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永遠に響く風の歌  作者: 長澤まき
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24. 呪いの歌


私は生まれた時から隠されて生きてきた。


私が泣いて怒ったり笑ったりするだけで“風”が変わり、天気が変わった。


だから生まれてすぐにリューの、風の精霊であるリュミエールの加護を受けていると周囲は理解せざるを得なかった。



「周りは大慌てですよね。それで利用価値があると判断されて、殺されることなくこの塔の中で育てられました。」


「お待ちください!殺される……?」


「私を産んですぐに母が亡くなったので、これ幸いにと邪魔な私を消そうとしたのでしょうね。」


「なぜ…誰がそんな……」


「ああ、すみません、言っていませんでしたね。私の母はあの史上最悪の愚王ガルヴァス・エル・リュミエールの側妃でした。と言っても無理やり召し上げられたのですが。それが気に入らない正妃からずっと命を狙われていて。私を産んだ後、ほどなく力尽きたと聞いています。」


「では……皇女様なのか……」


「やめてください。あんな愚王の血を継いでいると思うと吐き気がするので。……あの頃の中枢は誰もが疑心暗鬼に陥っていて、私という存在が他国に、自国の民に知られることを恐れていたようです。知られれば奪われて利用される。何より、自分たちを凌駕する精霊の力をいただく存在が許せなかったんでしょうね。だから私は『国の夜明け』まで外の世界を知らずに育ちました。」



外に出てはいけない。

お前の存在が知られれば殺されてしまうよ。

お前の力は呪われているのだから。

だから、誰にも知られずに生きろ。

この国のために、王たる私のために生きろ。



幼い頃からあの愚王に言われ続けた呪いの言葉。

私を縛り支配していた鎖。


「切り刻んで一片も残さず燃やし尽くしたいな」

「それでは苦しみも一瞬でしょう。死してなお地獄の業火に焼かれ続けていることを二柱の神と精霊に祈りましょう」


その場の空気が急に氷点下になった気がした。


「結局、私の母が亡くなってすぐに、王も病で呆気なく死んだそうなので。」


あれだけ力と永遠を望んだ愚かな人間も、所詮風の前の塵にしかすぎなかった。


「王の死後、その不在が国民に付け入る隙を与えると考えた愚かな貴族たちは王の死を隠し、秘密裏に新たな王を立てました。それがクレイドル・エル・リュミエールです。クレイは私と同じように王と身分の低い側妃との間に生まれました。そして愛し子が心を許すたった一人の『正統な王族』とされました。」


その時、クレイは十五歳、私は五歳だった。


「お二人にこれだけは知っていてほしいのです。クレイは、クレイだけは、この国を思い、この国の行く末を案じていました。」


でも、まだ大人になりきれなかった少年は、周囲の人間たちに傀儡にされてしまった。そしてなにより。


「私の罪です。私がクレイを望んだから。クレイと共にいたいと態度に出してしまったから。だからクレイは、私の“王”という役目を周りから押し付けられてしまった。」


ドロドロと汚い心を持った人たちの中でクレイだけは違った。だからクレイに初めて会って話した時、もっと一緒にいたいと願ってしまった。


それを周囲がどう利用するかも考えないで。


知らないことは罪。大きな罪。

―――大事なものを失う罪。




何度も見た。クレイのぐっと握り締められた拳を。噛み締めた唇を。執務机で項垂れる姿を。


『クスクスクス。お可哀想な王様。愛し子だなんて名ばかりの子守りを押し付けられて。』

『本当にねぇ。ちっとも思い通りにならない。使えない愛し子だこと。』

『もういっそ殺すか。新しい愛し子の方が使い勝手もいいだろう。』

『あらあら精霊様が怒りますよ、うふふふ。』


『ごめんなさい。ごめんなさい……っ!』

『もういい、あんな腐った奴らの話など聞くな。お前は力を使わなくていい。この国の審判は必ず神々と精霊が下す。それまで諦めるな。』


「言い訳をするつもりはありません。あの時代の全ては私たち王家に連なる者の責任です。それでもお二人には知っていて欲しかった。クレイは三年間、王として最期まで……」


それ以上、言葉を重ねることはできなかった。






熱い風が吹いている―――。


城外の喧騒が嘘のように、静寂に包まれた広間。


わかっている。


長く悪政が続いたこの国は、もはや引き返すことも出来ないほど衰退していたから。



風の吹かぬ地は枯れ、流れぬ水は腐る。


窓の外は炎の海で何も見えない。


いつの間にか、風も止んでしまった。


もう、何も、ない。


『これでいい。』


哀しく笑ったクレイの顔を、




私は燃えさかる炎の中、ただ見ていた。





見ていることしかできなかった。



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