16. 不穏な歌
神殿の入口に姿を見せたのは、イザベラとその父であるディアス家の御当主だった。
その後ろには、不愉快さを隠しもしない父様やアル兄様たち文官も続いている。
騎士団長とレオ兄様が険しい表情で私に近づくと、それを見たディアス当主は下品な笑みを浮かべた。
「随分とたらし込んだものだな。大体イザベラの様子がおかしくなったのも、お前が何かしたからじゃないのか?いや、力のない神官には無理だな、ガッハッハッ!」
でっぷりとした腹を揺らして笑う様は、不快なことこの上ない。
けれど祭祀を前に、これ以上個人の感情でこの場を荒らしてはいけないと一歩後ろへ下がったその時。
私の前に盟主が立った。
「ならば貴殿はあの場を収められたか?」
「なっ?!」
「それに貴殿やディアス神官の祭祀への参加を認めたつもりはない。」
「盟主様!そんな!」
「盟主!それこそ横暴というもの。我がディアス家は国への貢献も随一。それに娘のイザベラこそ祭祀にいるべき神官です!そんなどこの生まれかもわからない無能な娘など」
「ディアス文官。」
静かに発言を遮る盟主からは冷え冷えとした空気が漏れ出ていた。
これ以上は本当にまずい。どう止めればいいのが分からず慌てていると。
「盟主、ディアス文官。そこまでです。祭祀に遅れがあってはなりません。」
アリアナ様の澄んだ声がその場を包んだ。
「巫子様!」
「ここで揉めている場合ではありません。ディアス文官、混乱を避けるためにも神殿の外でお待ちいただきます。それでよろしいですね?盟主も。」
「わかった。」
「ぐっ……ご厚情感謝いたします。」
悔しげなディアス親子を残し、他の者たちは配置につくため方々に散った。
私も祭祀の間へ向かおうとすると、盟主に声をかけられる。
「大丈夫か?」
「はい、皆配置についております。」
「そうじゃなくて。」
「?」
「フィオは、大丈夫なのか?」
ドクンっと心臓が音を立てた。
ジッと見つめられ、思わず目を逸らしてしまった。
まるでやましいことがあるようだと思ったけれど、もう一度目を見る勇気は出なかった。
水の巫子となら対峙できたのに。
「フィオ?」
「盟主、お早く。」
アル兄様の声に、戸惑っている暇はないと気持ちを切り替える。
「私は大丈夫です。参りましょう。」




