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 5月4日。彼女の旦那が退院する日だ。今後はそう簡単に彼女には会えないかも知れない。そう思うと、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

『いつもの店に居る』

 約束をしたわけではない。そこに居れば彼女がひょっこり現れそうで僕は毎日店に通った。彼女は来ないしメールへの返信もない。ご主人が退院したばかりで何かと大変なのだろう。そう自分に言い聞かせた。


 連休が明けて数日たった時、妻から予期せぬ報告を受けた。

「美幸、憶えてる?」

 その名前が妻の口から出たことで僕は肝を冷やした。

「美幸さん?」

「大会の時、一緒に車に乗せた子よ」

「ああ…。なんとなくは…」

「彼女の旦那が亡くなったらしいのよ。連休中に入院していた病院で悪性の腫瘍が見つかったんですって。今夜お通夜だから、ちょっと出掛けて来るね。あなたも行く?」

「あ、いや、俺はそんなに面識もないし…」

「そうよね」

 驚いた。彼女からの連絡がなかったのはそういうことだったからなのか。そう理解した。そして、急に彼女に会いたくなった。


 その日の深夜。彼女からメールが届いた。

『来て』

 葬儀はこの地域の斎場で執り行われているのだそうだ。彼女は今、通夜が終わって、一人で斎場のそばのホテルに泊まっているのだと言う。そこに来て欲しいと彼女からメールが届いた。妻は既に眠っている。僕はそっとベッドを抜け出した。


「こんな時にこういうことをするなんて常識のない女だよね」

 ベッドの中で彼女がそう言った。僕には返す言葉が見つからなかった。

「本当の独身になっちゃった」

 そう言ってタバコに火をつける彼女の目からは涙が滲んでいた。

「あの人と一緒になったのは生活のため。愛していたわけではないのよ。でも、なんでかしら…。なんかとても悲しくなってきちゃって…」

 そして、震える彼女から嗚咽が漏れてきた。生活と恋愛は別だと言っていたクールな彼女が体を震わせながら泣いている。そんな彼女が僕は愛おしくてたまらなくなった。

「今日はごめんなさい。そろそろ行って。裕子が心配するわ」

 ホテルを出ると空はうっすらと青みを帯びていた。




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