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第3話 新たな私

 職業には、隠れた要素がある。

 その一つに、性格や行いの変化によって、性質を変える職業というのがある。

 私の職業である消毒師が、そういった類のものであったのを知ったのは、

 偶然からだった。


 勇者パーティーを追放され、勇者アレルと婚約破棄をした私は自暴自棄になっていた。

 沢山、涙を流した―――でも、それだけで私の心は癒されることはなかった。


 中央大陸ロックディスタルン――――通称ロックには5つの大国が存在していた。

 その最も東に位置する大国バンバラで、傷心に暮れていた私は、食べ歩きをすることで、心を癒していた。


 勇者パーティーの一員として、魔王討伐という大目標を掲げていたため、ストイックな生活を強いていた私は、もちろん食事にも厳しい制限を課していた。


 が、魔王討伐を成功させ、なおかつ、幼女となった私には、もうその必要はない。なので、大国中の美味しいと評判のレストランから、パン屋、ケーキ屋、特殊お菓子屋、穴場料理店とまあ、食べに食べに食べ、食べ歩きまくった。

 不思議なことに、一度そういった欲望のタガが外れると、制御が難しくなる。


 私は、欲しいものもたくさん買った。

 服から、アクセサリー、小物と、あらゆるもの気の赴くままに買いまくった。

 そして、気がつくとお金が無くなっていた。


「お嬢様、支払いは5万ゴールドでございます」

「ん・・・・・・あれ?」


 とある有名ブランド魔法服店で会計をしようと思った私は困惑していた。

 冒険者カードに入っていたお金がすっからかんだったのだ。


 さらに、銀行に預けているお金もすっからかん。私は支払いを何とかしようと、冒険者カードのアイテムボックス内にあるもので、お金になりそうなものをさがしていた。


「お嬢様、お会計はいかがなさいましょう・・・」

「ちょ、ちょっと待って・・・」


 お金があれば、幼女の私と言えど、丁寧な態度で応対をしてはくれるものの、少し怪しいと思うと、大抵の大人は態度を豹変させる。


「んえ?・・・・・・こ、これは・・・」


 冒険者カードをスクロールしていると、あるものがアイテムボックスに入っていたことに、私は気がついた。

 私は勇者パーティーにいたのだ。そして、魔王討伐する以前は、勇者アレルと婚約を結んでおり、信頼を勝ち得ていた。

 なので、勇者パーティーのもしもの場合に備えての、ゴールドカードを預かっていたのだ。


 ゴールドカードとは、クレジットカードのようなもので、信用によって引き出せる限度額が決まっている。その名義は、たしか――――――勇者アレルになっているはず。魔王討伐した勇者のゴールドカードとなると、信用は天井知らずのはず。

 これで支払いをすれば、支払いは、アレルのもとに・・・。


「これで、支払いを」


 私は、罪悪感をまるで抱くことなく、ゴールドカードで支払いを済ませた。

 一度、ゴールドカードで支払いをすると癖になるものだ。

 私は、気持ち高々、そのゴールドカードで豪遊をした。


 バカンスにも出かけたし、今まで買うことをためらっていた宝石類にも手を出した。豪邸まで買ってしまった。





 そして、街一つ分ほどある豪邸の中庭で、日向ぼっこをしている時、私の耳に、機械的なある声が聞こえてきたのだ。

 それは、レベルアップした時に聞こえるのと同じ声だった。


(メリクリ様、消毒師における《暗黒面》の熟練度が上昇しました。そのことによって―――――)


 暗黒面って何?と思い、冒険者カードを開くと、私が今まで適性がないと諦めていた、《攻撃魔法》や、相手の能力を下げる等の《いやがらせ魔法》を覚えているではないか。


 超レア職業である消毒師は、賢者の上位互換の職業に当たる。

 それなのに、私は、回復魔法や、味方のステータス等を上げる補助魔法しか使えなかった。


 その原因は、私の行い、ひいては性格にあったのだ。


「私、今まで、いい子すぎたんだ」


 私は今まで、いい子で生きて来た。

 誰かが困っている姿を見れば、手を差し伸べ、

 誰かが、何かを言う前に、気に入られるように行動してきた。

 小さな例だと、勇者パーティーの服や下着を洗濯するだとか。


 それが、まさか、私自身の能力に制限をかけていたなど、思いもしなかった。


 私は自室に戻り、姿見の前で、純白のドレス(子供用)を脱ぐ。そして、黒々とした、やけに露出度の高いドレスに着替える。化粧は清楚さを売りにした薄めのものではなく、アイラインをしっかりと引き、口紅は最近はやりの朱色に変える。


 姿見に映った小さな私は、今までの私とは違っていた。

 清純清楚を売りにした私ではなく、今まで軽蔑の眼差しを向けていた、男に媚びを売るいやらしい女がそこにはいたのだ。

 小悪魔的な私が。


「うふふふふ、こんな、私もありかな。

 どうやら、私、追放されて、さらに婚約破棄したせいか、少しだけ強くなったみたい」


 姿見の中でそうつぶやいた私は、もう以前の私ではなくなっていた。

 暗黒面に目覚めたのだ。


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