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彼女と会うのはいつもこの店。自宅のある最寄り駅から二つ先の駅。繁華街のはずれの路地を入ったところにある。カウンター席だけの小さな店なのだけれど、無口なマスターは以前、一流ホテルの厨房で働いていたというだけあって、料理の腕は一流だ。
「メシは食ったのか?」
「まだに決まってるじゃない…」
そう言って彼女はマスターにウインクした。マスターは頷いて厨房へ入って行った。
「いつ退院すんだ?」
「一週間後」
「ということは…。5月3日?」
「4日」
「大変だな」
「大変なのはあなたの方でしょう」
「まあ、なんとかなるさ。それとも、うちのヤツが居るときは会うのをやめるか?」
彼女と会うたびに僕は妻に言い訳をする。この連休は妻も外出がちではあるのだけれど、ずっと居ないわけではない。居るときには言い訳をして出なければならない。僕が特に人付き合いの多い人間ではないので、夜になってから出掛けるのは誰が考えたって怪しい。
「ダメ! 私が独身の間は毎日出て来て」
「考えとくよ」
僕はわざと彼女をじらすように言った。本当は言われるまでもない。僕の方が毎日彼女に会いたいのだから。
オムライスがそっと彼女の前に置かれた。彼女は満面の笑みを浮かべてマスターに礼を言うと、スプーンを手に取り食べ始めた。
「本当に幸せそうに食べるな」
「だって美味しんだもん」
食べている時の彼女は本当に幸せそうな顔をする。その顔が僕はたまらなく好きだ。
「今夜は帰らなくていいのね」
「ああ。明日も明後日も」
「じゃあ、ずっとここに居てもいい?」
ベッドの中で僕に覆いかぶさるように体を預けた彼女が言う。
「キミがそうしたいなら…」
言い終わる前に唇をふさがれた僕は再び彼女を抱きしめる。時間を忘れて僕たちは絡み合った。今が昼なのか、夜なのかさえ判らなくなるほどに。部屋のカーテンは閉めたまま。電気もつけずにただ抱き合った。抱き合っては休み、休んでは抱き合った。
「おなか減った。オムライスが食べたい」
彼女がそう言ったのは翌日の夕方になってからの事だった。




