第26話
「そういえば、もう一つ質問なんですけど……他の勇者たちは今何をしているんですか? さっき、アローを見かけて気になったんですけど」
「ん? ああ、そうだな。おまえからしたら気になるところだよな」
ギルド長の言葉に俺は頷いた。
当たり前だ。一応契約をしたとはいえ、向こうがそれを破って手を出してこないという保証はない。
俺を狙ってくれるのであれば全然かまわないが、ルーナに何かあってからでは遅い。
「ひとまず、アロー以外の勇者たちは全員街を出たな。その残ったアローも、一応騎士が一人常に監視でついているようだ」
「……そうなんですね」
「アローは思っていたよりも落ち着いているな。おまえも何もされてないだろ?」
「はい」
先ほどそこで見かけるまでアローが街に残っていることも知らなかった。
「他の勇者たちは一緒にパーティーを組んでいるんですかね?」
「はっきりとしたところは分からないが、街を出る寸前まで喧嘩をしていたし、一緒にいるとは思えないな」
……確かに、な。
彼らは勇者として一緒に行動はしていたが、別に仲が良かったわけではない。
もちろん、今だって勇者であるが……今回派手に喧嘩した以上、中々一緒に冒険者を続けるというのは難しいだろう。
俺としては、結託されなくてよかったとも思う。なぜか、逆恨みされてしまっているからな。
「ありがとうございます。それじゃあ、さっそくタウロス迷宮の攻略を行っていきますね」
「ああ、頼んだ。何かわかったら教えてくれよ。特に、迷宮のボスモンスターとかの情報は知りたいからな」
「はい……たどり着ければ」
俺はそう一礼をしてから、タウロス迷宮へと移動した。
タウロス迷宮。
久しぶりの攻略になるな。
……前回は攻略ではなく生き残るために戦っただけだ。
今回は、どちらかというと攻略とレベル上げだな。
今分かっているタウロス迷宮の情報はそれほど多くはない。
攻略が済んでいるのは10階層までだ。
その先の構造については何も分かっていないため、俺が攻略情報を提供するのであればそこから先となる。
道中の魔物も大事になるが、何よりもボスモンスター、そして何階層まであるかだろう。
ひとまず俺は、いつもの通りブラッドウルフをまとい、それから迷宮内を移動していく。
再生の勇者とのコンビネーションで無尽蔵のスタミナを手に入れた俺は、迷宮内を自由に駆け回っていく。
走っていると、魔物たちも俺に気づいて襲い掛かってくるのだが――。
「ぎゃ!?」
「ががが!?」
現れたダークスケルトンやアクアリザードマンなどは、もはや俺の敵ではなかった。
サクサクっと魔物たちを切り裂いていく。ブラッドウルフから憑霊を入れ替える必要もない。
……これほどまでにあっさりと倒せるとは思っていなかったな。
ウォリアソードのレベルが上がったのもあるだろうけど、やはり一番は俺自身のレベルだろう。
サクサクっと魔物を討伐しながら先へと進んでいき、俺は10階層へと到着した。
10階層……以前俺はここでスパーダたちに捨てられた。
……懐かしい、と思える自分に少し驚いていた。
どうやら、俺はここでの体験を悪い記憶とは思っていないようだ。
捨てられたときは、それこそ絶望したものだったけど、今は……あの経験が無ければ得られなかった力を手に入れたんだしな。
10階層についた俺は早速、迷宮攻略をすすめていく。
まずはミノタウロスの確認からだ。
……ヘビーミノタウロスの姿はやはりない、か。
俺は小さく息を吐いてから、10階層を歩いていく。
発見できたのはミノタウロス、ブラッドウルフのみだ。
それらを討伐していくのだが、まるで苦戦することはない。……スパーダたちは、そもそもこの階層でさえわりと厳しい戦いを繰り返していたものだ。
……俺はかなり成長しているんだな。
それから俺は10階層を難なく攻略していき、さらに階段を下っていく。
11、12……と同じような魔物しか出現することがなかった。
そして15階層に到着する。
一般的な迷宮であれば、そろそろ最奥になるはずだ。
逆にこれからさらに伸びるような迷宮だと、周回が面倒になるため不人気な迷宮になりやすい。
さて、この迷宮はどっちだ? そう思いながら俺が階段を下りたときだった。
……そこには大きな空間が広がっていた。
どうやら、ここがボスモンスターの部屋で間違いないようだ。
「15階層が最奥で、その道中までの魔物に特に目新しいものはいない、と」
俺はそれらのメモを残してから、そのボスフロアをじっと見ていた。
やがて、迷宮の中央に一体の魔物が出現した。
……それは人型の魔物だ。
黒色の鎧をまとったそいつは黒い霧のようなものをまとっていた。
……頭はない。デュラハン、と呼ばれる魔物がこれに近い見た目をしているかもしれない。
右手には大剣が握られている。俺が両手で何とか振り回せそうなその剣を、デュラハンは片手で持っていた。
「……とりあえず、討伐しようか」
俺には再生の勇者がある。
だから、どんな相手であろうとも負けることはない。
――そう思っていた次の瞬間だった。
俺の首が落ちていた。
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