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二十三話 夢幻世界④ 初戦闘

「気をつけろ、ファン。あれはツインウルフだ。常に二頭一対で動く。バラバラに動くことはないから、一頭相手だと思えばいい」


 ルクスの話を聞きながら、ファンはツインウルフに向けてバックラーを構える。背後からは「ほぅ……」とルクスの感嘆の声が聞こえてきた。


 バックラーを常に向けながら、一歩、また一歩と詰め寄る。鋭い爪を剥き出しにして、二頭一対のツインウルフは、ダラダラと涎を垂らしている。


「ファン」


 後ろからセリの声が聞こえる。それでもファンはツインウルフを見据えたまま振り返ろうとはしない。我慢しきれなくなったのはツインウルフの方。二頭纏めて飛びかかってくるが、セリの放ったボーガンが片方の目を潰すと、ツインウルフは二頭とも悶え苦しみ地面を転がる。


「なんで無事な方まで……」

「それがツインウルフの特徴だ。攻撃に関して言えば二つの口に四つの腕と特化しているが、防御となると二頭一対なため、どちらかが傷を受ければ、目の前のようになる。大して強い魔物ではないよ」


 試しにファンは、無事な方のツインウルフに近づくとショートソードを振り下ろす。片方がファンの手によって絶命すると、もう片方もピクリと動かなくなってしまった。


「なんか意外なほど簡単だったな」

「ツインウルフの本領は群れだ。恐らくこれは、群れから逃げて来たのだろう。油断は駄目だぞ」

「そう……だな。危うく浮かれる所だった。ルクス、ありがとう。それにセリもいい攻撃だったよ」

「わっちは別に……」


 照れたセリは顔を背け他人事のような態度を取るも、やはり嬉しいのか落ち着かない様子であった。


 しばらく段差を下っていくと、先に、ポツリ、ポツリと明かりが見え始めてきた。


「どうやらこの広い空間で、皆休憩しているようだな。本格的に潜る前の下準備と言ったところか」


 ルクスの意見に、答えを知っているファンも賛同したふりをして頷く。


「我々も一休みするか?」

「そうだね……アミラも眠そうだし」


 ここまで長い時間歩き疲れたのか、歩きながらもこっくり、こっくりと船をこぎだしていた。


 なるべく他の探索者達と距離を取りつつも、視界に入る場所を選びファンとセリはシートを敷き始め、そこにアミラを横にする。毛布を取りだそうとファンが自分のリュックを開いた時、リュックの中の一番上に白く大きな物体が場所を取っていた。


「なんだ、これ──えっ!?」


 ファンは目を丸くして驚く。それは紛れもなく枕であった。出かける直前、確かにリビングの自分の椅子の上に置いた枕である。


「ファン、どうしたのさ?」

「あ……セリ。いや、これ……」

「ああ。その枕かい? 全く置いていけばいいのに、またリュックに入れるもんだからさ。枕が変わると寝られないのかい?」

「入れた? 誰が?」

「誰って……ファンしかいないさね。わっちが見てたから間違いないよ」


 自分が入れたと聞き、身に覚えのないファンは寒気を感じる。何か不味いと感じてすぐに毛布を取り出すと、枕をリュックへとしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 セリが温かい飲み物を用意してくれている間、しばらくルクスと共に休んでいたファンは、自分達がやって来たダンステン洞窟の入り口の方角から騒がしい一団が入って来たのに気づく。


「随分な大所帯だな」


 一団の大きな声が洞窟の広い空間に響き渡り、気が休まらない。ルクスが一言言ってやるといきり立つが、それをファンは揉め事を嫌い止めた。


「ファン。誰かこっちに来るさね」


 ランプの明かりが自分達の方へ寄ってくる。ファン達に近づいていくと、その風体が明らかになってきた。


 がに股で軽薄な笑顔の若い男性。「やぁ!」とアミラが起きかねない大きな声をかけてきて、ルクスの眉間が険しくなる。


「おや、女性ばかりとは珍しいね」

「俺も居るぞ」

「ああ、すまない。僕はきれいな女性にしか中々目が行かないんだ」

「だったら眼鏡でも掛ければいい」


 セリとルクスは、この男から距離を取ろうと自然にファンへと寄り添う。


「それで、何か用か?」

「うん。実はね。僕達は、あ、あそこにいる連中なんだけど、一気にこのダンステン洞窟を攻略してやろうと思っててさ。仲間を集っているのだけど、よかったら君たちもどうだい?」


 なるほどとファンは思ったが、それは危険が伴うことをちゃんと理解していたようで、即刻断りを入れた。


「そうか……残念。そこの君達はどうだい?」

「わっちとファンは一心同体さね。ファンが行かないのに行くわけないさ」

「我々のリーダーもファンだ。ファンが断る以上一緒に行く道理はない」

「むにゃ……行きゃない……」


 起きているのか、寝言なのか、アミラにまで断られて男性は「そりゃ残念」と薄ら笑いを浮かべて立ち去っていく。


「けど、どうしてファンは断ったんさね?」

「リンネが言っていただろ。探索者があまり組まない理由を。もし攻略の証明が一つなら、必ずいざこざが起こる。それに……」

「それに……何さね?」

「新人の俺達が壁にされるのは目に見えていたからな。誰が言い出したのか知らないが、そいつらは後ろでのうのうとしているのが」


 ルクスはファンの分析を聞いて、また「ほぅ……」と感嘆の声を上げる。実はファンが断ったのはそれが本当の理由ではない。このダンステン洞窟をクリアするのはバルスだ。彼らではない。


 失敗することがわかっているのに乗るはずはなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ガヤガヤと騒がしい声が遠ざかり、ようやく気持ちを落ち着けるファン達。どうやら誘われたのは自分達だけでなく、他の探索者もチラホラといるようで、灯り代わりにしていた火が幾つか消えていた。


「何をしているんだ? ルクス」


 自ら発光する明かりを利用してルクスは何かを紙に記入していたのをファンが覗き込む。


「地図か」

「ああ。噂では攻略した証明として地図を提出するらしいからな。書いておこうと思って。何せ、我はどうも迷子になりやすくてな」

「そうなのか、しっかり者の感じがするけど」

「どうも複雑な造りの建物等でも迷う性格なんだよ。だからこそ、アミラと知り合えたのだがな……」

「えっ?」

「あ……いや、済まない。聞かなかったことにしてくれ」


 あからさまに動揺したルクスであったが、ファンはそれ以上何も聞かないことにした。パーティーとして組む際、そう約束したから。


「二人とも。わっちがまずは見張りしておくから、早く体休めるといいよ」

「そうか? セリ、済まない。少し休んだら代わるから」

「じゃあ、取り敢えず目を瞑って疲れを取るよ。時間になったら起こして。あ、絶対だぞ!」


 二時間ほど経過してルクスに起こされるまでファンは一眠りするのであった。


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