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あれ以来妻とベッドを共にすることはなかった。けれど、食事は手料理を出してくることが増えてきた。
「最近、よく作るね」
「だって、子供のお弁当に冷凍のお惣菜は可哀そうじゃない」
「まあ、そりゃそうだね…。えっ!」
「ふふふ、出来ちゃったみたい」
嬉しそうな妻の顔を僕は複雑な思いで眺めた。
子供は作らず二人の生活を楽しもうというのは僕たちの結婚生活におけるルールみたいなものだった。妻がそれを望んでいたし、僕も同意した。子供が居ると事由がなくなるのではないかと思っていたからだ。
そんな妻が子供が出来たと嬉しそうに言った。獏が離れていくのをつなぎとめるかのように、このタイミングで切り出した。
妻はあの夜、僕が彼女と会っていたのを知っていたのだろうか…。彼女が歓迎会に出なかったことで何かを感じたにだろうか…。
「ふーん」
彼女はまるで興味がないというような表情でタバコに火をつけた。
「関係ないわ。お互いに家庭がある身だし。そこは壊したくないもの。私はただキミのことが好きだから一緒に居たいし、抱かれたいだけだもの。生活と恋愛は別物だから。だから、裕子と別れてなんていわないわよ」
彼女のその言葉に僕は安堵を覚えた。妻と子供のために彼女を切り捨てることはしたくなかったから。そして、このことで彼女が離れていくのも嫌だった。既に僕も彼女の事が好きだったから。
出産予定は秋。おなかが大きくなる前にテニス仲間と旅行に行くことになったと妻から報告を受けた。このゴールデンウィークの連休を利用して。同じタイミングで彼女の旦那が入院することになったと聞かされた。
彼女も旅行に誘われていたらしいが、旦那が入院するからと断ったということだった。もっとも、彼女にしてみれば、たとえ旦那が元気だったとしても旅行にはいかなかったのだと思う。妻が居ないときは僕を専有できるのだから。
妻が旅行から帰って来るまでの間。僕は彼女とずっと一緒に居た。そして今、旅行から帰宅した妻と一緒に居る。
「そろそろテニスはお休みにするわ。だから、これからはちゃんと料理もするわね。前にあなたが褒めてくれたのはとても嬉しかったし」
「あ…。そりゃあ楽しみだな」
僕は作り笑いと同時に妻から目をそむけた。少しずつ自由が奪われていくような気がした。




