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十八話 現実世界④ ダンステン洞窟

 手続きを終えたルクスが戻って来ると、ファン達は出発するべくギルドを出る。今にも雨が降りそうなどんよりとした雲が先行きの不安を表していた。


「ダンステン洞窟は西だったな。それじゃ、行くか」


 ファンは自分の荷物を背負うと、アミラの荷物も手に取り肩に背負う。


「ちょっと。自分で持てるわよ!」

「いいから、いいから」


 採集ギルドでは背負籠(しょいかご)を良く使用して、薬草や野草だけでなく、鉱石等を運ぶこともあり、ファンは背負うということに慣れている。しかし、アミラにしてみれば再び子供扱いされたことになり、プンスコと怒りを露にしていた。


 ゴルゴダの街の西門にいる兵士に街を出る理由を伝えると、門の通りを許可される。リーダーと先行して進むのはここまでで、その先の行き方がわからないファンにとって、皆にこっそり歩調を合わせることで、然り気無くついていくしかなかった。


 だだっ広い平野が続く。身を隠すような場所は無いが、逆に言うなら襲われてもすぐに発見出来る。ファン以外女性のパーティーなら、そこそこの小悪党程度でも、警戒することなく襲ってくる可能性は高い。


 三時間近く歩くと、広い平野とはいえ振り返っても最早ゴルゴダの街は見えなくなる所までやって来た。すると目的の方角の地平線から馬車らしきものが此方へ向かってくる。

そのスピードは尋常ではなく、あっという間にファン達の側までやって来て、過ぎ去っていく。


「アハハハハ、探索者なんて楽勝だぜ!」

「本当、本当。必死こいてやってる人が憐れよね」


 一瞬であったがファン達の隣を過ぎ去る時に、馬車からこんな会話が聴こえてきた。もしかしたら、ファン達に向かって言ったからかもしれないが、一瞬であったため、真偽はわからない。


「なんだあ? 危ない馬車だな」

「……貴族のボンボンなんだろ。恐らく探索者になりたての。ボンボンともなると攻略云々より楽して無事に過ごすのが目的だからな。他にベテランの探索者を雇ってついていくだけなのだよ」


 そう話すルクスが大きな溜め息を吐く姿を見て、ファンは「目的……」と呟き、重要な事を思い出しすきっかけとなる。


 ルクスとアミラ、二人の目的はダンジョンの攻略だったはず。けれどもこの十二年、ずっと攻略済みの近場のダンジョンを繰り返し潜っていたのだ。普通なら愛想を尽かされても不思議ではない。しかし、当の二人は文句を言わずに今もついてきてくれている。


 ファンは二人に申し訳なくなったのか、次は必ず未攻略のダンジョンに潜ろうとルクスとアミラに伝える。


「確かに当初我々の目的はそうだったが、気にする必要はないぞ。ファンにも考えがあるのだろう? 我々は最終的に攻略出来ればいいのだ。な、アミラ」

「ま、まあね。あたしはファンだけで良いのだけど……って、ごめんなさい! セリ、寄ってこないで!!」


 ジリジリと詰め寄るセリにアミラは、二、三歩後退りセリが間合いに入ると、追いかけっこが始まった。


「なんで、あの二人仲が悪い?」

「悪くはないな。むしろ仲良しと言っていい。ファン(キミ)のこと以外ではな」


 ルクスは含みのある笑みを見せると「アミラの事も少しは見てやってくれ」とファンの肩を叩いて、歩み始めた。


「アミラのこと? 何の話だ?」


 ファンは言われた意味が分からず、首を傾げながらルクスの後を追うのであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ゴルゴダの街を出発してから五時間ほど経過すると、小雨が降り注いで来たのだが、運良くファン達は、ダンステン洞窟へと辿り着いた所であった。


 平野を歩いて五時間、進行方向に一つの山がそびえ立つ。その山麓に出来た洞窟、それがダンステン洞窟の入り口であった。入り口には、一人剣を携えた若者が立っており、入り口に入ろうとするファン達に話しかけてきた。


「お、また来たね。地図は持って来たかい?」

「地図? 地図があるのか?」

「当たり前だよ。ここは既に攻略されているからね。完全な地図が出来上がっているよ。もしかして、忘れたのかい?」


 ファンは後ろを振り返りセリを見る。荷物を詰め込んだ時に地図などは無かったので、ファンはセリが持っているのかと思ったのだ。

しかし、セリは首を横に振る。ルクスやアミラにも目配せするが、同じく横に首を振るのみ。


「はぁ……まぁた、忘れたのね」


 アミラはやれやれと肩を竦める。どうやら、初めてではないらしい。


「ごめん。地図あるなら貰えるかな」

「ああ、ちょっと待ってな」


 若者は、雨に濡れないように洞窟の中に置いてあったリュックの中から紙の束を取り出してファンへ渡す。


「いくらだい?」

「は? 何を言っているのだ? タダだよ、タダ。俺は探索ギルドの人間だぞ。金なんか取るか!」


 そう言うと若者は、ヒラヒラと手を振りながら再び洞窟の入り口に立つ。攻略済みのダンジョンでは、探索ギルドの管理下に置かれることをファンは知らなかった。


 これは攻略済みであるが故に、新人などに安全に探索というものがどういうものか経験させる為なのだが、もちろんファンは知る由もない。


「完全な地図か……最初からあれば攻略するのは簡単だろうな」

「あはははは。ファンは面白い事を言うね。そんなの当たり前さね。答えを持って試験を受けるようなものだよ」


 これは……もしかしてと、ファンは思慮に耽る。可能なのではないかと。


 夢の中に現実世界の記憶があるように、現実世界の知識を持ち込めることは充分考えられた。


 地図を覚えてしまえば、自分がこのダンステン洞窟の最初の攻略者になれるのではないかと。


「ああ、だから俺はここに(こだわ)ったのか」


 十二年という歳月は、ただ、ひとっ飛びするわけでなくちゃんと経過している。そしてファンが、もし別のダンジョンへ行くようになっていたら、この事に気付かなかったかもしれない。だから、この十二年のファンは、ダンステン洞窟のみ潜っていたのだと。


「頭いいぞ、昨日までの俺」


 自画自賛したファンは、地図を覚えるべく紙の束を流し見る。全部で五枚。決して覚えられない量ではない。早速覚えながら進もうとするが、進み先は真っ暗で地図もすぐに見えなくなってしまう。


「ファン、慌てない。余所見しながらだと怪我しちまうよ。今、明かりをアミラが用意してくれるから」


 セリに腕を掴まれ止められたファンは足を止め、アミラの様子を伺う。


 アミラは、なにやらぶつぶつと呟き始める。耳を澄ますと聞きなれない言語を早口で喋っている。


「ディライト」


 アミラの両の手のひらの間に小さな小さな光の玉が浮かび上がる。手のひらの間から、その光の玉は離れるとパンッと音を立てて破裂する。辺り一面が眩しい光に包まれて、堪らずファンは目を瞑った。


 何も起こらない、とファンは恐る恐る目を開くと自分の体を覆うように光が纏う。ファンだけではない。セリも、ルクスも、そしてアミラ本人も光に包まれている状態だ。


「これは……魔術?」

「そうよ。あたしの神光魔法。凄いでしょ」


 胸を張り、褒めていいわよと言わんばかりに、ファンの目の前に立ち頭を差し出す。出発前に頭を撫でて子供扱いして怒られたばかりだ。さすがに学習したファンは、気安く撫でてはいけないと、アミラを無視して更に先へ進もうとするが、すぐに目の前にアミラが立ち塞がる。


「す、凄いな、アミラは」


 ファンが頭を撫でてやると嬉しそうにアミラはその目を細めた。


「うん? 向こうに明かりが見える?」


 自分の周囲が明るくなり、ゴツゴツと固く歪な床に注意しながら、人一人がやっと通れるくらいの、狭く段差のある通路を降って行くと、通路の向こうから、うっすらと明かりが漏れていた。


 ファンを先頭に進んで行くと、狭い通路から一転恐ろしく広い空間へと出てきた。天井は高く尖った岩が今にも落ちてきそう。地面も石ころが転がり、所々天井から落ちてくる雫石で水溜まりが出来てぬかるみがある。


 明かりの正体、それは他の探索者達が焚き火をしているものであった。


 入り口から近い事もあり、この広い空間は絶好の休息所として利用されていたのだ。


「ファン、我々も休もう。歩きっぱなしだったからな。どうだろうか?」

「そうだな……。うん、あの辺りが良いかも」


 辺りを見渡してファンは、平らな地面を見つけ場所をキープするようにリュックから取り出したシートを広げる。ルクスやセリも同じくシートを敷き広げ繋げた。


 シートの上に荷物を置くと、皆が一息つく。


「それじゃ、わっちはご飯の用意をするよ」


 セリが腰を持ち上げ、ファンの荷物から薪を取り出し組み始める。


「じゃ、俺もセリを手伝うかな──って、ルクス、何?」


 セリの元へと行こうとしたファンの襟首をルクスが捕まえ離さない。


「何を言っているのだ、ファン。君はこれから我と剣の訓練だろ? ご飯の用意は、いつも通りセリとアミラに任せておけばいい」


 そう言うとルクスは軽々とファンを片手で持ち上げ連行していった。

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