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永遠に響く風の歌  作者: 長澤まき
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1. あたたかな歌


風の国〈リュミエール〉。


民を顧みない腐敗した政治が長く続き、辺境伯が革命を先導し愚王とその一族、賄賂に塗れた貴族たちを一掃したのが十年前のこと。


散々暴利を貪り腕の鈍った武官たちは降って湧いた革命に為す術なく。

ましてや心ある武官は革命軍へ加わって多くの民と共に正義を求め戦ったその結末は、言うまでもない。


後に「国の夜明け」と呼ばれる革命の次の日、焼け落ちた城を見て人々が歓喜に沸く中、私は拾われた。



「こんにちは、お嬢ちゃん。どうしたの?ご両親は?」



ボロボロの私に手を差し伸べたのは、柔らかな光を纏った美しい女性。


街の片隅で、世界から消え入るように存在していた私に気づく人がいるなんて思いもしなかった。


もう何もかも、この掌から零れ落ちてしまっていたから。


「お名前は?」


「……」


「独りなの?お家は?」


「……」


何を聞かれても何の反応も示さない私だったのに、この人は呆れることも見捨てることもなかった。


「……よかったら、一緒に行きましょう?」


微笑みながら差し伸べられたその両手がとても温かそうに見えて。



気づいたら手を伸ばす私がいた。





あの日を境に、私は「フィオナ・ランドルフ」になった。


私に声を掛けた時、その人は革命軍の参謀だった夫の無事を確かめるため、馬車で街まで駆けつけた後の帰り道だったそうだ。



薄汚い少女を突然連れ帰った奥様に、執事もメイドたちも目を丸くしたけれど、誰も嫌悪の表情を浮かべなかったことに私の方が驚いた。


「ひとまずお風呂に入れて傷の手当てね、アンナお願い。洋服はマリーのを貸してあげて。さすがに息子たちのでは気の毒だものね。ジャンはコックに言ってご飯を用意してあげて。」



テキパキと指示を出すその人の後ろでは、男の子と女の子がドアの隙間から興味津々といった様子でこちらを覗いていた。



「レオ、マリー。そんなに見つめたらこの子が困ってしまうでしょう? きちんとお部屋で待っていたら後で紹介してあげますよ。」



声を掛けられた途端に廊下を駆けていく音と「坊っちゃま走っては危のうございます!マリーも!」というアンナと呼ばれた人の声が聞こえた。



「全く。あの子達ったらごめんなさいね。可愛い女の子が来たから落ち着かないみたいで……フフフ、それは私も同じね。」


パチリとウィンクをされて困惑する。




なんて変な人たちなんだろう。


麻痺していた感情が少しだけ動いた気がした。





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