第22話
オークの名前は暫定的にユニークオークと名付けた。
変な名前で済まないが、こちらには一切の情報もなく、鑑定も使えないために調べる手段がなかったからだ。
俺がじっとユニークオークを睨んだ瞬間だった――その姿が消えた。
……本当に消えたわけではない。俺の目で追える速度を超えたために、そう見えただけだ。
音を頼りに振りぬいた剣は、ユニークオークに紙一重でかわされる。
瞬間、眼前で彼の刀が動いた。
刃が見えたと思った次の瞬間には、鞘へと刀が戻っていた。
次の瞬間、俺の右腰から左肩にかけ、鋭い一撃が走った。
血が噴き出し、俺は顔を顰める。
……居合。確か、才能【侍】というのを持っている冒険者が使っていたのを、俺は一度だけ見たことがあった。
俺は憑霊ブラッドウルフでもここまで対応に苦労するとは思わなかった。
敵の攻撃は――速すぎる。
だが、付け入る隙はある。俺の胸を斬り飛ばしたことによって、ユニークオークは完全に仕留めたと思ったようだった。
俺はそのまま倒れるように見せかけ体を傾け――そして、剣を握りしめる。
地面を蹴りつけ、そのまま剣を振りおろす。
俺の剣がユニークオークへと届く寸前――。彼の刃がきらりと光り、俺の左腰から右肩へと、斬撃が襲う。
油断、していたはずだ。
だけど、そこからでも俺よりも速いなんて――!
十字に斬られ、その衝撃に俺の体が弾かれた。
地面を転がり、すでに再生していた腹の傷を見る。
……傷は治っても、服までは戻らない。アイテムボックスに予備の服を入れておいてよかった。この格好で外を歩けば、俺が騎士のお世話になるかもしれない。
……そんな冗談は頭の片隅に追いやりながら、ユニークオークを見る。
……魔力!? 何か、魔力の塊のようなものがこちらへと飛んでくる。
不可視のその一撃を、俺は魔力の感知のみでかわす。
俺が横に跳んだ瞬間、ユニークオークの刀が一瞬だけ光り、俺が先ほどいた場所を斬撃が襲った。
あ、あの居合。遠距離に斬撃を飛ばせるのか!?
なんて便利な能力なんだ。
態勢を立て直した俺が足を動かそうとしたとき、急に足先の感触がなくなり、体が傾いた。
見れば……斬撃によって左足が切られていた。
……一瞬で、まさか、な。
あまりにも速すぎる斬撃――ブラッドウルフでも対応しきれず、俺は続いて襲い掛かってきた斬撃に体を弾かれる。
大地を転がりながら、剣を握りしめなおす。すでに足は再生し、切り落とされた足は消滅していた。
横に跳んだ俺だったが、その回避した先に斬撃が置かれていた。
「ぐ!?」
自ら斬撃の中へと飛びこみ、顔を切り刻まれた。
血で前が見えない。
ゴロゴロと転がっていると、迫ってきていたユニークオークの刀に四肢を吹き飛ばされ、頭を落とされ、心臓を貫かれた。
刀に差されたまま、体が持ち上げられる。
俺の体が再生した瞬間、ユニークオークが再び心臓へと剣を突き立てて来た。
俺はしかし、【憑霊シャドーアサシン】へと切り替え、操った影によってユニークオークの体を背後から貫いた。
ユニークオークは驚いた様子で俺の体へ刺した刀を振りぬき、俺を吹き飛ばす。
むせながら体を起こした俺は、すぐに立ちあがり、影で拾ってきた剣を握りしめる。
ユニークオークが一つ呼吸をおいてから、刀を振りぬいた。
斬撃が襲い掛かってきたが――見えた。
その攻撃を横へとかわし、肉薄する。振りぬいた俺の剣を、ユニークオークは寸前でかわす。
返しの居合に対して、剣を振りぬいた。
キン! という金属音。
俺はユニークオークの一撃を防いでみせた。
「――ハァ!」
俺はユニークオークへと剣を叩きつけていく。
気づけば、ほぼ互角の力関係となっていた。
俺がウォリアオークに変えれば、剣術さえもそれほど変わらないほどになる。
俺たちの打ち合いは続き、そして――ユニークオークの動きが鈍っていく。
……俺の動きが変わったわけではない。
俺は常に全力で戦い続けられるだけだ。
ユニークオークは、俺を仕留めるための全力を放ち続けた。
その結果、疲労が溜まり、わずかながらの動きの乱れが生まれ始める。
ゆっくりと、だが確実に。
毒が体を蝕むように、俺とユニークオークの力関係が逆転する。
そして、俺の剣がユニークオークの胸を貫いた。
ごほっと、血を流し、ユニークオークの体が傾く。
「――これは引き分けだ」
ユニークオークを仕留めるために剣を構えた。
……スタミナ切れによる勝利。
確かに立派な勝ち筋の一つだろう。
だが――
「――次は、おまえの全力をねじ伏せる」
そう宣言して、俺は剣を横薙ぎに振りぬいた。
ユニークオークの首を飛ばし、
新たな目標が一つできた。
次に、ユニークオークに対面するときは……全力の彼を仕留めてみせる。
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