第19話
ブラッドウルフと【再生の勇者】の相性は抜群だった。
というのも、再生の勇者のおかげでどれほど走ったとしても息切れするということがない。
ブラッドウルフで強化された足で、ひたすらに迷宮を駆け回れるというわけだ。
一階層に五分もかからないとはいえ、全力疾走を維持していっても3分程度はかかる。
そのため、15層にたどり着いた時点で40分程度かかってしまう。
加えて、ウォリアオークを仕留める必要もあるため、早くても一周当たり45分を切るかどうかというタイムだった。
……これは中々厳しい。とりあえず午前一杯で4回挑んだのだが、今のところドロップはない。
昼ごはんは時間こそ短いが、しっかりと摂る。
ルーナが作ってくれたごはんだからだ。しっかりと味わう必要がある。
再生の勇者のおかげで食事の必要もないのだが、食事自体は好きだから食べるけど。
一周45分が安定してくると、次の目標として40分を切りたくなってくる。
そうやって、何度も何度も周回していき――。
午後7時40分。
今日は遅くなるかもとルーナに伝えてはいたが、これが最後の挑戦になりそうだ。
ここまで一切休憩なく周回した俺は、午後に11回挑戦することができた。
午前と合わせて合計15回。
これで切り上げようかと思い、最後の宝箱を開けたときだった。
宝箱が金色に輝くと、煙をあげて消滅する。今までとは違う。
煙が晴れたそこには――一振りの剣があった。
う、ウォリアソードだ!
ウォリアオークが持っているものよりも一回り小さいが、そいつは間違いなかった。
俺はそれを握ってから、アイテムボックスへとしまう。
迷宮内のアイテムは呪われている可能性があるからな。
きちんと鑑定してから、装備する必要がある。
「……でも、15回で終わってよかったな」
人によっては欲しい武器の周回を一年近く行っても出ないということもある。
まあ、常人の多くは攻略できたとしても、一日2回程度なのも理由の一つだが、運が悪い人はとことん運が悪いのだ。
ウキウキ気分で迷宮を脱出した俺は、そこから全力疾走で街へと帰還する。
街へと帰還した俺は、すぐに鑑定士のところへと足を運んだ。
俺が会いに行った鑑定士はこぢんまりとした出店の中にいて、ちょうど店を閉じようとしているところだった。
「すみません……まだ鑑定ってやってもらえますか?」
「んー? 仕方ないな。一つだけならいいよ?」
鑑定士は優しい人だった。俺はほっと胸をなでおろし、彼にウォリアソードを渡した。
それから彼はすぐに手元の紙へとペンを走らせ、こちらに渡してきた。俺は鑑定料5000ゴールドを支払い、鑑定結果である鑑定票を受け取った。
「文字は読めるかい?」
「読めます、大丈夫です」
「そうかい。それじゃあ、またごひいきに」
にこりと鑑定士が微笑み、今度こそ店を閉めた。
俺は深く頭を下げてから、鑑定票を見た。
【ウォリアソード レベル1(1/1000) 物理攻撃力+10パーセント】
おお、なかなかのあたりだ!
ギルドで情報を購入したのだが、ウォリアソードに付与されているのは物理攻撃力のパーセント強化だそうだ。
数値としては1~15パーセントまでが現在確認されている。
特に呪われているということもないようなので、これをしばらくはメイン武器として使っていっても良いだろう。
そのためにも、あとはマジックコーティングを行う必要がある。
ひとまず俺は、ウォリアソードに魔力を流し込み、装備する。
これで、ウォリアソードの恩恵を受けることが出来る。装備品の恩恵は三つまで受けることができる。
俺は装備を二つしか持っていないので、一応アリストソードの効果もまだ残っている。
解除する場合は、登録した魔力を放出すれば済むのだが、今は使うことはない。
鍛冶工房はまだあいているだろうか? わりと遅い時間までやっていることが多いので、大丈夫だと思うけど。
俺はすぐに鍛冶工房へと移動する。
明かりがついており、俺はその店へと飛び込んだ。
「まだ依頼って頼めますか?」
声をかけるとドワーフの男性がこちらを見てきた。
「ああ、いいよ。なんだ?」
「この剣にマジックコーティングをお願いしたいんですけど」
「あいよ! それじゃあ、代金として5万ゴールドだ。あるか?」
「はい、持っています」
代金を支払うと、ドワーフはこくりと頷いた。それから彼は近くにいた店員の女性に声をかける。
彼女が何か紙に記していく。
ウォリアソードを預かったこと、預かった時間、依頼内容などが書かれている。それに、ドワーフと女性がサインをし、俺もサインを行った。
「それは引換券になるからな、絶対なくすなよ?」
「分かりました」
「マジックコーティングはそんなに時間かからねぇから明日の朝また来な」
「ありがとうございます!」
……よし、これで明日も迷宮攻略に出かけられそうだ。
すべての予定を達成した俺は、少し遅くなってしまったが宿へと帰還する。
アルバイトを終えたルーナが待っていて、俺を見ると笑顔で駆けつけてきた。
「兄さん、どうでしたか?」
「かなり順調だったよ。レベルも滅茶苦茶あがったしな」
「さすが兄さんですね。それでは夕食はどうしますか?」
「どこか食べに行くか?」
「はい!」
ルーナが嬉しそうに腕を組んできて、俺たちは宿を出る。
歩きながら俺は、今日の成果を確認するように現在のステータスを確認した。
エミル 男 18歳
体レベル 2412
才能:【再生の勇者:レベル2412】【憑霊ブラッドウルフ:レベル2200】【憑霊ミノタウロス:レベル2019】【憑霊シャドーアサシン:レベル1954】【憑霊ヘビーミノタウロス:レベル1765】【憑霊ダークスケルトン:レベル1616】【憑霊アクアリザードマン:レベル1415】【憑霊ウォリアオーク:レベル312】