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三年前と似て非なる世界 3

*タイトルで迷走中ですが、当分「Re:ネットの彼女は意外とあざとい」の部分は残しておきます。ご迷惑をおかけします。


 エレニアの東門を出ると、草原が広がっている。

「うわぁあぁぁぁあっ! 凄い、凄いっ! ホントに草原にいるみたい!」

 アリスが両手を広げて草原の上でクルクルと回る。

 日の光りを浴びて輝く髪をなびかせながら、幸せそうな笑顔を浮かべる。その姿は物凄く絵になっているが……やっぱり言ってることがよく分からない。

 草原にいないのなら、おまえは一体どこにいるんだ。


「もう、アリスったらあんなにはしゃいで、恥ずかしいわね。……でも、現実じゃあんな風にはしゃげないから仕方ないか」

 隣にいたユイがぽつりと呟いた。


「ときどき会話の内容が理解できないんだけど、エルフ特有の言い回しかなにかなのか?」

 それとも、ちょっと残念な子なのか? とは声に出さずに問い掛ける。それに対して、ユイが少し感心するように目を瞬いた。


「へぇ、そんなことに疑問を持つように設定されてるのね」

「だから……」

「あぁ、ごめんなさい。そうね、言うなれば……あたし達は異世界の住人なのよ」

「異世界の住人?」

 なにを言ってるんだ、この子は。


「まあ信じられないわよね。あたし達は……そうね。簡単にいうと、遠い世界から来たプレイヤー一族なの。だから、貴方達とは若干常識が違うのよ」

「……分かった」

 よく分からないけど、分かったことにしておく。深入りしたら面倒くさそうだし。


「ユイ、アルくん。あっちに角の生えたウサギみたいなのがいるよっ!」

 アリスが草原の向こうを指差す。

 その先をたどると、体長50cmくらいの一角ウサギがちらほらと見える。


「あぁ、あれは一角ウサギだな」

「一角ウサギ? 魔物なの?」

「いや、魔石を持ってないから、分類的には動物だな」

 ちなみに、体内に魔石を宿しているのが魔物で、宿していないのが動物である。


「動物っていうことは……襲ってこないの?」

「ああ、こっちから手を出さなきゃ襲ってこないな」

 俺がアリスに答えると「ノンアクなのね」とユイが呟く。

「ノンアク?」

「ノンアクティブの敵。こっちから手を出さないと襲ってこない敵のことよ」

「あぁ、なるほど。ならノンアクだ」

「なら、あれで戦いの練習をすれば良いのね?」

「……は?」

 予想外すぎて変な声が出た。


「ほら、あっちの方でも戦ってる人がいるじゃない」

 ユイが指差す方に、逃げる一角ウサギを追い回している男がいる。

「あれは……狩人だろ」

「あたし達と同じような格好に見えるけど?」

「格好が同じだからって、目的も同じとは限らないだろ? というか、冒険者を目指す奴が、ろくに反撃もしてこない一角ウサギと戦ってどうするんだよ。経験にならないだろ?」

「……そういうもの?」

「そういうものだ。もちろん、一角ウサギと戯れたいって言うなら止めないけど」

 どうすると問い掛けると、森に行くという返事が返ってきた。



 そんなわけで、少し歩いて森の入り口に到着、そのまま森の中へと足を踏み入れる。

 森――といっても、入り口付近は歩きやすい浅い森だ。木々のあいだを抜けて、ずんずんと森の奥へと進む。少し歩いたところで、俺は魔物の気配を察知した。


「二人とも、向こうを見ろ」

 俺は小声で森の奥に見え隠れしているブラウンガルムを指差した。

「え、どこどこ?」

 ユイが俺の腕に身を寄せて、その指差している方を見る。ユイのプラチナブロンドが俺の頬に触れてくすぐったい。というか、ちょっと近いんだけど。

 とか思ってたら、アリスは俺の背後に立って指差す先をたどった。首過ぎにアリスの吐息を感じる。この二人、ちょっと無防備すぎじゃないですかねぇ。


「あ、ホントね」

「私も見えた、オオカミみたいなのがいるね」

「あれはブラウンガルム、この辺りでは最弱な魔物だ。とはいえ、魔物であることには変わりない。仲間がいる可能性も高いし、慎重に――」

「――まずは、殴ってみましょう」

「うん、そうだねっ」

「……はい?」

 こいつら、なにを言ってるんだと思ったときには遅かった。二人はそれぞれの武器を構えて、ブラウンガルムに向かって駈け出していた。


「ちょ、まっ。……えぇ?」

 ブラウンガルムの全長は1mくらい。

 訓練を積んでいる冒険者でなければ、武器を持っていても無傷での勝利は難しい。初心者冒険者は、四人くらいで協力して倒すのが普通だ。

 そんな魔物に、なんの策もなく突撃を仕掛ける二人の少女。そのあまりの無謀っぷりに、俺は呆気にとられてしまった。

 そして、俺が呆れているあいだに、二人はブラウンガルムに襲いかかる。


 ユイが細身の剣を斬り掛かるが、ブラウンガルムは難なく回避。そこにアリスが杖で殴りかかるが、やっぱりこっちも回避される。

 というか、アリスが持ってるのは魔術を使うための杖、だよな?

 そう思って見直すが、やっぱり魔術を使うための杖で……アリスはそれをぶんぶんと振り回している。……いや、良いんだけどさ。

 なんて俺が呆れているあいだに、ユイがブラウンガルムの体当たりを喰らって吹き飛んだ。


「ユイっ、大丈夫!?」

「……ぃたた。あたしは、大丈夫」

「よかった――ひゃわっ!?」

 ユイに気を取られたアリスが、ブラウンガルムに押し倒される。


「ふえぇっ!? 口がっ、キバが凄くリアル! やだ、やだやだっ、ホントに恐い! 食べられちゃう、私食べられちゃう!?」

 ブラウンガルムにのし掛かられてパニックに陥る。アリスがブラウンガルムに噛みつかれる――寸前、俺はブラウンガルムを蹴り飛ばす。

 その一撃が軽かったからか、ブラウンガルムは即座に反撃の体勢に移った。

 野生の獣のくせに勘が働いてないな。

 俺の蹴りが弱かったのは、手加減しなきゃ下にいたアリスが穢れるからだ。俺は飛び掛かってきたブラウンガルムを一刀のもとに斬り伏せた。


「さて……と、他に敵は……いなさそうだな」

 安全を確認した俺は、落ち葉の上に倒れているアリスに向かって手を差し出す。アリスは状況について来れていないかのように戸惑っていた。


「……まったく、いくらなんでも無謀だぞ」

「うぅ、ごめんなさい……」

 俺の手を掴んで起き上がる。

 さすがにさっきのは堪えたのか、アリスはずいぶんと殊勝な態度になっている。ちょっと可哀想に思ったので、俺は落ち葉まみれになっている背中をパタパタと払ってやる。


「怪我はないか?」

「え? あ、う、うん。大丈夫……ありがとう」

「なら良いけど、あんまり無茶するなよっ」

「――ひゃうっ」

 最後にお尻の落ち葉を払ったら、アリスは真っ赤になって飛び上がった。そしてなにか言いたげに俺を見上げるが、結局「ありがとう……」と呟いた。


「ユイも、怪我はしてない――うおっ!?」

 振り向いた目前に拳が迫っていて、俺は慌てて上半身を反らして回避した。一瞬遅れでユイが殴りかかってきたんだと気がついた。


「い、いきなりなんだ!?」

「うるさい、この乙女の敵っ! 咲夜のお尻を触るなんて許さないわ、この変態っ!」

「は、はぁ?」

 っていうか、咲夜って誰だ?


「よく分からないけど、お尻についてる落ち葉を払っただけだぞ?」

「だけ、ですって?」

 ユイは怒りを滲ませ、再び殴りかかってきそうな勢いだ。だが、ユイが動くより早く、アリスが俺の前に立った。

「ユイ、やめて。私は大丈夫だから」

「でも、アリス! お尻、触られたんでしょ?」

「落ち葉を落としてもらっただけだよ。驚いちゃったけど、それだけだから、ね?」

 俺の目の前で、アリスが必死に説得をする。

 アリスは俺に背を向けているのでその表情を伺うことは出来ないけど、ユイはアリスと俺の顔を見比べて、やがて溜息をついた。


「……分かったわ。あたし達が救われたのは事実だし、それでチャラにしましょう。アルもそれで構わないわね?」

「ああ、構わない。それと……嫌な思いをさせたなら悪かったな」

 お尻を撫でたのならともかく、お尻の落ち葉をはたき落としたくらいで、冒険者が悲鳴を上げるくらい気にするとは思わなかった。

 けど、二人は育ちの良さそうな女の子だし、感覚がズレていることも既に知っていたので、今回は俺が悪いと頭を下げた。


「うぅん、さっきも言ったけど、驚いただけだから。それから、助けてくれてありがとう」

「いや、案内するっていったのは俺だからな。間に合ってよかった」

 しかし……この二人、あまりに戦いに不慣れすぎる。一般的な駆け出しが抱く恐れを持たないのは長所だけど、慎重さが伴わないと大きな短所にもなり得る。

 このままだと、遠くない未来に死んでしまうだろう。


「やっぱり、街に戻ってギルドで訓練を――」

 俺のセリフを遮るように、幼い女の子の悲鳴が森に響き渡った。

 

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