第12話
スパーダをはじめ、皆が俺を睨みつけてくる。
いや、俺関係ないだろ……。
……これまでの輝かしい姿はどこにもない。
それから、しばらくして、別の騎士が部屋へと入ってきて、さまざまな荷物を運び込んできた。
「お、おいそれは宿に預けてたオレたちの道具じゃねぇか!」
別の騎士はそれらの荷物を運び終えると、敬礼をした。
「彼らは金融資産などは特に持っていなかったようです。ここにあるもので彼らの荷物はすべてになるはずです」
「ああ、わかった。下がっていい」
話の進行を行なっていた騎士が命令口調で言うと、荷物を運んできた騎士は一礼の後に立ち去った。
騎士はそれらの荷物も鑑定していき、笑みを浮かべた。
「ざっと1900万ゴールドまで行きましたね」
……こいつらすげぇ金持ってたんだな。
パーティーで一つ持っていたアイテムボックスまで売却することになったため、それだけの金額となった。
とはいえ、彼らが持っているアイテムボックスは大した大きさではない。
精々、多少の素材や食料などを入れておくためのものだ。
それにしたって、みんな結構金持ってたんだな、と思った。
それだけ、冒険者として稼いでいたんだろう。
俺はその一割ももらっていなかったが。
……とはいえ、確かに荷物持ちしかできていなかったので仕方ないといえば仕方ないか。
「残り100万ゴールドは依頼達成時の報酬による支払いをお願いします。それでは最後にこちらへ署名を」
騎士が紙を勇者たちに渡す。その額ならば、最悪支払われなくても構わない。騎士からはそんな雰囲気が感じられた。
勇者たちは眉間をゆがめながら、俺を睨んでいた。スパーダはその紙をちらと見てから、さらに表情をゆがめた。
「……な、なんだよこれ!」
「そんな驚かれることではないですよね? エミルさんへの報復をしない、今回の装備品などの売買は合意の上で行われたというもののサインとなります。エミルさんはこちらへのサインを」
俺が騎士から渡された紙も、似たようなものだ。
これで、スパーダらも罰は受けたのだから、これ以上過剰に何かをすることはしないように、というものだった。
もちろん、俺はそれにサインを行う。しかし、スパーダたちはサインをためらっていた。
……もしかしたら、報復する気だったのかもしれないな。
「どうしたんですか?」
騎士が顔を近づけたときだった。スパーダが舌打ちをして、こちらを見る。
「おい、エミル!」
怒鳴りつけてきた彼がこちらに指を突き付けてきた。
「なんだ?」
「最後にオレと、決闘しろ!」
「……決闘? どういうことだ?」
突然の申し出に、俺は首を傾げるしかない。
この状況での申し込みに、まるで脈絡がない。
……普段からスパーダは何を考えているのか分からなかったが、今はそれに拍車をかけていた。
スパーダはどこか得意げな笑顔とともに、こちらを見てきた。
「ああ、そうだよ。まさか、逃げるつもりはねぇよな?」
「……」
俺は少し息を吐いた。
分かりやすい挑発だ。それで俺が乗ってくると思っているのだろうか?
「俺が受ける意味はまったくないと思うが」
「おいおい、ビビッてんのか?」
「いや、そうじゃなくて。普通に何も意味ないだろ?」
「うるせぇよ! こんだけのことをしておいて、てめぇを一発くらい殴らないと気が治まらねぇんだよ!」
「……」
い、今の挑発が一番イラっとした。
先ほどのスパーダはきっと、挑発でもなんでもないのだろう。それは、彼の真剣そのものな眼差しから理解できてしまった。
スパーダは本気で自分が被害者だと思っているんだ。
……俺とスパーダは、すでに力の差がある。
とはいえ、彼には【剣の勇者】がある。剣を握れば、かなりの力を発揮するだろう。
負ける、とは思っていないが何度か攻撃をくらうことはあるだろう。
さて、どうしようか?
……この決闘に関して実は俺にもメリットがある。
スパーダはまったく気づいていないようだし、気づいてもさすがに口には出せないだろうが。
俺のメリットはそう、簡単だ。
勇者たちに今の俺の力を見せつけられるからだ。
そうでもしないと、こいつらは約束を破って報復行為に走る可能性がある。
俺だけならばもちろん構わない。だが、ルーナまでもその対象にされる可能性がある。
……ここで、力の差を見せつけておけば、彼らの俺への反撃行為も抑えられるだろう。
……とはいえだ。
スパーダに俺のメリットは見えていない以上、何かしらを要求してみるのもいいだろう。
「それならスパーダ。もしも、敗北したら何を払ってくれるんだ?」
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