三年前と似て非なる世界 5
大変申し訳ありませんm(;。_。)m
本作ですが、リメイクして再アップさせていただきます。
ただし、今読んでくださっているみなさまには極力影響がでないようにします。そのための処置として、今夜(7日)辺りに本作をなろうの検索リストから外し、ブックマーク、もしくはURLを入力でしか閲覧できない状態にして、きりの良いところまで投稿させて頂きます。
*ブックマークをせずに読んでいる方は、ブラウザの方でブックマークする等お願いします。
リメイクはタイトル、あらすじ、序盤の設定と展開で、中盤以降は核となる部分以外は変わらない予定です。ですので、こちらを読んでいる方には変更点を告知して、リメイク版を途中から読めるよう配慮させて頂きます。
次話は明後日。
リメイクの期間は早ければ1週間、長くても2、3週間を予定しています。
ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
「……それで、どうするつもりなんだ?」
困っている子供を前に、報酬がどうとか言い出したユイをジト目で睨む。
「だから、誤解よ。あたしは、こんな小さな子に報酬を請求したりしないわ」
「……ふぅん?」
疑いの眼差しを向ける――が、今度は本当のようだ。なら、さっきのはなんだったんだって言いたくなるけど、蒸し返しても仕方ない。
俺は女の子の前に膝をついた。
「それで、キミの名前は?」
「私、エルネスティーネって言います。ティーネって呼んでください」
「そっか、それじゃティーネ。俺はアルベルトだ。それから、そっちのエルフのお姉ちゃんがアリステーゼ。あっちのいじわるなお姉ちゃんがユイだ」
「い、いじわるじゃないわよ? いじわるじゃない……よね?」
ユイがちょっぴり傷ついたような顔でアリスに同意を求め、アリスが「大丈夫、ユイはいじわるじゃないよ。ゲーマーなだけだよね」とその頭を撫でている。
なんだか姉妹の立場が逆転している。悪気はなかったみたいだし、チクチクするのはこれで終わりにしておこう。
「話は戻すけど、俺達はティーネが薬草を探すあいだ、護衛するってことで良いか?」
「はい、ありがとうございます!」
「よし、それじゃさっそく薬草を捜しに行こう――って言いたいところだけど、先にブラウンガルムの魔石を回収させてくれ」
最初に倒したブラウンガルムは放置して来たけど、いま倒した分は目の前にある。この調子だと今日は稼げそうにないし、魔石くらいは回収しておきたい。
じゃないと、今夜は野宿&飯抜きが決定してしまう、
という訳でティーネの了承を得て、ブラウンガルムの前に膝をつく。腰から解体用のナイフを取り出していると、アリスが興味津々で寄ってきた。
「アルくん、魔石の回収ってなにをするの?」
「ブラウンガルムの体内に生成された魔石を取り出すんだ」
「ナイフで……ってことだよね。もしかして、結構時間掛かっちゃう?」
「いや、魔石だけなら大した時間は掛からない」
「……魔石だけなら? 本当は他にも回収する物があるの?」
「時間があれば、毛皮や肉、キバなんかも素材として売れるな。でも、そこまで回収してたら時間が掛かっちゃうからな」
ちなみに、魔石を取ると魔物は粒子となって消えてしまう。なので、素材を回収する場合は魔石を最後に取る必要があるのだが、今回は時間優先だ。
「えっと……なら、持って帰ったら素材も回収できる?」
「は? それはそうだけど……このまま持って帰るのは大変だぞ?」
一体くらいならともかく、数十kgの塊が四つである。
「普通なら無理かもだけど……」
アリスが手で触れた瞬間、ブラウンガルムの死体がシュンと消え失せた。
「もしかして……アイテムボックスか?」
「アイテムボックス? うぅん、これはストレージだよ。効果は同じようなモノかもだけど」
「ふむ? 後回しに出来るならぜひ頼む」
「うん。全部収納しちゃうね」
アリスは微笑んで、次々にブラウンガルムの死体を回収してしまった。
まるっきり駆け出しの冒険者だと思ったら、アイテムボックスっぽいなにかを持ってるなんて……知れば知るほど謎の存在だなぁ。
その後、あっさりブラウンガルムを回収できてしまったので、最初の一体も薬草を探す途中で回収。更には薬草を探す途中で襲いかかってきたブラウンガルムの死体も回収する。
その数、全部で十二体。ずいぶんと遭遇率が高い。俺達は森の中にぽっかりと空いた開けた地で小休憩を挟むことにした。
「魔物が活発化してたり……するのか?」
この世界でも終末の災禍が復活しているのかもしれない.そう思ってティーネに問い掛けたところ、そんな話は聞いたことがないという答えが返ってきた。
「森の深いところまで入る冒険者が少ないから、魔物が増えてるって聞きました」
「森の深いところ? 冒険者が少ない?」
この森は、ベルクの街で冒険者デビューした者達が最初にくる森だ。それなのに、冒険者が少ないって……あぁ、なり手自体が少ないのか。
もとの世界には孤児院出身の俺達のように、食べていくために冒険者になる者はいくらでもいた。けど、こっちの世界には孤児院自体なかったもんな。
「アルくん、その腕……」
アリスが俺の腕を掴む。そこには、さっきの戦闘で受けた軽い裂傷があった。
「もしかして、さっき私を助けてくれたとき?」
「さぁ、どうだろう。もしかしたらどこかで引っ掛けたのかも?」
大した傷じゃないし痛みもないから記憶にないと答えると、アリスが困った顔をする。
「……どうした、そんな顔をして」
「私達、足手まとい、だよね」
しょんぼりと顔を伏せる。
まだ一体も自分達で倒せていないことに落ち込んでいるらしい。
「気にするな。二人とも最初ほど慌てないようになってきただろ? それに、二人がティーネのことを護ってくれてるから、俺は安心して敵を倒せるんだ」
だから気にすることはないと、俺はアリスの頭にポンと手を置いた。
「ありがとう、アルくん。……あ、そういえば私、治癒魔術が使えるんだよ。だからその腕、私が治してあげるね」
「お、そうなのか? なら……頼もうかな」
ぶんぶん振り回してる杖は飾りじゃなかったんだなと右腕を差し出す。アリスはそんな俺の腕をジッと見つめたあと、ちらりと上目遣いで俺を見た。
「ところで、治癒魔術ってどうやって使うの?」
「……はい?」
俺は思わず目をしばたたいた。
「なにを言ってるんだ? 治癒魔術を使えるんだろ?」
「使えるはずだけど、使ったことはないの」
「………………はあ?」
「ち、違うの。キャラメイクで選んだ職業の初期スキルを使えるはずだけど、使ったことがないから使い方が分からないの!」
「なるほど、分からん」
素直な感想を口にすると、アリスがちょっぴり泣きそうな顔をする。なんか、俺がイジメ照るみたいになってきた。
「ええっと、魔法の使い方を教えればいいのか?」
「うん。……アルくん、分かるの?」
「俺には治癒魔術の適性がないから、一般的な魔術の使い方になるけど――」
俺はそんな前置きを一つ。魔術の使い方についての講義を始める。
「魔術を使うには、使いたい魔術のイメージを出来るだけ鮮明に思い浮かべながら、体内にある魔力を放出するんだ」
「んーっと、そうすれば魔術が使えるの?」
「放出する方法やイメージの仕方を覚えるまでが大変だけど、端的に言うとそんな感じだ」
「分かった。それじゃ、やってみるね」
「いや、だからその感覚を掴むのが難しい……って」
最後まで口にすることは出来なかった。俺にかざしたアリスの手から温かい光が放たれ、裂傷を癒やし始めたからだ。
「な、なんでそんな簡単に使えるんだよ?」
「え? だから、使い方が分からないだけで、使えるはずだって言ったよ?」
「うぅむ……」
とんでもないことを言ってるのに、さも当然だというこの態度。やっぱりこの二人、揃って謎の存在である。
「ねぇ、アル。私からも聞いて良いかしら?」
「別に良いけど……」
ユイまで魔法をいきなり使う気じゃないだろうなと、俺はちょっと警戒する。
いや、別に使われたからってどうってことじゃないんだけど、俺は攻撃魔法を覚えるのにかなり苦労したのだ。
「体内の魔力を使うって言ったけど、何度も使えばなくなるわよね?」
「あぁ……連続使用をすると枯渇するな。でも、大気中にある魔力素子を無意識下で変換してるから、時間で魔力は回復するんだ」
「自然回復、ね。意図的に回復を早めるとかは出来ないの?」
「慣れれば、意識的に変換速度を上げることが出来る。それに、体内の魔力を圧縮して、多く宿す方法なんかもあるな」
「ふむふむ。瞑想スキルと、最大MPの上昇ね。このゲームのスキルは、誰かに習って習得するしかないのかしら? なかなかリアルな設定ね」
「……なんの話だ?」
「あぁ、ごめんなさい、こっちのこと。取り敢えず、イメージが大切ってことよね」
ユイは自分の手のひらを見つめて黙り込んでしまった。魔法を使おうとしてるみたいだけど、アリスみたいにいきなりは出来ないみたいだ。
ちょっと残念なような、安心したような……複雑な気分である。
「アルくん、治療終わったよ」
「おぉ、ありがとう。痛みがなくなったよ」
「……やっぱり痛かったんだね」
ジト目で睨まれたので、俺はさり気なく視線を逸らした。