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第1話 最終決戦、私は年を失う

『ぐふふふふ、そなたたち、やりおるわ。ここまで世を追い詰めるとは』


 魔王は、杖で体を支えていた。

 漆黒のローブは破れ、獣人族特有の赤い目が、苦しそうに細まっている。


 私たち、勇者パーティーは、魔王を追い詰めていた。


「あと少しだ、お前たち!!」

「ああ、わかっている」

「わかっているぜい」


 大陸勇者アレルの声に、貴族聖騎士バッコイと、イケボおっさんハンターギンは、声を合わせる。


 ちなみに職業の前についている名称は、その職業のクラスを表している。大陸勇者は、別名SSランク勇者と言われている。バッコイとギンはともにSランクである。


『ぐおほほほ、さあ、かかってくるがよいわ!!』


 魔王は両腕を広げた。側頭部から角が伸び、肌には銀色の鱗が覆っていた。

 体の大きさは、先ほどの2倍以上になっている。

 生えている爪の長さだけでも、女の私よりもある。

 

 魔王は第4形態となり、私たちを迎えうとうとしていた。


「大丈夫、あなたたち!!」


 私は後衛から、魔王を囲むアレル、バッコイ、ギンに声をかける。

 私の職業は、超レア職業――――消毒師。

 賢者の上位互換の職業だ。

 この職業である人は、世界に私しかいない。


「大丈夫だ、メリクリ。だが、サポートをしっかり頼む」


 アレルは私に優しく声をかけてくれる。


 私たちの薬指には婚約指輪がはめられていた。

 この魔王との最終決戦を終えたら、結婚しようと誓いあっている。

 もし、1万メートル級のエビルマウンテン頂上にある魔王城―――その最奥にある『魔王の間』から、無事に帰れたらの話だが。


『ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、心地いいぞ!! さあ、お前たちの力、みせてみよ!!』


 魔王の声をかわきりに、私たちは最後の力をふりしぼり、魔王と戦った。


「力の極み!! 速さの極み!! 守りの極み!!」


 魔王との激戦を極める三人に、私は後衛から補助魔法をかける。

 この魔法は、各々のステータスを大幅に引き上げてくれる。

 私の推測では、少なく見積もっても10倍はあると思う。


 魔法の詠唱、適切な細剣の振り、どれ一つズレても、この魔法は成立しない高度なものだ。

 しかし、勇者パーティーで、何万回とサポートをしてきた私は、決してミスをしない。

 それは、世界を救うため、みんなのため、そして、アレルのため。


 そういった思いが、私をここまで強くしてくれた。


「おっさんハンター流―――匂いたつおっさんの舞」


 巨大な斧を振り回すギンが、大地を穿つほどの連続振り下ろしを魔王に叩きこむ。


「聖魔法剣―――セイント・ブラック・プリン」


 白銀色の輝きを放つ聖魔法を付加した大剣の超絶切り上げを、バッコイは魔王へ走らす。


「メリクリは、俺が守る!!! 剣技―――スター・ダスト・スゥイーンカイプリンセス」


 深海のプリンセスのまとう燐光の如く輝いた剣を、バッコイとギンの超攻撃でひるんだ魔王に、アレルは流星の如く流れ落ちる―――計100連撃を振り落とす。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 刹那の時間で、とんでもない攻撃を叩きこまれた魔王は、上体をのけぞらし、尻餅をついた。

 魔王の玉座が砕け、いたるところに亀裂が走る。


『ふほほほほ、やるわ、やりおるわ、だがなあ――――――!!』


 魔王が、暗黒の瘴気をまとい始める。

 底なし濃い闇を体にまとった魔王は、次の瞬間、それを私たちに向かって解き放った。


 フレアが如き全方向に放たれたその暗黒の波動―――《終焉の闇》は、私のサポート魔法をすべて打ち消すだけでなく、私たちの防御を貫き、瀕死状態にするとんでもないものだった。


 私たちは、一瞬で危機的状況になり、皆、立つことすらままならなくなった。

 私も、冷たい床の上で倒れていた。


『ぐおほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ』


 魔王の勝利を確信した笑い声が木霊する。


 負けられない。

 私は歯を食いしばる。

 だって、私には、守るべきものがあるんだもの。


 皆、なんとか立ち上がろうともがいていた。

 そんな中、私は、膝に手をつき、なんとか立ち上がる。


『まだ、立ち上がる奴がおるとはな、そなたの名は――――』


 魔王は、私に名を聞く。


「私の名は、消毒師―――メリー・クリトゥイス……略して、メリクリよ!!」


 私は、魔法を詠唱し始める。

 同時、細剣を振るい、舞いを踊る。


 最後のくだらないあがきだと思い、魔王は私を侮蔑する笑い声を上げている。

 ありがたい。

 だって、この魔法は、私たちを救ってくれるものなのだから。


「消毒師特殊魔法――――ラブ・ドゥース」


 私の体を包んでいたピンク色の光は、やがて、倒れている三人の体を優しく包む。

 その魔法は、彼らの体力を回復し、あらゆるマイナス効果を打ち消し、ステータスを大幅に引き上げつつ一定時間無敵にする、いわば、私にとっての禁じ手だった。


 アレルたちが一人、また一人と立ち上がる頃には、私の体は小さくなっていた。

 私は、自らの年齢を犠牲にして、この魔法を発動させたのだ。

 これは、消毒師になるため、隠しダンジョン地下9999階に潜った時、消毒師の像に注意されていたことでもあった。


 ―――その魔法を使うと、あなたは年齢を失う―――


 だけど、私にはもっと、大切な事があった。

 アレル―――――。


 アレルは、魔法を唱えていた。

 いや、勇者だけが使える――――あの技だ。


「《みんなの力》―――――――、さあ、みんな、俺に手を貸してくれ!!」

『コシャクナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 勇者アレルたちの復活に、魔王は明らかに動揺していた。

 魔王の放つ闇魔法や特大攻撃の嵐を、アレルたちは無効化していく。


 アレル、バッコイ、ギンの三人は、手を握りあう。

 勇者アレルは、倒れる私に手を伸ばす。


「さあ、メリクリ、手を・・・・・・」


 勇者アレルは、顔に笑みを浮かべ、私に手を伸ばしていた。

 でも、私はもう手すら伸ばすことができなかった。


「メリクリ・・・・・・」


 私の力がなくとも、今のアレルたちには十分だっただろう。

 三人がまとった白色の輝かんばかりの光は、やがて、魔王を飲み込んだ。


 無敵×3という補正を加えた《みんなの力》というバグ攻撃に飲み込まれた魔王は、なすすべなく、粉塵とかし、消えていった。

 

 天井の亀裂から覗く空は青かった。

 世界を覆っていた闇の雲は消え去っていた。


 世界は、魔王の手から救われたのだ。



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