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三年前と似て非なる世界 8

 俺の知る世界では、過酷な戦いを生き残った者達だけが一流の冒険者へと上り詰め、世界を救うために最果ての大地を目指すのが普通だった。

 だけどやり直しの世界では、一角ウサギのような動物でじっくりと技術を磨き、死亡率を下げて平均値を上げるのが普通らしい。

 ――ということを、軽く受付嬢との会話で知ることが出来た。どうりでブラウンガルムがDランク扱いされているわけである。


 そんなわけで、ブラウンガルム十二体分の代金は俺が想定してるより多かった。せっかくなので、三人で話し合って冒険者登録も済ませてしまうことにする。

 冒険者に登録すれば、実績によってランクが上がり、将来的に高難易度の割の良い仕事を受けられるようになるからだ。


「あれ? アルくんも登録するの? 冒険者じゃなかったの?」

「あれだけ先輩風を吹かせておいて、冒険者じゃないなんて……って言いたいところだけど、あれだけ強いんだから、未登録なのはなにか訳があるんでしょ?」

「あぁ……ちょっとな」

 もとの世界では冒険者だったなんて言えるはずもなく、俺は適当にお茶を濁す。


「えっと、アリステーゼ。十七歳……と」

「あたしはユイ。……ええっと……二十歳ね。そのほかは……」

 横で二人が声に出しながら書類に記入事項を書き込んでいる。それを横目に見ながら、俺も自分の書類に書き込んでいく。


 といっても、書類に書き込むのは名前と年齢。他には得意な武器なんかを書き込むくらいなので、書類の記入事態はすぐに終わってしまう。


「はい、確認しました。次は魔力の登録を行いますので、この水晶に触れてください。まずはあなたからどうぞ」

「魔力の登録? それは、属性とか、そういうのを調べるの?」

 受付嬢に指名されたアリスが小首をかしげる。


「これで調べるのは魔力の波長です。波長は個人特有なので、これで本人確認が出来るようになるんです。ですから犯罪とかを起こしたら、記録がずっとついて回ることになりますよ」

「へぇ……そうなんだね」

「ふぅん。アカウントやキャラは変更不可だから、プレイヤーにとっても拘束力があるわけね。これはうっかり犯罪を犯さないように、気を付けないといけないわね」

 魔力の登録を行っているアリスの横で、ユイがぽつりと呟いた。


「……うっかりすると犯罪を犯すのか?」

「うっかりしてると、鍵が開いてる他人の家に入って、物色しちゃったりするでしょ?」

「……お前は、それをうっかりでするのか?」

「もちろん、冷静に考えたらダメだって分かるわよ? でも、プレイヤー心理的には、扉が開いてたら入って物色したくなるものなのよ」

「………………」

 ドン引きである。


「あ、いえ、大丈夫よ。いまはもう、そういうゲームじゃないってちゃんと理解してるから。そんなことはしないわ、うん、約束するわ」

「なら良いけど……頼むぜ?」

 一時とはいえ面倒を見た奴が空き巣で捕まるとか、勘弁して欲しい。とまぁそんな会話をしながら、全員の魔力登録を終えた。



「はい、記入事項は確認しました。それでは冒険者タグを発行させていただきますね」

 受付嬢が書類をもとに、冒険者タグの発行手続きを始める。


「ちょっと頼みたいんだけど、いまから名前を挙げる仲間が冒険者ギルドに来たら、俺に連絡を入れて欲しいって、各街の冒険者ギルドに伝達してくれるか?」

「……各街のギルドに伝達、ですか?」

 フォルや他の仲間と連絡を取りたくてお願いした結果、きょとんとされてしまった。


「申し訳ありません。各街への一斉連絡は、Aランク以上、もしくはギルドの役員にしか使うことが出来ません。街を指定していただければ、あなたでも伝言を残すことは出来ますが、費用はそれなりに掛かります」

「え? あぁ……そっか」

 前の世界では各ギルドへの一斉連絡が誰でも使えたが、それは終末の災禍(ドラゴン)を討伐するために、可能な限り冒険者が連携を取れるようにするためだ。

 だから、この世界では適用されてない。わりと細かいところが色々と違うな。


「それで……どういたしますか?」

「えっと……じゃあ、ひとまずこの街だけで頼む」

 俺はフォルシーニアの名前を筆頭に、かつて仲間だった者達の名前を伝え、誰かがこのギルドに顔を出したら、俺に連絡して欲しいと受付嬢にお金を渡して依頼する。


「かしこまりました。名前の方がいらしたら、あなたに連絡させていただきます。それと、冒険者のタグが出来たのでお受け取りください」

 自分の名前とランクが示されたタグが渡される。


「これで貴方達は冒険者です。ブラウンガルムを倒せる実力があるのなら大丈夫とは思いますが、これからも油断せずにがんばってくださいね」

 受付嬢は書類に視線を落として、わずかに微笑みを浮かべた。



「さて、これでひとまずは片付いたな」

 受付カウンターを離れ、俺はアリスやユイと向き直った。でもって、ブラウンガルムの素材を売って得た報酬を三分割して、アリスとユイに手渡す。


「アルくん、人数割りだと私達が多すぎるよ」

「たしかにその通りね。魔物を倒したのはほとんどあなたじゃない」

「気にするな。ストレージがなければ、ほとんど持ち帰ることも出来なかったからな」

 狩りに剥ぎ取りながら戦ってたら、十二体も倒すことは出来なかった。それに、いちいち剥ぎ取ってたら、薬草を見つける時間がなくなってたかもしれない。


「アルくんはこう言ってるけど、どうする?」

「そうね。今回はお言葉に甘えておきましょ」

「……今回は?」

 アリスが深緑の瞳を瞬かせた。


「このお金で装備を調えたら、恩返しをする機会が回ってくるかもしれないでしょ?」

「そっか……そうだよね。それじゃ、アルくん。今回はお言葉に甘えるね」

「ほいほい」

 俺は分け前を二人に手渡した。

 手元に残るのは三分の一だけど、ブラウンガルムを狩ったにしては多いくらいだ。遭遇率が高かったのも大きいけど、やっぱりストレージのおかげだ。

 もっと強い敵と戦いに遠出をしたら、更にストレージの恩恵は増えるだろう。


「それと……アルくんは、これからどうするつもりなの?」

「どうする……とは?」

「しばらく、この街に留まるんだよね?」

「あぁ、そのつもりだけど?」

 それがどうしたんだと問い返すと、アリスは長い耳を赤く染めてモジモジと始めた。


「えっと……その、良かったら、明日も一緒に行動しない?」

「わぁ……アリスったら大胆ね。もしかして、アルのことが気に入ったの?」

「そ、そうじゃないよ。ただ、その……アルくんは色々と頼りになるし、ティーネちゃんのこともあるでしょ? それだけ、それだけだから!」

 アリスが真っ赤になってユイに捲し立てる。

 ユイが、そんなアリスを微笑ましいものを見るような目で見ている。アリスに想い人がいると聞いていなければ、惚れられたかと勘違いしそうな勢いだ。


「えっと……それで、どうかな?」

 アリスに問われて、どうしようかなと考える。

 この街でしばらく生活しながらフォルを探すつもりなので、誰かとパーティーを組んでお金を稼ぐのは、装備を調えるという意味でもありだと思う。

 それに、アリス達はかなり世間ズレしたところがあるけど、基本的に善人なので一緒に行動してて疲れない。というか、わりと楽しい。


「そうだな、別に構わないぞ」

「ホント?」

「そんな嘘は吐かないって」

「ありがとう! それじゃ、今日はもう遅いし……」

「ああ、宿に行こうか」

 俺がそう口にした瞬間、アリスの顔が真っ赤に染まった。


「ア、アルくんのエッチ! い、いくらなんでも早すぎるよ!?」

「……はい? アリスはなにを言ってるんだ?」

 困った俺がユイに助けを求めると、ユイは目を三角形して俺を睨んでいた。


「知り合ったばかりで、しかもあたしが見てる前で……いい度胸ね?」

「いや、なにを怒ってるんだ……?」

「なにって、宿に誘ったことに決まってるでしょ? というか、このゲームってそういう行為も出来るわけ? 18禁だなんて聞いてないわよ?」

 ……なるほど、分からん。


「ねぇ……アルくん、本気で言ってるの?」

 真っ赤なアリスが、困った顔で俺をみる。

「なにを怒ってるのか分からないけど、せっかく報酬があるんだし、野宿は嫌だろ?」

「え、野宿? アルくん……宿でなにをするつもり?」

「なにって……宿で寝るに決まってるだろ?」

「あ、あぁ~。そっか、そうだよね。アルくんはログアウトなんてしないもんね」

 アリスがポンと手を打つが――やっぱり分からん。

 

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