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店に着くと妻に手招きされた。
「皆さんがね、素敵なご主人だって」
席に着くなり妻が耳打ちしてくれた。
「今日はありがとうございました」
少し年配の女性がそう言って頭を下げた。僕も軽く頭を下げて応えた。
ダブルスで妻とペアを組んでいた女性以外の二人は少し年配の方だった。その年配の方二人が僕のことをそう言っていたのだとか。
「美幸、今日はおとなしいわね」
妻がそう言ってペアを組んでいた女性にもっとじゃべればいいと促している。
「だって…」
彼女が一瞬、僕の方を見て笑ったような気がした。冷汗が滲んでくる。
「奥様の前でご主人と話をするのは気が引けるもの」
「なんだ、そんなこと? 気にしなくてもいいのよ。この人はどこに居ても空気みたいな人だから。なんなら、今晩持って帰る?」
そう言って笑う妻。
「じゃあ、私、持って帰っちゃおうかな」
年配の女性がそう言い、輪をかけたように笑いが広がる。
帰宅すると、妻は風呂に入ると言い、バスルームへ消えて行った。その瞬間、妻のスマホが鳴った。ディスプレイには“美幸”とあった。僕は咄嗟に通話ボタンを押した。
「はい」
『あれっ、裕子じゃないね。ひょっとすると、一緒にホテルで過ごしたキミかな?』
「そのことは…」
『大丈夫。誰にも言わない。それよりこの番号、キミの電話に登録しといて。そして、後でかけてちょうだい』
そう言うと、彼女は電話を切った。
風呂から上がった妻が着信に気付いた。
「あら、美幸から電話があったのね? あなた、出てくれたの?」
「急用だったら困るだろうと思って」
「それで?」
「今日はお疲れ様だって」
「そう。じゃあ、私、先に寝るわね」
そう言って妻はベッドルームに消えて行った。僕は自分のスマホに登録したばかりの番号を見てどうするべきか迷っていた…。




