第10話
俺が呼ばれた場には、ギルド長のほかにも騎士がいた。
騎士がこの場にいるのは珍しいのだが、騎士は法の番人でもある。冒険者同士の問題が発生した場合、その仕切りを行う。
わざわざ騎士がここにいるということは、つまりそういうことなのだろう。
俺は一人で来たため、まずは勇者五人に睨まれるという圧力に少しだけ怯んだ。
……もう、前とは違うんだ。
昔は怯えるしかなかったけど、今はもう戦う力を手に入れた。
俺は指定された席へと座る。ギルド長と騎士は俺と勇者たちを一望できる位置に腰かけていた。
スパーダ以外の四人が、こそこそと話し合っていた。
「本当に……生きていやがったのか」
ブロックがそうこぼした。……あの状況で生きているとは思っていなかったようだ。
ブロックだけではなく他の全員とも、俺が死んだと思っていたようだ。
確かに、普通ならば死んでいただろう。
俺がたまたま、死なない体を持っていたから助かっただけだ。
……それだけのことをやってしまったという自覚はないようだったが。
同時に……今回の話し合いで俺側に不利益は生まれないだろうとも思った。
先ほど、ブロックが俺の生死について語った時点で、勇者たちの立場を理解したからだ。
「それじゃあ、処罰について話し合っていこうじゃねぇか」
ギルド長の宣言で、確定した。
……恐らく勇者たちは酒の力もあって、あっさりと話したのだろう。
「ひとまずだ。ギルドの規則に則っての対応は――ギルドカードの剥奪だ。しかし、それは騎士側としても出来れば避けてほしいんだろ?」
ギルド長の宣言に、勇者たちの顔がひきつり、すがるように騎士をみた。
騎士はちらとギルド長を一瞥して、小さく頷いた。
「そうですね。確かに今回の彼らの行動は大いに問題があります。ですが、勇者の才能もまた貴重なものです。その可能性を完全に潰してしまうのは、というところですね」
……なるほどな。
「つーわけでだ。エミル。今回は賠償金のみで勘弁してはくれないか?」
ギルド長がそう言ってきた。
……落としどころとしてはそこが無難だろう。
俺としても、とりあえず命は助かったんだ。もちろん、色々な思いは抱えているが、勇者たちを追い込みすぎても危険だ。
……この勇者たちはみな冒険者以外にすがるものがない。
彼らから冒険者の権利までも剥奪したとしよう。
失うものがなくなった彼らが何をしでかすかわかったものじゃない。
「分かりました。ただ、それなりの金額は要求させてもらいます。こちらは命がかかっていたんですから」
「てめぇ……」
スパーダが唸るような声をあげる。いや、彼だけではない。残りの四人も同じように俺を睨んでいる。
これだけだと、まるで俺が何か悪いことでもしたかのようだった。
彼らの面の皮の厚さには、本当に驚かされる。
「今回に関して状況をまとめますと、日頃から扱いが悪かった、また仲間を囮に生き延びようとした、そして、その際に一切の抵抗ができないようパラライズの魔法を使ったという部分が問題点ですね。……賠償金として、2000万ゴールドが妥当なところでしょう」
勇者たちを遮るように騎士がそういった。
……飛び出した金額は俺の想定よりもはるかに多い。
正直、驚いて声を出しそうになった。
「だそうだ。どうする?」
ギルド長がちらと見てくる。
この金額が、命を奪われかけた代償として多いものなのかは分からない。
ただ、裕福な生活を送ったとしても一年で500万もあれば、俺とルーナが生活するには十分すぎる資金だ。
四年分の資金と考えれば悪くはなかった。
……これでルーナに楽をさせてやれるな。
実を言うと、勇者パーティーとして活動していたときは、毎日の生活費程度しか報酬はなかったのだ。
スパーダたちが、荷物持ちにあげる金はない、と言っていたからだ。
ルーナが旅先でアルバイトをしてくれていたおかげで、俺はなんとか生活できていたわけだ。
「分かりました」
俺が頷くと、ギルド長と騎士もこくりと頷いた。
騎士が手元の紙にペンを走らせ、それからギルド長もそこに何かをかいた。
二人がサインを終えると、紙がこちらへと向けられる。
「こちら、今回の賠償金に関しての決定については我々が責任者となります。両者ともに、こちらを確認した上でサインをお願いします」
それには、賠償金の支払いとして2000万を支払うように、というのが正式な文言によって書かれていた。
俺はもちろんサインした。
俺がサインを終えたのを確認すると、騎士がスパーダたちの方へと持っていった。
スパーダはその紙へとサインをしていく。他の勇者たちも素直に従っていた。
「それでは、スパーダさん。今すぐに支払いをお願いします」
騎士がそういった瞬間、スパーダはにやりと笑った。
「オレたちはそんな大金を支払う金はねぇ! 今すぐには無理なんだよ!」
……何か、策があるのだろうか?
そのとき、ふとある事が思い浮かんだ。
……そういえば昔。似たような事件があったそうだ。
その時、賠償金の支払いを求められた者は、他国へと逃亡してそのまま行方不明となったとか。
……もしかして、スパーダたちもそれを考えているのだろうか?
スパーダはにやりと笑みを浮かべたままだった。
「そうですか」
騎士は淡々と答える。
「ああ、だから、ひとまずは依頼達成時の数パーセントを――」
「それでは、これより装備や身につけている物を買い取りますね」
「はあ!?」
騎士の容赦ない発言にスパーダは驚いたような声をあげた。
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