20. ハレの歌
あんな騒動の直後にも関わらず、アリアナ様は見事に祈ってみせた。
あのリューが黙り込むほどに。
祈り舞うアリアナ様はそれはそれは美しく、目に焼き付けようと食い入るように見つめる私を、リューは呆れたように見ていた。
けれど、何だかんだ言って祭祀が終わればいつものように祝福を与えていたから、リューだってお気に召したに違いない。
精霊の祝福を受けて傷ついた神殿は元どおりになり、妖精たちも喜びの声を響かせている。
そうそう。アリアナ様に使っていただいた花のブローチは新たな精霊石に生まれ変わり、精霊の間に置かれた。
大切な「両親」から贈られた大切な宝物が、今は国を支える礎となっている。
現金なことに、それが何だか誇らしくも感じられた。
そして、事件を引き起こしたディアス親子とヒンギス文官は、捕縛され地下牢に繋がれている。
私への嫌がらせ程度にしておけばよかったものを、欲をかいたからこうなったのだ。
大体、天下のランドルフに喧嘩を売ればこうなると分からない時点でたかが知れている。
関わった文官・武官たちがいれば、盟主以下優秀すぎる宰相様と補佐を前に、早々に炙り出されるだろう。
「はぁ、気持ちいいねぇ。」
神殿の屋根の上から見る空は久しぶりに晴れ渡り、国は気持ちの良い風に包まれている。
「ここからの景色も懐かしいな。いつ以来かなぁ。」
『そうだな。』
瞳を閉じてしばらく風を感じた後、そっとリューを見た。
「ね?私は大丈夫でしょう?」
『だが』
「こんなに気持ちよく晴れたのよ?それに、仕方なく祈らせた巫子も素晴らしい祭祀をしたしね〜。」
『根に持っているな。』
「ふーんだ。……こうなること、わかっていたのでしょう?」
『……』
「猶予なんて言っていたけれど。私がランドルフの家に拾われることも、神官になることも、貴方から彼らを庇うことも。」
『……』
「だんまり?」
『我は二柱の神ではない。』
「……ふふ。しばらく話さないうちに随分偏屈になったのね。」
『誰のせいだ?』
「あー……それもそうね。」
苦笑いして視線を空に逃がした私を責めるように、風が頬を撫でた。
『お前は、変わった。」
不意に呟かれる。
「そう?」
『あぁ。」
「……そう、かもね。」
『嬉しいと哀しい。』
「感情を勝手に読まないで。」
抜けるような青空。
リューの力が満ち、私の心が満たされた証。
「自分を大事にするって約束したから。」
『そうか。』
「もう、いいよね?」
『……』
「もう……楽になりたい。」
『……』
「だから、」
ーーー終わりにしていいよね。
『……』
「……」
一瞬強い風が吹き抜ける。
『彼奴も酷なことをする。』
「え?」
『いや。一度消えるが、お前が望まなくとも我は常にお前の側にいる。』
「望んでいないわけじゃ」
『あるいは彼奴らが理由となるのか……気に食わんが。』
強い風でリューの呟きが聞こえない。
「何て言ったの?」
『また来る。』
温かい風と共に、風の精霊は姿を消した。




