第14話
「お前が一度でも、オレたちに勝てたことがあるかよ?」
スパーダはそう言って、腰に差していた剣を抜いた。
騎士が俺たちの間に一度入ってから、コインを取り出した。
「再確認です。この決闘では、どちらかが参ったと言うまで続けます。ただし、相手の身体に悪影響が出るほどの怪我を負わせる攻撃は禁止です」
「はい」
「ああ」
俺たちが頷きあうと騎士はコインを指に乗せた。
「それでは、コインを空へと投げます。地上に落ちた時点で試合開始となります。準備はいいですね?」
俺たちが騎士に頷くと、騎士は指でコインを弾いた。
コインが宙を舞い、それが回るのを俺は眺めていた。
スパーダはいつでも駆け出せるように腰を落としていた。剣を地面と水平に構え、両手に持っている。
そのコインが地面に落ちると同時、スパーダが大地を蹴った。
「死ね!!」
……殺す気かい。
騎士の言っていた発言を忘れたのだろうか?
相手を殺すことは許されていない。
スパーダはしかし、よほど俺に対しての怒りが溜まっていたのだろう。
……決闘を受けて良かったな。これだけのことを当然のように実行するスパーダが、大人しくしているはずがないからな。
【剣の勇者】は、剣を握っている間に発動する才能だ。
その才能は爆発的な身体強化と、剣術の腕前が歴史に名を残すほどにまであがるというものだ。
恐らく、スパーダたちも、ヘビーミノタウロス一体ならばどうにか倒すことはできただろう。
あの時、複数いたからこそスパーダたちは慌てていたわけだしな。
彼の剣はあまりにも速く、さすがに身体能力が向上しているとは言え、かわすのは難しい。
胸を斬られた俺は僅かに感じた痛みを理解する。
「スパーダ! 今すぐに攻撃をやめ――」
「いえ、大丈夫ですから」
騎士とギルド長がスパーダを止めるために動き出したのを、俺は笑顔で制した。
深々と切られ、血は噴き出している。
本来ならば、もっと痛みはあるだろうし、出血を抑えなければならないのだろう。
……しかし、【再生の勇者】のレベルが上がった今、その程度の傷は痛みと言えるほどのものではなかった。
難しい感覚なのだ。
痛い、というのは自覚できる。ただ、その痛みに苦しむようなことはない。
痛みに鈍感になってしまったのは、決して良いことだらけではないだろうが、この戦闘においては使い勝手が良い。
スパーダはその一太刀で決めたと思っていたようだ。
しかし俺は平然と剣を振りぬいた。スパーダはまさかその状態の俺から反撃をもらうことになるとは思っていなかったのだろう。
俺の振りぬいた剣が、スパーダの右腕を浅く切り裂いた。
「ぐああ!?」
彼は大きな悲鳴をあげて、剣を手からこぼした。
……そこで、俺と彼の力関係が逆転した。
そもそも、スパーダは痛みになれていないようで先ほどの一撃ですでに心が折れかけていた。
憑霊を使うこともなく、まさか勝てるとは思っていなかった。
……こいつ、完全に油断していたよな。
スパーダははっとした顔で剣を握りなおそうとしたが、そんな彼へと剣を突きつけた。
「降参しろ」
「……ふ、ふざけるなよ! お、おまえだって重傷――」
そう言おうとしたスパーダは俺の胸を見て目を見開いていた。
先ほどスパーダにぱっくりと斬られた胸の傷は、すでに再生していた。
「これが、【再生の勇者】の力みたいなんだよ」
レベルが低いときは回復力が果てしなく遅かった。
しかし、レベルが上がった今はあの程度の傷は再生できる。
俺の胸を見たスパーダは顔を青ざめさせながら剣を握ろうと体を動かす。
「く、くそが!」
俺がそれを黙って見守るわけもなく、その背中を切りさいた。
「い、いてぇええ!」
一応、浅めに斬りつけた。さすがに、スパーダは商品だし、ルールだしな。
しかし、スパーダは背中の痛みを誤魔化すようにその場でのたうち回っていた。
涙と声を好き放題出し続けた彼の首元に、再度剣を突き付けた。
「ひぃ!」
彼はすっかり怯え切った目をしていた。震えるような目で俺を見上げた彼に、微笑みかけた。
「……どうする? このまま続けるか?」
俺がそういうと、スパーダはかたかたと体を揺らし、首をもぎとれそうなほどに必死に横に振った。
「こ、降参だ! や、やめてくれ殺さないでくれ!」
「それでは、奴隷として――国で購入しましょう」
「い、嫌だ!」
騎士がすかさず、こちらへとやってきた。
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