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第七話 家族で風邪を引くと、誰かが面倒をみないといけない。

朝から体調不良の獅子雄だったが、同時に出雲達までもが体調不良をおこしていた。

そこへと朝から朝日ちゃんから電話がかかり、母親からも突然の頼み事をされてしまう。

 人生で始めて…人から告白された。

 普通は異性に対して行うものだと思っていた。

 同性同士に関する恋愛などは、漫画や俺には一切無縁のことだと、昨日まで思っていたんだ。

 元々姉の手伝いで、BL同人誌の制作をしていたりはしていた。

 これはもちろんのこと、他の家族には黙っていた。

 だが今では、家族の間で一人にバレてしまった。


「うぅ…頭悪いよぉ。お兄達に風邪移された…最悪」

「頭が悪いのは前からだろ。あと頭が痛いの間違いじゃないのか?」


 本当は誰にも言うつもりはなく、ずっと隠し通す気だった。


「でも昨日は良い物が見られたから…お兄を許してあげる。龍子姉も喜んでたしね」

「そのおかげで、昨日の晩は質問攻めにされてたよ。おかげでまた寝不足だ」


 今こうして話をしている出雲にも、言う予定なんてなかった。

 俺が同人誌のアシスタントをしているのがバレた理由は、出雲の友達である亜紗妃ちゃんだ。

 悪く言うつもりは一切ないのだが、簡単に言うと理由の一部分に過ぎない。

 個人的には、一番の原因は竜子さんだと思っている。

 二人に同人作家だというのをバラしたのが、竜子さん本人なのだから。

 まぁどちらにせよ、遅かれ早かれバレて居た可能性の方が高かった。

 幸いなことに、妹は腐女子と言う事で、嫌悪感どころか前よりも仲が良くなった気もする。

 問題は出雲の友人である、亜紗妃ちゃんから告白されたと言う事。

 基本的にモテなかった俺が突然にして、美少女のような男子から告白された。

 そのことがずっと頭の中に残り、水槽の中で発生するアオミドロという厄介なコケのように、モヤモヤとしている。


「なんだかプリン食べたくなってきた…お兄は今日も休むんでしょ?コンビニで買って来てよ」

「俺も病み上がりなんだよ。まだ微熱も残ってるから無理だ」


 まるでフグの様に頬を大きく膨らませる出雲を見ていると、気楽で羨ましいと思えてしまう俺がいる。

 こっちは昨日の件で頭を抱えていると言うのに、プリンが食べたいと要求してくる神経が凄い。

 やっと微熱まで下がった兄を、コンビニに送り出そうとする妹…悲しいよ。

 竜子さんなら喜んで行くのだろうが、あの人は昨日暴れたせいで、風邪が悪化してしまったらしい。


「あっ、ちょっと待って…あらら、お兄の風邪、亜紗妃ちゃんも移ったみたい。学校を休むって…これは責任を取らないとだよ?」


 責任も何も、完全に自己責任じゃないか。


「…家に来たいって言ってるんだけど、いいよね?」


 いいよねって…あっちも風邪を引いてるんだろ。

 この風邪を引いた三人の家に来たって、頼れる人間が殆どいないんだぞ。

 ため息をついて、親父達に聞いてみるように言おうとした時、部屋の中に我らの母が入って来た。


「ちょうど良かった。二人共、今から知人の所の子ども預かることになったからよろしく…それじゃ!」


 用件だけを伝えると、脱兎の如く去って行った。

 風邪で弱ってる子ども達へ、知人の子どもの面倒を見させるって、何を考えてるんだ!?

 てか知人の子どもって言ってたけど、一体誰の子どもが来るのか知らされてない!

 一番重要であるところを省いて行くなんて…。


「亜紗妃ちゃんからで、もうこっちに向かってるって」

「ちょっとヤバい状況じゃないか?風邪を引いてるのに、更に病人が増える上で、子どもの相手だ…マジでヤバくないか!?」


 お互いに顔を見合わせて、携帯に来た文面を確認して、間違いないことを認識する。


「よく考えたら、亜紗妃ちゃんの家ってここから結構あるよ!?ヤバいヤバい!お兄どうしよう!?」

「おお落ち着け!俺が迎えに行ってくる!住所は!?」


 俺は急いで支度をして、出雲に言われた場所へと向かった。

 風邪を引いているからマスクを着けているが、走っているせいで呼吸が凄く苦しい。

 周りからしたら、不審者がランニングをしてるように見えてるだろう。

 だってさっき、曲がり角とかにある鏡に写った自身を見たら、完全に不審者だったからな。

 途中で登校中の小学生に号泣されたりもしたから、次の回覧板が怖い。

 念の為にパーカーを着込んで、帽子まで被ってるせいで、余計に不審者感が強いのだろう。


「駅までって…こんな遠かったか?」


 もう息切れを起こし始めてるせいで、膝に手を突きながら辺りを見回した。

 この駅の辺りでやっと半分ほどだから、ここから歩いて行けば、息を整えながら迎えに行ける。

 途中コンビニで飲み物を買ったまではよかったのだが、出かけたことを竜子さんにバレたらしく、煙草を買ってこいと命令が連続で来る。

 まず俺の年齢的には買うことが出来ないと言ってkるのに、あの人は顔で通るとか言ってくる。

 まず急いで家を飛び出してきたから、小銭入れしか持ってきていない。

 つまり…煙草を買う余裕すらないということだ。

 正直ざまあとか言いたいところだが、あの人は自分の悪口とかに関しては、どこに居ても鋭く感じ取られるから下手に言えない。


「この辺りのはずなんだが…来たことないからな」


 亜紗妃ちゃんの家の近辺までは来たものの、途中で亜紗妃ちゃんに会うことはなかった。

 少しだけ途方に暮れていると、出雲から連絡が入った。


「あっ、もしもし?お兄、聞いてよ!ママが言ってた知人の子どもって、亜紗妃ちゃんのことだったの!超ウケない!?んで今すぐ帰ってこいだって。今ってどこら辺?」

「もう目的地まで来てるよ…そりゃねぇだろ。亜紗妃ちゃんは寝てるのか?」


 出雲によると、そこまで酷い状態ではないが、少しだけ頭がスッキリとしない状態らしい。

 確かに風邪の状態だと、頭がスッキリしないのも分る。

 それ以上に、また頭痛が起り始めた。

 風邪の状態で外を走ったのが原因だ…自分でも馬鹿な事をしたと、若干後悔し始めている。

 やはり歩いて行くべきだと思ったが、心配で走り出したのが間違いだ。


「まだ駅辺りだと思ってたんだけど…龍子姉って車とか、運転出来たりする?」

「龍子姉さんはずっと引きこもりだったから、免許自体を持ってない。こっちは出来るだけ早く帰る様にする」


 早く帰るとは行ったものの…最初の時みたいに走れる程の体力なんて残っていない。

 地道に歩いて帰るしかないのか。

 にしてもだ…まさか知人の子どもというのが、亜紗妃ちゃんだったのには驚いた。

 これじゃあここまで来た意味が一切ないな。

 昨日の事で、亜紗妃ちゃんに会うのもかなり気が引けてくる。

 本当に困った…昨日の件と一昨日の件が重なってる。

 亜紗妃ちゃんは男なのに…竜子さんとの風呂場の件が混ざって、全然違う光景が見え始めてきた。

 末期まで到達してしまったか…視線の先に竜子さんらしき人影も見えてきた。


「見つけたぞ…この馬鹿弟。さっさと車に乗れ…頭痛ぇ、クソッ!お前後で覚えてろ!この借りは必ず返して貰うからな」


 らしきと思って居たのは本物だった…それどころか、無理矢理立たされて車に押し込まれた。

 車内には前の席に出雲、後部座席には亜紗妃ちゃんが座っていた。

 話を聞いてみると、亜紗妃ちゃんが迎えに行こうと言い出し、その帰りに病院に行く予定とのこと。

 竜子さんの方は朝は酷かった熱も大分落ち着いたらしく、そのまま病院に行けと通達を受けたそうだ。


「お兄の顔がカージナルテトラみたいに真っ赤になってる!」

「熱が上がってます!これ凄く危なくないですか!?」


 大騒ぎする二人の声が頭痛に響いてきたが、車内全員が同じようだった。

 全員が風邪気味という、まさに風邪のウィルスに感染した者が乗った、感染者のみのしかいない感染車というわけだ。

 むろん病院では医師から滅茶苦茶怒られた上で、逆ギレをする竜子さんを止めるのには苦労した。

 もう恒例となりつつある、顔面に来る攻撃。

 今日に関しては肘打ちが飛んで来たが、威力は三分の一程度で済んだ。

 三分の一でもかなり痛いが。


「あのクソアマ!風邪引いてるときは煙草控えろって、アタシに禁煙しろって言ってんのと同じだろ!絶対に控えてやるか!もうやけくそだ!」


 運転をしながら葉巻を吸う竜子さん。

 診察が終わって、薬局から戻ってきたときには既に、火を付け始めていた。

 ゆえに止める暇もなく、車内全体が葉巻の香りで包まれている。

 葉巻をふかされるせいでマスクをしてる上でも臭いが充満する…まだ煙草より多少なりともマシなのが救いだ。


「竜子姉…ちゃんと灰皿に捨てなよ。窓から手だしたら危ないって」

「だって獅子雄のヤツが灰皿の中身捨てないから」

「人の所為にするなよ。アンタ二日のペースで灰皿を溢れかえさせるだろ」


 ヘビースモーカーだから相当吸っているから、煙草の消費量も馬鹿にならないらしい。

 この車も一応は竜子さんが成人した時に、両親がプレゼントしたものだが、一週間で車内をヤニ臭くした伝説がある。

 運転席の横に物入れ付きの肘起きが設置してあるが、中身は殆どが煙草とライター。

 もちろんCDの所にも予備の煙草を入れており、ドアに付いたドリンクホルダーには缶が設置されており、中身はもちろん詰め替えた煙草である。

 竜子さん以外が全員一致で、この車に搭乗する事を拒否する。

 大体乗ると衣服に臭いが付着するからである…あと俺の場合は、煙草代に回すための運賃を要求してくる。


「お兄さん、具合はどうですか?辛かった言ってください」

「ああ…ありがとう」


 気まずい…気まずいよ!

 亜紗妃ちゃんの顔が赤いのが、どっちの意味でなのか全然わからない!

 幸いなことに、竜子さんまで話が言っていない様子だ。

 だがたまに出雲のヤツが、ニヤニヤしてるのがバッグミラーに写ってる。


「あ?何見てんだオラッ!?頭かち割って灰皿の中身全部詰めるぞゴラァッ!!」


 突然運転席から暴言が出たので、驚いてみると窓から顔を出して怒鳴っている。

 どうも隣の車に対して言っている様子で、元ヤンの逆鱗に触れる事をしたらしい。

 窓から少しだけ見えるが、隣の車には明らかにイケメンですよな人が、三名ほど乗っている。

 車は詳しくない俺でも分る…真っ赤なオープンカーだ。

 まるで映画に出てきそうなくらいに真っ赤なボディの車。


「そんなに怒らなくてもいいじゃん?俺等と一緒に楽しもうって。隣の子も言ってあげてよ」

「アタシの可愛い妹に気安く話掛けてんじゃねぇ!今すぐ失せねぇとマジでぶっ殺す!」

「おお怖い。怒った顔も可愛いね!ベッドの上だともっといい顔を見せてくれるのかな?そこの子も一緒にどお?」


 うん…竜子さんがガチギレしてる理由が分った。

 つか俺もイラッときた、久々にイラッときた。

 もう竜子さんが暴言吐いても止める気すら失せたぞ。


「殺す…マジぶっ殺してやる!そこのコンビニに車止めろ!獅子雄!お前も付き合え!後ろにバッド置いてあるだろ!お前それ使え!あとアタシ専用のメリケンサックも取り出せ!ムカつく顔面を叩き潰す!」

「待って!私に良い考えがある!竜子姉、サングラスあるよね?お兄に貸してあげて。んでお兄にはやって貰いたい事があるから」


 出雲の提案に対して、あまり乗り気にはならなかったが、上手くいけば確かに怪我人が出なくて済むだろう。

 だが喧嘩が出来ないと分ると、竜子さんは不満そうにしつつも、近くのコンビニの駐車場に車を止めた。

 車から相手が降りると同時に、出雲と竜子さん、そして亜紗妃ちゃんが三人降りる。

 すると亜紗妃ちゃんを見たイケメン三人はテンションが上がったのか、いやらしい笑みを浮かべながら、三人の元へと近づき始めた。

 ここまでは出雲の予想通りだ。

 だがここで予定外の事が起ってしまった。

 予想では一人が竜子さんの肩に手を乗せるだろうと踏んでいたのだが、まさかの肩を組んで来たのだ。

 瞬時に竜子さんの本能が働いて、肩を組んだ一人の腕を捻り挙げ、オープンカーへと蹴り飛ばした。


「このアマ!?何しやがる!?」


 驚きつつも叫ぶ二人に対して、拳を鳴らし始めたので、止める為に俺は車から降りた。

 本来の計画であれば、手を掛けた瞬間にサングラスを掛けた俺が車から降りて、三人を威圧することになっていた。

 しかしだ…竜子さんが蹴り飛ばしたせいで、相手が車の中に逆さで突っ込んだのだ。

 そのせいで出遅れてしまったが、インパクトは相当あったみたいだ。

 相手の顔が徐々に青ざめ始め、後ずさりし始める。

 竜子さんが車に幾つかサングラスを積んでいてくれて助かった…マトリ○クス風のを着けたおかげで、いつもより迫力が出てる。


「や…ヤクザが乗ってるなんて聞いてねぇぞ!?」

「分った?私達に手出すって事は、ヤーさんに喧嘩売ってるって事だからね!」

「そうです!私達には、この人が着いて居るんですから!怖かったら大人しく何処かへ行ってください!」


 勝ち誇った顔の出雲に、俺の背後に隠れる亜紗妃ちゃん。

 何より危険なのは、今にも殴り掛る体勢に入ってる竜子さんだ。

 相手の方は完全に戦意喪失をしているから、このまま去ってくれると助かる。

 正直、俺達四人は風邪を引いてるから、かなり限界に近い状態だ。


「もう逃げようぜ…ヤクザ相手にしたらあとから仕返しされるかもしれないぞ」

「きょ、今日はこの辺で勘弁してやる!」


 漫画の様な捨て台詞を吐いた後、三人は車で何処かに走っていった。

 あのまま事故らないといいのだが。


「怖かったです…お姉さんは何に怒ったんですか?」

「…手で…アレの動きされて」


 この意味を直ぐに理解出来てしまったのが恥ずかしく思ったが、二人も理解出来てしまったようだ。

 竜子さんもだが、凄く微妙な空気になってしまった。

 しかし…無事に追い払う事が出来て良かった。

 もしあのまま逃げないで、攻撃されたかと思うと恐ろしい。

 まぁ、こっちには元ヤンが居るから、負ける事自体は無かっただろうが。

 その後は俺と竜子さんで、コンビニでスポドリを買って、四人で休憩した後に家へ帰った。

 家の中では母がリビングで待機しており、俺達は頭をはたかれた後に、説教を受けることになってしまった。

 風邪を引いていたとは言え、かなりの無茶をしてしまった事は反省しないといけない。

 あの時はテンションがおかしくなってしまったが、きっと全員が熱が出ていたせいだと思いたい。


 帰って来てから俺は、ずっと部屋で漫画を読みながら、時間を潰していた。

 全員が自分の部屋で大人しくしていろと言われたからである。

 出雲の部屋の方もかなり静かな様子だが…あの出雲が大人しいのが逆に不安になってくる。

 いや待て…一緒に亜紗妃ちゃんがいるから、大人しく同人誌を読んでいるのではないか?

 だとしたら良いんだが…あの二人の事だから、何か計画を立てているんじゃないだろうか。

 二人には前科もあることだから、警戒はしておいた方がいいだろう。


「お兄!あのゾンビとか撃つゲーム貸して!てかめちゃくちゃ退屈だからここに居さして、持ってくの面倒くさいからいから」


 朝は喉が痛いとか言っていたのに、友達が来た途端から元気になった。

 こっちとしては嬉しい事でもあるのだが、どうしても疑いの目を向けてしまう。


「風邪引いたら学校休めるけど、結構出来る事って限られてくるよね。外に買い物も行けないでしょ?竜子姉も風邪だからDVDのレンタルとかも頼れないしで」

「えっと…お姉さんは普段何をしてるんですか?いつも家に居るようにしか思えないですが」

「竜子さんは一応大学生だよ。昼間は必要な単位だけ取りに行ってるだけで、殆どは家で煙草とか昔のヤンキー仲間と出かけたりしてる」


 なにげなく答えて見ると、まるで憧れています的な顔をされる。

 大学生という言葉は、かなりリア充感も出てくるが…あの人は煙草ふかしてる時が一番いきいきとしてるからな。

 でも俺も正直驚いていたのは…あの人が、意外と頭が良いところだ。

 あれはまだ竜子さんが中学時代のこと。

 学校のテストでいきなり、全科目を百点満点とった事件がある。

 両親と俺達は驚いた上で、その晩には特上寿司を食べた事があった。

 だから大学に最低限の科目だけで行っていても、全然余裕で居るんだろう。


「大学生って憧れませんか!?サークルで仲間と楽しい時間を過ごして、恋人を作って、いっぱい良い事がありそうじゃないですか!?」


 サークルで仲間と楽しい時間を過ごして、恋人を作る。

 竜子さんは両方ともあてはまってない!


「それ全部幻想だから。竜子姉を見て分るとおり、別に大学生になっても…リア充になんてなれないよ」

「参考にする相手を間違えてるだろ。あの人を参考にするのはやめといた方がいい…最後はニコチン中毒者になるぞ」


 この言葉の後、数秒してから床から衝撃が来た。

 恐らく竜子さんが気づいて、脅しの積もりで棒か何かで突いたのだろう。

 にしてもだ…やっぱり気まずい。

 テレビの前に俺が座って、左に出雲が座り、右に亜紗妃ちゃんが座っている。

 しかも怖いのか腕にしがみ付いてくる。

 ブルブルと震えているのが凄い伝わってくる。


「来てる!ゾンビが沢山来てる!ちょ、弾が全然当たらない!何これ!?絶対におかしいってば!弾の消費量もおかしいし!これクソゲー過ぎ!」


 さきほどからゲームに対して文句を言っているが、ただ出雲が下手くそなだけだ。

 ビビり過ぎて、ターゲットがおかしな方向へ移動してる。

 弾の消費量がおかしいとか言ってるのも、三発連続で出るのをばらまいてるだけだからな。

 あとしがみ付いてる亜紗妃ちゃんが、ゾンビが襲い掛かる度に小さい悲鳴を上げるせいで、こっちまでビクってなってしまう。


「もう無理!これ勝てる気しない!お兄はなんでいつも難しいのばっか買うの!?」

「難しいなら難易度を下げてみたらどうだ?その代わりに最初からになるけどな」

「そうしようよ…私、出雲ちゃんのプレイが怖くて見てられない。お兄さんもそう言ってくれている事だから…難易度さげようよ…それにさっきから…全然ストーリーも分らないから」


 気づかないふりをしたが、出雲のプレイをディスってたな。

 ディスられた本人も気づいていない様子だが、言った本人も気づいていない様子だ。

 ところで…亜紗妃ちゃんの密着具合が、強くなってるような気がする。


「ところでお兄ってさ、龍子姉の同人誌制作手伝ってるじゃん?やっぱりゲイなの?やっぱりBLに興味あるとか?」

「ゲイとかじゃなくて、あくまでバイトで手伝ってるだけだ。ちゃんと小遣いって形で、バイト代も出てるしな」

「でも興味がなかったら、手伝えないと思います」


 痛い所を突いてくる亜紗妃ちゃんだが、普通にバイト代も良いのと…参考資料に使った本とかも貰えるからだ。

 あと家の中に作業場があるということもあり、気軽に仕事が出来る。

 あまり気を遣わずに済むというのもある上でだ…こんなに良い職場は早々ないだろう。

 家の手伝いもしなくてはいけないときもあることから、都合も良いから余計にだ。


「お兄はゲイじゃないってことは…ホモでしょ?」


 どう違うんだよ?


「俺はゲイでもホモでもない。色んな意味で都合が良いってこともあるが…まぁ、小さい頃から世話になったりもしてたからな」

「だけど亜紗妃ちゃんと彼氏彼女みたいになってるけど、全然嫌がってないじゃん。むしろこっちが恥ずかしいくらいにイチャついてない?」


 出雲によって指摘された事、亜紗妃ちゃんを向くと、丁度お互いに見合わせてしまった。

 気まずい空気が流れる中での突然それは起った。

 いきなり出雲が背中を押してきた。

 そのせいで倒れ込むかたちになり、勢いで亜紗妃ちゃんを押し倒してしまった。

 顔を赤くしながら手で覆う姿に対して、どうしても男という認識が外れてしまう。

 やっぱり女の子じゃないのか?だがお風呂場で見たのは間違いないと、何度も頭の中で整理をしてきたはずだ。

 だとしても…仕草が全部、俺のしる女の子よりも女の子らしい。


「あとちょっとだったのに…ごめーん!つい熱が上がってきたみたいで、ふらついちゃった!」


 下を出して、自分の頭を拳で軽く叩くアニメとかでみる行動をする出雲。

 コイツはわざとやったと分るのに、あくまでしらを切ろうとしてるのだろう。

 弁解の前に、心の声がまる聞こえだ馬鹿妹!


「そんな怖い目でみないでよー!具合悪いのはお互いに知ってるでしょ!?あと大丈夫だってば!男女ならかなり問題な展開だけど、亜紗妃ちゃんは一応は男の娘だから!」

「そういう問題じゃないんだよ!怪我でもしたらどうする気だ!?」


 流石に今回は本気で怒ったからか、出雲の目に涙が溜り始める。

 いつもならここで俺が折れたりするが、今回のは度が過ぎている。

 これまでも相当だったが、特に体調を崩している今だからこそ、本気で怒らなければいけない。


「ごめんなさい…昨日の件で、なんか舞い上がって。二人が付き合った良いと思って」

「じゃあ俺がお前に同じ事をしたらどうだ?俺の友達とくっつけようとして、無理矢理後ろから押してみたらどうなる?怖くないか?怖いだろ?そういうことをお前はしてるんだ。高校生になったなら、やって良い事と悪い事の区別くらいは出来るはずだろ?」

「落ち着いてください…これ以上は体に良くないですよ。出雲ちゃんも反省してるはずですから…お願いですから少し落ち着いてください」


 止められた事で頭が少し冷えたが、それでも怒りがまだ収まりきっていはいない。

 最近の出雲が調子に乗りすぎているのは明白だ。

 ただあまり怒り慣れていないせいもあり、少しずつ罪悪感の方が強くなってきた。

 妹を泣かせたという方が、断然に強くなってきている。


「ほんとうにごめんなさい…もうしないから」

「分ってくれたなら良いんだ。俺も怒鳴り過ぎたな…悪かったからもう泣くなよ」


 なんとか出雲も泣き止んだものの、しばらく沈黙が続いた。

 それでもゲームを続けて行くうちに、突如にして、それが俺達三人を笑わさせてきた。


「こんな事って本当にあるの!?ゾンビが壁に埋まるって!?それも顔と手だけしか出てきてない!マジウケるんですけど!」

「だけどこっちに一生懸命に来ようとしてるのが少し可愛い」

「完全にバグってるな。一体何をやればこんなバグを起こせるんだ」


 データをはじめからにして進めていると、最初のボス戦でバグが発生したようだ。

 相手は巨大なゾンビで、初心者に対してはかなり苦戦を強いる難所でもある。

 元々が大きい体で、両腕に装備された巨大な斧で攻撃を仕掛けてくるから、俺も最初はかなり苦戦をさせられた。

 だがコイツはパターンさえ覚えれば、案外楽に倒せるようになるボスだ。

 その初心者殺しのボスが…何故か壁の中にめり込んでいる。

 巨大な斧と頭だけが壁から飛び出して、威嚇するように大声を上げている。

 そこへ容赦なく銃弾を乱射する出雲。

 敵ながらに…悲しくなってきた。


「出てくるボス全部がこれなら楽で良いかも。それにしてもお腹痛い、あれはもう笑い殺しに掛ってきてるって」

「もしかすると、また面白い事が起るかもね。お兄さんもそう思いませんか?」


 面白い事って、確かに面白いんだけど…遊び尽くした者としては辛いよ。

 長い事苦戦しながら攻撃パターンを覚えて、やっとの思いで倒した記憶が。

 あれ?いきなり目から水滴が…目から水漏れが起きてる?


「どうしたんですか!?もしかして私達、何かしましたか!?」

「なでもないよ…目にゴミが入ったみたいだ」

「泣くとかどうでもいいんだけどさぁ、これってどうすればいいの?主人公が謎の世界に迷い込んじゃった」


 人が思い出に浸っている間に、コイツは確変ならぬバグ変に突入しやがった。

 それも謎の世界というよりも、俺が昔にふざけてやってた壁抜けバグを、簡単に起こしたというのか?

 地味に見つけ出すが難しい壁抜けを、我が妹はいとも簡単に起こしてしまったというのか?

 コイツはもしかすると…ゲーム関係の仕事に就いた方がいいんじゃないのか?

 こうやってバグを見つけ出す才能があるなら、いいかのかもしれない。


「これってさ、お兄のゲーム機自体が壊れてるわけじゃないよね?明らかにヤバい事になってきてるんだけど」


 出雲に言われた事で、色々と動作確認をしてくうちに、俺のゲーム機は旅だってしまった。

 買ってから十年以上は経っていた上で、相当使っていたから寿命が来たと思う事にする。


「お…お兄…なんかごめん」

「謝る必要なんてないさ…買い換えの時期だったんだ。リマスター版もでるからな…ゲーム機も買い換えないといけないが」

「私、一緒に買いに行きます!実は私、こう見えてゲームは結構やってる方なんですよ!だからお兄さんの新しいゲームを買うのをお手伝いします!」


 一緒に来て選んでくれると言ってくれるのはありがたい。

 俺はここ数年、新しくゲームを買ってすらいない。

 つまり今壊れてしまった、このゲーム機が最後にかった物だ。

 たまにネットで新作を買おうと思っても、金魚へと金を回してしまうから、気づけば買うのすら忘れていた。

 逆に友達からは昔のゲームの方が怖いと言う事で、仲間ハズレにされるということも無かったから、別に新しいのを買う必要すらなかったからだ。


「いいじゃんそれ!風邪治ったら買いに行こうよ!どうせ土日なんて家の手伝いとかなんだし!たまには休まないと逆に体に毒だって!」


 最近は君たちの相手をしてるせいで、あまり店の手伝いができていないんだけどな。

 もうそろそろあの時期も近づいてきているから、準備をしておく必要がある。

 うちの両親は揃って旅行好きで、一年に最低でも三回は夫婦で出かける程。

 その間は子どもである俺達三人が店番をする事になっている。

 俺はそこまで旅行に興味がないのと、金魚たちが心配なのを理由にあまり行かない。

 出雲は旅行が好きだが、本人は海外に行きたいとのことだが、両親は北海道に行くことでついていこうとしない。

 最後に竜子も似た様な理由だが、両親が煙草の臭いに包まれて旅行するのが嫌ということで、煙草代を置いて止めている。

 だから基本的に店番は俺達がするというのが、気づけば定番と化していた。

 よって毎年のこの辺りになってくると、店番を任されるということだ。



長年愛用していたゲーム機が壊れてしまい、落ち込んでしまう獅子雄。

次回、三人で新しいゲーム機を買いに行くはずが?

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