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永遠に響く風の歌  作者: 長澤まき
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12. 猛者たちの歌


執務室には盟主を始め宰相、宰相補佐の他、神官長、騎士団長、副長、医師が勢ぞろいしていた。


「宰相補佐、報告を。」


「はい。普段と異なる言動が見られた神官はディアス神官を除いて四名。神殿から退出させ今は落ち着いているようです。」


「被害は?」


「大きなものはディアス神官の一件だけです。他は食べ物を際限なく食べたり、突然水浴びを始めたりといった行動が見られたそうです。」


「ランス、症例は?」


「祭祀前に気分が高まる神官はよくいるが、言動に大きな影響を及ぼすほどじゃない。」


「ここまでになった原因は?」


「調査中ですが、加護持ちに確認したところ集まっている妖精の数がいつもの祭祀より多く、力も強いとか。そしてその力に酔った一部の神官が奇行に走ったと考えられます。ただ、なぜ妖精の数がここまで増えているのか、その理由は誰もわからないとのことです。」


「そうか。副長、イザベラ・ディアスの様子は?」


「はっ。神殿から出したところ落ち着きを取り戻しましたが、自分は悪くないの一点張りです。自宅療養という名のもとに家に帰しましたが、明日の祭祀を前に父親を始め親族が騒ぎ出しています。」


「害するものはあらかた潰したはずだったが。ディアス家の娘か、厄介だな。」


「盟主が動くことはありません。ランドルフが個人で動きます。」


「ですが、ディアス神官は有力な加護持ち。巫子様や精霊にどのような影響があるか分かりません。神殿としては反対です!」


「神官長。家を潰しても神官として残せばよろしいでしょう。もっとも、プライドが高いあの娘にそれが耐えられるかどうか。」


「宰相殿、何て無責任な!ひとまず全ては祭祀を終えてからにしてください!巫子様の動揺も見られますし、精霊のお怒りを買う可能性があることはお控えいただきたい!」


「神官長殿。精霊のお怒りは避けねばなりませんがね。私からしたら、目の前の御仁たちの怒りの方が恐ろしい。」


「騎士団長!不敬ですぞ!」


「ははっ、そうかもしれん。だが、ディアスは眠れる龍の宝玉を傷つけた。それが事実だ。」


「それは!」


「精霊の怒りはもうとっくに買っているだろう。」


「盟主!」


「今更見ないふりはできないだろう?愛し子と王を奪ったんだ。我々に今できることは滞りなく祭祀を執り行うことだ。万事恙無く取り計らってくれ。」


盟主の一言でお開きとなり、一礼して神官長が退出するとその場はより一層凶悪な空気を孕む。


「消えたい……か。」


盟主の呟きに、副長が拳を握り締める。


「もっと早く駆けつけていれば……っ!」


「早さの問題じゃない、レオナルド。」


「盟主!ですが!」


「そうだ。ディアスの娘はあくまでもきっかけに過ぎない。全ての始まりは革命だ。」


宰相はじっと前を見据えた。


「国のために避けては通れなかったこと。あのままではいずれ近い未来に崩壊しておったでしょう。」


騎士団長が静かに語りかける。


「それはわかっている。後悔もしていない。だが……」


その瞳には、隠しきれない怒りが。


「罪のない幼子から人生を奪った責は負う。喧嘩を売られるのであれば買うだけだ。」


彼の息子たちも同じ顔をしている。

執務室を張り詰めた空気が支配したその時ーーー。


「にしたって盗み聞きは褒められたものじゃねぇな〜、アルベルト?」


どこか間の抜けたような医師の一言で一気に緩んだ。


「バレていましたか。」


「途中で壁を殴りはしないか心配したがな。」


「もういい大人ですから。」


「後で掌見せに来い。消毒くらいしてやる。」


そっちもバレましたか、と爪痕が深く食い込んだ掌を隠し、苦笑いをする。


「アルにあの場に残るよう言ったのは俺だ。」


「盟主が?」


「倒れたのは心の問題。そうだろ?」


「あぁ。あの子の自分を守る術は、外界と自分を切り離すことだからな。ある程度成長してからはほとんど無かったんだが。」


「ここ最近の様子もおかしかった。だから少しは気持ちを吐き出すかと思ってな。ランスは聞いても教えてくれないだろう?」


「ふん。守秘義務があるからな。」


「盟主も心配性ですな。もっとも、彼女に限ったことでしょうが。」


騎士団長がニヤリと笑い煽るが、盟主は素知らぬ顔を決め込む。

そんな二人のやりとりを見事に流して、宰相が淡々と告げる。


「ともかく。護衛としてマリーをしばらく付かせる。それから祭祀にも参加させる。ランス、フォローしろ。」


「はいはい。」


「おやおや。」


「何だ?騎士団長。」


「いえね。氷の宰相殿も、娘御には永久凍土すら溶ける愛情がおありだと思っただけですよ。」


「先程も申したが、売られた喧嘩はいつでも買おう。」


「ほぉ。それは面白いですな。ちょうど腕が鈍っておったところですわ。」


「ふっ、こちらこそ書類仕事ばかりだからな。たまには発散させてもらおうか。」


凄まじい殺気のやりとりに、若い者たちが思わず固まっている中。


「ジル、アドルフ。そこまでだ。」


「…っ。はっ!」

「……。はい。」


盟主の威厳ある言葉は、多くの修羅場を切り抜けてきた猛者をも従わせる。


「王」と呼ばれることを嫌がるが、その存在は絶対的な王者そのもの。


「引き続き警戒は怠らず、有事に備えろ。全ては祭祀を無事に執り行うために。」


「「「はっ!」」」


一礼し速やかに皆が退室して行った。



一人残った盟主は、立ち上がり執務机に飾られた古びた一輪の押し花を手に取った。


「俺たちは、償うことを許されるのだろうか。」


盟主の切ない一言は、風に乗って消えた。


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