5. 支えの歌
何の取り柄もないこんなのが神官の、しかも巫子の側仕えになんてなったら、誰だって気に入らないだろう。
私だって嫌だ。
「視えるヒト」はともかく、実力で国の中枢に入った人たちからすれば、私なんて親兄弟の功績を笠に着る嫌な奴に映るだろうし。
そりゃあ水だって掛けたくなるだろう。
ついでに食事に虫を入れたり、替えの神官服を切り刻んだりしたくもなるだろう。
神官になりたての頃は、ありとあらゆる嫌がらせを受けた。
仕事に支障の出る嫌がらせがなかったのは、まだマシかもしれないけれど。
でもさすがに二年も経てば、それもなくなり平和になった。表面上は。
別に嫌がらせをつらいとは思わない。強がりではなくて。
革命してなお、変わらないものに哀しみは覚えるけれど。
だから弱音は吐かない。
私が神官になったことで、前代の「形だけの悪い慣例」が復活しただなんて間違っても言われないように。
「フィオナは自分を卑下しすぎ。もっと自信持ちなよ、もったいない。それに、もっと周りに助けを求めなきゃだめ。」
レイラはそんな私を叱り褒めてくれる人だ。
今だって、周りから敬遠される私に唯一近づき、一緒に持ち場に向かいながら声を掛けてくれる。
きっと最初の出会いが最悪だったから、気にかけてくれているのだろう。本当に心優しいヒトだ。
「充分助けてもらってるよー。さっきだって、レイラに肩叩かれなかったら完全に夢の世界だったし。」
「そういう意味じゃなくて」
「ふふ。わかってる。私は大丈夫だよ。」
「……ハァ。あの人たちがいる城内でフィオナに何かするなんて、そんな命知らずな奴はさすがにもういないと思うけどさ。」
「そうだよねー。これでも一応ランドルフって名前がついちゃってるし。父様たちに喧嘩売ることになっちゃうからねー。私だったら怖くて出来ないや。」
「だからそういう意味じゃなくて。」
やっぱり自覚が……と何やら不満そうに呟くレイラも美しい。
出自を馬鹿にするくだらない貴族もいるけれど、そんなものも跳ね返すような輝く美しさが彼女にはある。
妖精が気にいるのも当然だ。
「まぁいいわ。それより気をつけなさいよ。巫子の名代で色んな場所に行くでしょ?盟主とも話す機会が多いみたいだし。」
「うん、わかってる。」
「ならいいけど。」
「これ以上ないってくらい礼儀や作法には気をつけてるつもりだよ。」
「だからそういうことじゃなくて!」
「ふふっ、うそ。わかってるよ。自分の立場は弁えてるから。」
「……ちょっと違う気もするけど。」
レイラの心配はわかっている。
普段なら関わらないような人や行かないような場所に行くということは、いつも以上に敵意を向けられるということ。
出る杭は打たれちゃうんだよなぁ。
でもきっと大丈夫。
忙しくて目が回りそうな時に、余計なことをしてくる人たちも少ないだろうし。
何より、こんな風に心配してくれる人もいる。
いつか私に勇気があれば、彼女を友達と呼べる日が来るのだろうかーーー。
「いつもありがと。」
「なに?急に。」
「ううん。何となく。」
レイラといると私が「私」でいられるような、そんな気がする。
彼女自身のオーラと、彼女の周りにいる清らかな妖精のお陰だろう。
そしてそれは、今ここで私が神官を続けていられる理由だ。
そしてもう一つ私がここにいる理由。それはーーー
なかなか盟主が出てこない…。