第30話
ギルド長への報告を終えた俺は、ルーナとともに街を歩いていた。
いつものようにまずはプレゼントを探していたのだが……
「ルーナ、おまえ……探す気ないのか?」
最近ルーナはただただ歩き回っているようだった。
俺の問いかけに、ルーナはニコニコと微笑んだ。
「だって、言ったじゃないですか。私、兄さんと一緒にこうして出掛けられるだけで満足だって」
「……」
恥ずかしいことを当然のように言ってくる。
俺が頬をかくと、ルーナは照れ臭そうに頬を染める。
「な、何か言ってくださいよ。……兄さんはどうですか? 一緒にこうして出掛けるの、楽しい……ですか?」
「……ああ、楽しいよ」
「それじゃあ、プレゼントはひとまず置いておいて……こうしてゆっくり街を歩いていきましょうよ」
ぎゅっとルーナが俺の左手を握りしめた。柔らかな感触。それからじんわりとした熱が彼女の手から伝わってくる。
……こうして一緒にいられるのが、一番のプレゼント、か。
これからもこのプレゼントを与えられるようにしないとな。
ルーナとともにしばらく歩いたところで、俺は彼女を見た。
「それじゃあ、そろそろ夕食でも食べに行くか?」
「はい、行きましょうか!」
近くの店へと入った俺は思わず眉根を寄せてしまう。
席の一か所にアローたちがいたからだ。
アローとその仲間たちが、共に食事をしているようだった。
「あ、アローさん今日はありがとうございました!」
「ええ、どういたしまして。ですが、あなた。あそこで無理やり突っ込んで……僕がいなかったら死んでいましたからね? 僕のおかげで依頼は達成できたんですから、それを肝に銘じておくように」
「……は、はい」
新しいパーティ―では……どうやらアローはリーダー的な立場になっているようだ。
仲間たちに酒を注がせ、どこか天狗のようになっていた。
……まあ、俺には関係ないけどな。
俺は彼らから離れた場所に座ったのだが、その時アローと目が合った。少し顔を赤くしていたアローが、はっ、と吐き捨てるように笑う。
「おやおや、ズルで決闘に勝利した再生の勇者様じゃないですか? どうしたんですか、こんな貧相な店に来て。僕たちからズルして巻き上げた金があるんですからもっと贅沢に使ったらどうですか?」
「……干渉はしない契約だっただろ?」
「これは独り言ですよ? 何勘違いして干渉してきているんですか? 契約、忘れたんですか?」
……う、うぜぇ!
ぶん殴りたかったが、ここで手を出せば俺も彼らと同罪だ。
俺はルーナと握っていた手を思いだす。
さっき考えたばかりじゃないか。
ルーナと一緒に生活していくには、俺が犯罪者になってはいけない。
俺はルーナとともに空いている席へと向かう。
と、ちょうど店主が苛立った様子でアローの方へと向かう。
「やっと酒の追加持ってきてくれたんですね? 遅すぎま――」
「貧相な店で悪かったな! 二度とくんじゃねぇぞ!」
店主は怒鳴りつけ、アローの前に置かれていた片付いた食器を引き下げた。
……呆気にとられた様子のアローは苛立ったように床を蹴りつけ、それから一人店を立ち去って行った。
「あー、ごめんね? えっと……エミルさんだっけ?」
と、アローと一緒にいた冒険者の女性が申し訳なさそうに笑う。
彼女に合わせ、他の冒険者四名もぺこぺこと頭を下げる。
「いや、大丈夫だ。こっちも無駄に絡んで悪かったな……えーと」
「あっ、ごめんごめん。アタシはエフィって言うんだ。よろしく!」
「そうか。こちらこそよろしく」
快活に笑うエフィという女性は、それから思いだしたように立ち上がった
「ごめんごめん。とりあえずアタシたちは弓の勇者様を追いかけてご機嫌とりしないと! そういうわけだから、じゃーね!」
「……ああ、気を付けて」
……残された他の冒険者たちはぺこぺこと頭を下げ、去っていった。
「……あんな勇者とどうしてエフィさんたちはパーティーを組んでいるんですかね?」
ルーナがぽつりと漏らす。
……あ、あんな勇者、か。
ルーナのアローを見ていた目は、それこそゴミでも見るようなものだった。
ただ、そんなアローがエフィたちとパーティーを組める理由は簡単だ。
「一応アローは並の冒険者よりも実力はあるからな。依頼をこなす上では一緒にいるのは悪くないと思う。レベルが近いのなら、アローの才能はレベル差を覆すほどに優秀な奴だから、ワンランク上の魔物とも戦って経験値が稼げるしな」
「……でも、一緒にいるのは嫌ですよ。なんか、悪評が広まっちゃいそうです」
「そう、だな。でも。冒険者だってそう長い時間活動できるわけじゃないからな。少しでも自分にとって利益があるのなら、利用したほうがいい。……上を目指すのなら、アローと一緒に行動するのは、彼ら冒険者にとっては悪くないことなんじゃないか?」
「……なるほど」
まもなく、俺たちのもとに料理が運ばれてきた。
……貧相な店、とアローは馬鹿にしていたけどこの店はこの街唯一美味しい魚料理を提供してくれるんだ。
運ばれてきた焼き魚の皿を、ルーナがささっと自分のところに引っ張っていく。
え、それ俺が注文したんだけど。
俺がじっと見ていると、ルーナがすっとこちらにほぐした魚を一口分フォークでさし、
「はい、兄さん。あーんしてください」
「……俺、自分で食べられるけど」
「ダメです。兄さんは今日一日迷宮攻略で疲れていますから。もう腕も上がらないくらいへとへとなんです」
「いや、ほらばっちり動くから」
「動きません。なんなら、動かないようにしちゃいますよ?」
「……物騒なことを言うんじゃない」
「もちろん、冗談です。可愛い妹ジョークです。はい、どうぞ。食べてください」
……俺は諦めて、彼女の差し出してきたフォークにかぶりついた。
周囲の嫉妬のまなざし。そして、ルーナは満足げに俺がかぶりついたフォークで魚を一口食べる。
「間接キス……ふふふ。はいどうぞ、兄さん」
そしてまた俺のほうに、差し出してきた。
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