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十四話 夢幻世界③ 武器選び

 胸に探索者である証のブローチを付けたファンとセリは、リンネにギルドの奥へと案内されていた。


「何処に向かってるの?」

「はい。ご存知だと思いますが、新人には高額な登録料金を支払ってもらう代わりに装備一式をお貸しすることになっています。どれもこれも、一式揃えるとなると、登録料金を越えますから、ご安心を。まずはそれを選んでいただかないと」


 ギルドの裏口から続く廊下を歩いたあと、ギルドと変わらないほどの大きさの建物へと入った二人。建物の中は二階まで吹き抜けの広い部屋があるのみで、半分は倉庫として様々な武器や防具が。残り半分は何も置かれていない。


「そうですね……ファン様は何かやっておりましたか? 武術なり剣術なり魔術なり」

「お金稼ぐので精一杯だったから、何も」

「そうですか……オススメはこのブレードソードかシルバーランスですね。ブレードソードは、正直細かい技術は不要でその重量から斬るというより叩きつけるという感じですね。特にダンジョンは狭い場所も多く、ある程度小回りが利かないと。そしてシルバーランスは特に前方に強い武器です。やっぱりファン様が前衛ってことになるのでしょうか?」


 刀身が長く頑丈そうなブレードソードと白く鋭い刃先のシルバーランスを両手に軽々と持ったリンネが質問をするが、ファンの視線はリンネには向いていない。


「当然だよ。セリを盾にするなんて!」

「それでしたらシルバーランスもオススメです。突きに特化しておりますが、先ほど行ったようにダンジョンは狭いため、振り回す必要はありません」


 リンネの話を右から左へ流し他の武器を探すファン。夢の第一歩を踏み出したことで、興奮が冷めず新人に特有の浮かれた状態になっていた。


「ファン!! 浮かれてる場合じゃないよ。探索者としては、これからなんだ。ちゃんと話を聞きな!」


 セリの一喝にファンは目を覚ます。


 リンネに謝罪をすると、もう一度話をしてもらえるようにお願いする。


 リンネはファンをリーダーと見ていたが、実際それが見当違いであったと確認した。


 あまりパーティー等は組まない探索者達であるが、得てして成功するのは、セリのようなリーダーシップを発揮する者達であると知っていたリンネは、この二人の評価を少し上げた。


「では、改めて。それではファン様には、このショートソードとこのバックラーなどはどうですか?」

「さっきのブレードソードより短くて軽い。これって剣術を習っていないと困るんじゃ……」

「確かにそうです。ですが単純に斬るのは力です。斬る迄の過程で剣術が必要なのですが。そこでこのバックラーという持たないで腕に装備する盾です。このバックラーはちょっと特殊でアミュレットの役目も担っています」

「アミュレット?」


 全てにおいて準備不足、知識不足のファンにリンネは嫌な顔一つせずに説明を始める。


「アミュレットと言うのは、特殊な装飾品です。一般的な装飾品と違うのは、アミュレットには一つ、もしくは二つのオーブを装着出来ることです。オーブには自身の能力を強化する『セルフィ』、他者へ影響する『アナザー』、範囲的な効果のある『サーキュル』の三種類があります。では、バックラーの裏を見てください。このバックラーは特殊で腕輪型のアミュレットに只の盾を付けたもので、腕輪には既に一つの『アナザー』のオーブが付けられているのが分かりますでしょうか?」


 ファンが確認すると、バックラーの腕を通す部分に赤色のオーブと呼ばれる玉が埋め込まれていた。


「長々と話しましたが、そのオーブは『シールドバッシュ』と言い、効果は『対象に対して押し負けない』というもの。つまり、このバックラーで迫ってきた相手の攻撃を受け止め、逆に押し返して相手の態勢を崩す。そして止めはショートソードで。というのが、最適な使い方となります」


 まだ未熟なファンにとって、重い防具など逃げる場合邪魔になる。ショートソードとバックラーに加えて胸当てと、リンネは軽量で行動が阻害されない装備を見繕った。


 ファンは試しにと一式を装備して、二度三度ショートソードを振るう。確かに軽量である。しかし、何処か心許(こころもと)ないと思っていたら、突然ファンはリンネに足を払われ床に転ばされてしまった。


 いきなりのことで目をパチクリとさせていたファンにリンネは持っていたブレードソードを振り下ろす。咄嗟にバックラーで受け止めるが、ギリギリッと女性とは思えない力で押し込まれていく。ファンは戸惑いながらも押し返そうとした時、バックラーのオーブが光った。


 すると先ほどまで押し込まれそうになっていたにも関わらず、急激に軽くなり容易にリンネを押し戻した。


 床に尻餅をついたリンネを見て、ファンは直ぐ様立ち上がり、リンネを起こして謝った。


「そうか……。なるほど」


 満足気な表情のファンは、バックラーをまじまじと見ながら、一人納得する。


「わかって頂けましたか? まだ未熟なファン様にとって、一番の欠点は相手に押し倒された時に立て直す力がないことです。このバックラーはそれを補ってくれます」


 戦うにしろ逃げるにしろ、ファンにとって自分の態勢が容易に崩されやすいことは、命に直結する。ファンはこのバックラーをいたく気にいったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お次はセリ様ですね。後衛、ということになりますから、ファン様から一定の離れた距離での戦闘が予想されます。理想は飛び道具ですね」


 リンネは、雑多に置かれた武器を漁り、セリに合う装備を見繕う。


「これなんてどうでしょうか? 一つは投げナイフです。弓矢等は正直鍛練がそのまま実力に直結します。投げナイフも鍛練は必要ですし威力はしれていますが、刃先に毒を付ければその威力は比べ物になりません。もう一つはボーガンです。ピンポイントで狙いたい場所を狙えますし、それほど鍛練を要しません」


 毒と聞いて怪訝な表情になるセリであったが、ボーガンはいたく気に入った様子で、矢の付いていないボーガンを様々な物に照準を合わせていた。


「投げナイフは、此方に着けてください」


 リンネはセリの足元に片膝を着いて(ひざまず)くと、セリの大きくスリットの入ったスカートを捲り始めた。


 ギリギリ下着の見えそうな位置まで捲ったリンネは、露になったセリの白い太股へ革製のベルトを巻き付ける。ベルトには一本、一本、投げナイフが備え付けられていた。


「安心してください。毒と言っても痺れ毒ですから、死にはしませんし」

「わっちは、こっちのボーガンだけで良いのだが……」

「ボーガン本体は軽いですが、矢にも限りがあります。一度使った矢は再利用しにくいですが投げナイフなら回収すれば何度でも使えますし」


 リンネからの説明を受けるも、セリにはやはり毒というのに抵抗があるようで渋った表情は崩さない。あとは防具として受け取った胸当てを装着し終えた。


「セリ、どうだ? 動きにくくないか?」

「問題ないよ。でも、ちょっと胸が……締め付けられるくらいさ」


 何とか緩まないかとセリが胸当ての位置を直している横で、リンネの表情がひきつったのをファンは見逃さなかった。

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