ、サインをいただけませんか!?」
さ、サイン!? 彼女はペンと紙をこちらに向けてきて、目を輝かせていた。
「い、いや別にそういうのは……」
「だ、ダメですか……す、すみませんでした」
「いやダメというか……別に俺のサインなんて価値があるわけじゃないし」
「か、価値あります! わ、私の一生の宝物になりますから!」
……そ、そこまでなのか?
そういえば、有名な冒険者のサインなどを集めたがる人もいるとかなんとか。
また、そういった人のサインは高額でやり取りされることもあり、サインだけをひたすらに求めようとする人もいるとかなんとか。
「お、お願いできませんか? 彼女、なんだかエミルさんの大ファンになってしまったようで……。で、出来れば私も欲しいなぁ……と」
と、足を怪我していた女性もぺこりと頭を下げてきた。
さらにもう一人の女性も期待するようにこちらを見てくる。そこまでされると、断りにくかった。
「……わ、分かったよ。それじゃあまあ、とりあえず書いておくな」
俺は渡されたペンを受け取り、彼女らにサインをした。
……なんていうか、不思議な気分だな。
それから俺は再び攻略を再開し、ウォリアオークを無事討伐したのだが。
「あ、あれ……? エミルさん、また再攻略ですか……?」
手を出すかどうか迷った理由はもう一つあった。
驚いた様子で問いかけてくる先ほど助けた女性パーティーに、俺は苦笑をする。
「まあな。……今はウォリアソードの結晶を狙って周回中なんだ。それじゃあな」
「が、頑張ってください!」
……このように、攻略から攻略までのスパンが短いため、誰かの印象に残りたくなかった。
俺は彼女らを追い抜かすように迷宮をかけていき、再びオーク迷宮を攻略していった。
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