第六話 安静にしていても、なかなか眠ることができない。
朝から風邪で寝込んでしまう獅子雄。
それと同時に竜子までもが風邪を引いてしまう。
今回から、竜子の一人称に変更が入ります。
他の話の方も変更しますので、ヨロシクお願いします。
「あー、これ完全に風邪だわ。昨日長風呂なんかするからよ…今日は学校休んで大人しくしてな、学校に連絡しておくから」
朝から妙に体が重く上で、激しい頭痛がすると思えば、風邪を引いてしまったようだ。
考えられる原因とすれば、昨晩の風呂場での事件だろう。
その上で昨日は顔をボコボコにされたから、まだ顔に痛みが残ってる。
「なんで竜子と揃って風邪引くのか、謎過ぎて意味分かんない。仲が良いのか悪いのか…それとも風呂が長かったのって…ちゃんと避妊してる?」
「早く出てけよ!いつもそういう方に話を持ってくのはやめてろって言ってるだろ!?」
体が怠いというのに、なぜこの人は余計に怠くさせようとするうのだろう。
「つまんなーい!別に良いじゃん!血繋がってないし!そっちの方が絶対に面白い展開になるのに!ああ、お腹空いたらお粥あるから、龍子に持ってきて貰って、私は店番してるから。お父さんは今日仕入れに行ってくるって」
母が部屋を後にしたあと、静けさが残る部屋で俺は、ただただ天井を眺めていた。
ボーッとする頭の中で、屋上にいる金魚たちの餌やりをどうするか、水替えもしないとと考え始める。
だがそれ以上に…昨日の光景と、出雲の部屋から聞こえて来た会話が脳裏に焼き付いている。
…なんでタイミング良く、変な言葉を残して行くんだよ。
「お兄が風邪引いたってマジなんだ!?竜子姉と同時とか超ウケる!なにシンクロしてるの!?新種のウィルス名はシンクロウィルスですかぁ!?」
勢い良く扉を開けて、大騒ぎをする出雲。
こちらの顔を覗き込んだと思えば、まるで煽るかのように苛つく言い方をしてくる。
てかシンクロウィルスってなんだ?お前は新たなウィルスでも開発してるのか?
人を煽る暇があるなら、代わりに金魚たちへ餌をやって欲しいものだよ。
「でもお兄達が風邪引くって珍しいよね?馬鹿は風邪引かないって言うけど、あれって嘘なんだ」
その言葉をお前に返品してやる!
口だけは達者になりやがって…変な意味じゃないけど。
人を馬鹿にするなら、毎回赤点ギリギリ回避してるのを、俺のより高い点数を取ってこい。
毎回人が寝ているところをたたき起こした挙げ句に、俺が親切丁寧に教えてると、気づいた時には寝てるんだからな。
起こしたら大丈夫とか言いながらベッドに潜り込んで、結局は朝まで起きない。
それで毎回両親に怒られてる…俺も監督不行き届きで巻き込まれるんだからな。
「そろそろ亜紗妃ちゃん来るから、私は下に行くね。あ…今日プリン買ってきてあげる!最近おっぱいプリン売ってる店見つけたから!お兄大好きでしょ!エッチなんだからぁ!」
出雲のテンションは…どこから湧き出てきてるんだ?
こっちは体調が悪いというのに、本当にグッピーみたいに騒がしい妹だ。
体が少しでも回復したら、お粥でも取りに行こう。
龍子姉さんは仕事で引き籠もってるだろうから、邪魔をするのはやめておきたい。
あとが怖いからな…刺激したくないから、そっとしておこう。
退屈な時間の中で俺は瞳を閉じ、ゆっくりと眠ろうとしていた時だった。
階段を勢い良く掛け上がる音が聞こえたかと思えば、再び扉が勢い良く開いた。
入り口には涙を溜めている亜紗妃ちゃんに、後ろでニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる出雲。
一体何を言ったのか分らないが、寝込んでる俺を困らせて楽しんでる。
「お兄さんの…お兄さんのお尻が痔になったって本当ですか?出雲ちゃんから来たんですが…その、ストレスで熱が出たって…恥ずかしいんですが、お尻に物を入れて切れたのが原因って」
ただ風邪を引いただけなのが、酷い勘違いを創り出す材料になってる。
やけにニヤニヤしてると思ったら、最悪な嘘をついてきやがった。
それもありもしない嘘をついてくるというのが、なんとも悪質過ぎる。
「出雲…悪いんだが、棚にある漫画を適当に取って貰って良いか?ベッドの上でじっとしていると、結構退屈なんだ」
仕方がないと言った顔で漫画を取って来て貰い、差し出された漫画を受け取る。
丁度亜紗妃ちゃんに向かって、微笑み掛けた出雲の頭頂部目掛けて、受け取った漫画本の裏側を加減入りで叩き付けた。
週刊誌で連載されている少年物の漫画だったことで、ダメージはそこまで大きくはない。
もしふざけてもっと大きい漫画とかでも持ってこられたら、少しは躊躇っていたかもしれないな。
「痛った!?なんでいきなり殴るの!?漫画取ってくれたらありがとうでしょ!?お兄のDV男!」
「ああ…ありがとう。だがな?俺はただ風邪を引いただけなんだが、話がおかしな方向へと走っているのはどういうことだろうな?亜紗妃ちゃんが言っていた事に熱以外の真実がないんだが」
目をゆっくりと逸らし始める出雲だが、隣で顔を真っ赤にして顔を覆う亜紗妃ちゃん、
これは怒られても仕方が無いだろう。
ある意味恥を掻かされたんだがら、俺が友人にされたら頭をぶん殴ってる。
「お前…目的は知らないが、あまりそういうことをしてると友達無くすぞ。今だって亜紗妃ちゃんにかなり酷い事したって自覚しろ、怒ってるぞ」
「違うんです…私、出雲ちゃんに怒っているんじゃないんです」
あれ?出雲に対して激怒し過ぎて、泣いてるんじゃないの?
「ただの風邪って聞いて安心したんです。もし酷い事になってたらと思うと…私、心配で」
「妹を殴った挙げ句に女の子を心配させて泣かせるって、お兄ってばさいて~!もうそろ時間的にヤバいから、私達学校に行って来まーす!」
二人揃って学校へ行ったので、これでしばらくはゆっくりと出来る。
困った…安心したらトイレに行きたくなってきた。
丁度良い、ついでにお粥を食ってこよう。
多分竜子さんも自分の部屋で寝ているだろう…と思って居たんだが。
見事に予想が外れた挙げ句に、禁止されている煙草をリビングで吸ってる。
いや…あれは煙草じゃない。
ドラマとか映画でしか見た事のない、あの昔から日本にある煙管だ。
てか竜子さんは煙管なんて代物をもっていたのか…流石は煙草マニア、レベルが違い過ぎる。
よく見るとテーブルの上に、ビールの空き缶がころがってるんだが、この人も風邪引いてるんだよな?
「ダリぃ…マジでダリぃ…獅子雄、丁度良いから一本つけろや」
「調子悪いなら真っ昼間から飲むなよ。あとリビングで煙草吸うの禁止されてるだろ…つかなんで煙管?手震えてるって!危ない!中身が落ちる!」
煙草好きなのは分るけど、調子が悪いせいで手がプルプル震えてる!
絶対に無理してるって証拠だろ!?
あと風邪のせいなのか、酒が入ってるせいなのか分らないくらい顔赤いんですけど!?
「あーあぁ!誰かさんのせいで風邪を引いた挙げ句に!色々と最悪な目に遭わされたなぁ!ババァには変な疑惑をもたれるしで!」
あの人…実の娘といえど容赦なく言うな。
「どうしてアタシがお前なんか相手にしないといけないんだよ!?まず…男と付き合った事がないし…昨日だって、始めて見られたから」
俺の手に持ってあったスプーンが、お粥をまき散らしながらテーブルに落ちた。
今…かなり衝撃的な事実が暴露された気がしたんだけど。
男と付き合った事がないって…いや、俺も誰かと付き合った事はないんだけども。
でも結構モテそうな感じが…このとき俺は理由を察してしまった気がする。
竜子さんの手に持っている煙草類が、主な原因なのではないだろうかと。
両親も煙草を吸っているが、家の中が黄ばむのを嫌がって店か、ベランダで吸ってる。
二人とも結構ヘビースモーカーな方だが、その二人でも臭いを気にするぐらいに、竜子さんの吸う銘柄はどれも癖が強い場合が多い。
恐らくはそれが原因なのだろう…俺の記憶だと、中学くらいから隠れて吸ってた程だ。
それが今では煙草愛好家の元ヤン、見た目は美人なんだけども…香水の代わりにニコチン臭を振りまいてる。
「良いかよく聞け!アタシ達はあくまでも姉弟だ!お前が何か変な気を起こした時点で、アタシはお前を血祭りに上げてやる…クソッ!大声出したから頭痛が」
竜子さんの頭痛の原因は、風邪と大量のアルコール摂取です!
親父達の買い置きしてあったビールを、全部飲み干すってのは凄いが、あとで相当怒られる。
俺は一切関係ないが…一応は言い訳を考えておかないとだ。
止めなかった事で責められるような気もするからだ…来た時にはもう既に飲み終わってたけど。
「とりあえず酒を飲むのはやめて、これで頭冷やしとけよ。今の状態でお互いに喧嘩しても意味ないし、どっちにしろ共倒れになるだけじゃないか?」
「礼は言わないからな…それにこのソファは私が占拠してる。お前はどっか別の所行け」
濡らしたタオルを渡すも、まるで縄張りを主張するかのように、タオルの隙間からウツボの目で見ているかのように睨み付けてくる。
別にお礼とかを言って欲しくて渡した訳でもないが、礼を言わない宣言をされてしまうと少し寂しい。
それに何処か別の場所へ行けと言われてしまったから、自分の寝室へ戻るとするか。
戻る前にお粥を食べてしまいたかったが、後ろからクッションとか空き缶を投げつけられるから、部屋に持って行く。
どっちにしろ体調が悪いから部屋で寝ていたい、学校に行かなくて良いのはまたラッキーだ。
対して代償が相当デカい…俺と竜子さんが同時だから、下でゆっくりとテレビが見れない。
あとから連絡してきて、パシリに使われそうな気もしてくる。
「やっぱり…昨日の事件だよなぁ。これまで十何年も意識してなかったのに、たった一回だけで…俺、頭おかしいのか?」
一度思い出すと、昨日の光景を鮮明に思い出す。
白くて綺麗な肌に…巨大で大きく揺れていた胸。
本とかで見るのとは全く違う上で、直ぐ近くで見てしまったのがまた、俺に刺激が強すぎた。
こう言うことを考えているからダメなんだ、心を無にして寝れば良い。
または別のことを考えて…魚でも数えてたら寝れるか。
羊を数えたら寝れるって言うが…前に羊を数えてたら、出雲が横からバリカンとか言い出したんだよな。
それで大量の羊の毛を刈る夢をみたんだっけか。
「小赤が一匹…小赤が二匹…」
ただただ小赤を数えているだけなのに、結構眠たくなってくるな。
考えてみるとアイツ等って、和金だからかなりチョロチョロと泳ぎ回る。
頭の中で数えるとなると、琉金型の金魚にしておけば良かったと少しだけ後悔をしている。
数える度に凄い勢いで通過していくから、もう何匹まで数えたのか分らなくなってきた。
頭の中も…だいぶ呆然としてきたから。
確か…13匹、だったか?
「アロワナ放流」
「小赤が、全滅…なんでだ!?」
金魚の数を数えていたはずなのに、誰かがアロワナを放流したせいで、数えていた個体が全て捕食されてしまった。
確かに小赤は安い分、アロワナ等の肉食魚や古代魚の活き餌として買っていく人は多い。
だからって人が数えている所にアロワナを放流するか?
これでは苦労が水の泡だ。
驚きのあまりに体を起こして、周りを見わたすと、本棚から漫画本を適当に取り出す竜子さんが居た。
後ろ姿を見た瞬間に、俺の想像にアロワナを放流した犯人は、この人であると確信が持てた。
つかなんで俺の部屋の漫画を持っていこうとしてるんだ?
全然入って来る音すら聞こえてこなかったぞ?
あと普通に胡座をかきながら、人の部屋に灰皿設置してないでもらえませんか?
一応…この部屋も禁煙にしてるんですけど?物がヤニ臭くなりそうで嫌なんですけど。
「ジロジロ見てんじゃねぇ、顔面に枕押しつけてやろうか?」
片手に漫画を持ち、もう片方の手で煙草を吹かしながら睨み付けてくるが、顔が赤いせいで迫力がない。
いつもなら理不尽でも謝りそうになるのだが、今の竜子さんはそこまで怖くもない。
ただの酔っ払いがいちゃもんつけている様にしか見えないから、でもやっぱり怖いかもしれない。
じっと見つめられていると、瞳の方から何か恐ろしい物が感じ取れてくる。
「あの…なんで俺の部屋に?あと喫煙はご遠慮ください」
「うるせぇ、やんぞ?ババア達にバレたんだよ。煙管も取り上げられるし…腹いせにシーシャでも吸ってやろうとしたけど…重くて運べなかった」
途中から愚痴になってるけど、この人は本当に竜子さんなのか?
「しかもテレビも何も屋ってねぇから、仕方がなくここに来てやったのに、煙草吸うなってアタシに死ねって言ってるのか!?お前本当に人間か!?」
「熱出してる状態で飲酒喫煙してるアンタの方が人間か疑いたいよ!?」
急に大声を出したせいで、激しい頭痛が襲い掛かってきた。
あっちの方も同じ様子で頭を抑えてるから、お互いに自爆した形だ。
気づけばお互いに仰向けで天井を眺めながら、無言になっていた。
一切喋らないとなってくると、こんなにも静かな物なんだな。
毎日文句とか脅しとか言われたりしていたが…静かな部屋に二人って言うのも、また新鮮さがある。
そんな中でも薬が効いてきたのか、徐々に眠気が強くなり始めてきた。
竜子さんの方を見てみると、漫画を読んでいる途中で寝落ちしている。
煙草はちゃんと灰皿の中で火を消してあるから、寝たばこによる火事の心配はない。
これなら…俺の方も寝て大丈夫そうだ。
心配事があるとすれば…ベッドを略奪されないかと言う事だけだ。
やっぱり金魚っていいなぁ…見ているだけで癒やされる。
金魚の王と呼ばれる蘭鋳に、女王と呼ばれる土佐錦。
尻尾の形が蝶の羽のような形をしたデメキンの蝶尾、両頬に巨大なリンパ袋をぶら下げて泳ぐ水泡眼。
他にも俺の名前の由来になったオランダ獅子頭、妹の出雲の名前の由来になった南京、どれも個性的な模様をするキャリコ系の金魚たち。
本当に金魚って言うのは、思っている以上に奥が深い上に、面白い生き物だ。
特に蘭鋳やオランダの頭は、成長するにつれて肉瘤と呼ばれる脂肪が膨らみ、その迫力はどんどん増していく。
希に肉瘤が成長しすぎて、目元が隠れてしまう個体も存在するわけだが。
「これが巨大蘭鋳の肉瘤か…美しい」
俺の目の前に…巨大な蘭鋳が二匹もいる。
大きさはおよそ大型の犬くらいで、片方が綺麗な白と赤の更紗、もう片方が全身が真っ黒の個体。
これこそ夢にまで見た…巨大蘭鋳の肉瘤を両手で愛でる。
俺は二匹の蘭鋳へ手を伸ばした、ゆっくりと驚かせないように。
「おお…これが巨大な肉瘤?」
なんだか俺の知っている感触と、違い過ぎる。
異様に柔らか過ぎるかつ、凸凹部分が無い。
金魚の肉瘤のはずのなのに…すべすべしていて、暖かい。
頭に疑問が浮かび始めていた途端に、奥の方から和金が凄い勢いで顔面に突撃してきた。
激しい痛みと同時に、見ていた物が全て夢であったと気づかされた。
顔を赤くしながら涙目で睨み付けてくる竜子さんと、同じく顔を赤くして顔を逸らす亜紗妃ちゃん。
そして笑いを堪えてるのが分る出雲が、部屋の中に集合していた。
ここで妙な事に気づいたのだが、俺のベッドに竜子さんが居るのは、なぜ?
あと部屋中に丸められたティッシュが…床全体に沢山散乱してるんだど?
ついでにもうひとつ…出雲と亜紗妃ちゃんは何故にナースの服を着てる?
揃ってナースのコスプレって、仲が良い証拠だな。
「ててて、テメェ!?一度ならず二度までも!?昨日に続いて…今度は直接触って来やがって!殺す!マジでぶっ殺す!!今すぐ表に出ろや!!あとこれなんだよ!?テメェはアタシを使って…何をしやがった!?」
竜子さんからいきなり怒鳴られたが、こちらも状況がつかめていない。
頭も正常に働いている訳でもないから、余計に混乱する。
「ブフッ!お兄ってば…結構獣な面持ってるよね。竜子姉相手に…この惨状って」
「待て!俺は何もしてない!つかどうして竜子さんが俺のベッドに居るんだよ!?そっちの方がおかしいだろ!?」
「アタシの胸を触った挙げ句に、そっちとか言いやがったな!?」
頭を思いっきり叩かれた後に、アッパーまで喰らわされた事で、余計に頭の中が大変な事になってきている。
色々と言いたい事が沢山あるが、俺がとてつもなく大胆な行動をしたという発言が聞こえたぞ。
もし竜子さんの口から出たような事なんて、自殺行為も良いところだ。
…まさか、夢で見て触っていたのは、蘭鋳たちじゃないのか?
だとしたらならばだ…殺される事が確定してる!?
「待ってください!お兄さん、きっと寝ぼけていただけです!顔も凄く赤いですし…それに、お姉さんもベッドに入っていたのもおかしくありませんか?」
「だからこれ見たら分るでしょ?私達が知らない間に…二人は大人の階段を、いや…エスカレーターで上って行ったんだよ」
思いっきり勘違いをされてるが、俺はただ寝ていただけのはずだ。
なのに気がつけば…部屋が丸めたティッシュだらけで、姉とベッドで寝ていた。
確かにこの状況だと勘違いされてもおかしくない、むしろ勘違いしない方がおかしい。
だがハッキリ言ってしまうと、これは誰かの陰謀だと確信出来る。
犯人候補としては…出雲の悪戯が怪しいが、こういったことをするなら亜紗妃ちゃんが止めると思う。
しかも二人がナースコスプレをしておきながらの、部屋を汚す理由事態が見つからない。
考えられる候補とすると…我らが母しか居ない。
あの人ならやりかねない、面白がって自ら進んでやるだろう。
今日だって部屋を後にする時に面白がって言っていたから、可能性は捨てきれない。
以前にもまた違うが、似た様な前科だってあるからな。
「ストップ!ストーップ!犯人が分った!母さんだ!あの人が恐らく犯人で間違いない!」
何度も殴られ続けられたが、犯人らしき人物を上げると、竜子さんによる猛攻が止んだ。
そして少し考え込んだあとに、そうかと言ったよな顔になり、フラフラと竜子さんは部屋を出て行った。
とりあえずは…危機が去ったと安心していたが、部屋が馬鹿みたいに汚い。
熱のせいで体が凄く重いが、こんな汚い部屋で寝たくない。
「だけど良くやるよね…ちょ!?これマジで使用済みのじゃないの!?完全に使用済みだよね!?本当にお兄達のじゃないの!?怖いんだけど!?」
「で…でもね、これイカっぽい臭いとかしないよ?多分だけど、中身は乳液だと思う。私、顔とか洗った後に使ってるから」
乳液という事で納得したみたいだが、なんで同時にこっちを凝視してくる?
その視線の先というのが、お前等は病人を苛立たせる天才か?
「もしかして…これってお兄の私物とか?」
「俺は一度もソイツを買った事はない上に、まだ使う予定すらないぞ…それに、風邪をうつしたら悪いから、別の部屋に居てくれ」
部屋の中に散らばったゴミを拾い始めた時、二人の体に違和感があることに気づいた。
この二人って、こんなにも胸が大きくなかったはず。
現在は動く度にナース服の上から、胸が激しく揺れている。
もう詰めてるのを隠す気すらない程の勢いで、動く度に凄い違和感が仕事をしていて、ちゃんと見ることが出来ない。
「良いからお兄は寝ててよ。あとは美人ナースの私達に任せてよ」
「そうです、お兄さんは風邪を引いてるんですから、無理をするのはダメですよ。今日はゆっくり休んで、寝ててください」
「二人に風邪をうつしたら悪いだろ。
本気で心配をしてくれている目を見て、信用してみることにした。
わざわざナース服とかまで用意して来てくれたんだから、逆に疑い過ぎるのも悪いかもしれない。
熱が下がったらお礼を考えて置かないといけないな。
…やっぱり風邪を移すのは悪い。
「出雲も亜紗妃ちゃんも、やっぱり別の部屋に…」
横を振り向いた瞬間に、目の前には頬を染めた亜紗妃ちゃんが、こちらを静かに見つめていた。
そして何を思ったのか…胸ボタンを外し始める。
さきほどまで居たはずの出雲の姿も無く、少しずつ服のボタンが外されていく。
この状況はおかしい!以前も似た様な状況になったことはあるよ!?
男同士だから別に問題ないような気もするけど、他の意味で問題が大ありだからね!?
「出雲ちゃんが…人肌で暖めるのが一番良いって、教えてて貰ったので。龍先生の作品にも…描いてありました」
えっと…あった!?そいやあったそれ!
確か龍子姉さんが熱出した事があって、その時に食事を運んだりして、看病をしていた時だ。
丁度ベッドで寝ているから、お粥を食べさせたときに…突然ネタが浮かんだと叫び出した。
途端に無理矢理起き上がって原稿を描き始めて、その勢いで俺も一緒に手伝わされたっけか。
看病される大学生の幼馴染み同士の話だったが…どうしてその場の乗りで、進んでしまうんだろう。
売れ行きはかなり好評で、部屋で焼き肉を奢らせて貰ったっけ。
昼間で家族が殆ど居ない状態という、非常に希な状況でだから…一番驚いたのは同人仲間が来てた事だ。
だけど…あの作品を覚えてるって事は、やっぱり龍子姉さんの同人誌が好きなんだな。
思い出とかに浸っている間じゃないのを忘れてた。
今の俺ってかなり危ない状況だ…貞操とかの危機だ!
「ちょっと待った!いきなりこう言うことは」
「好きです!私…お兄さんの事が好きです!!!」
突然、大きな声で告白された瞬間に、ベッドに倒れ込むように抱きしめられた。
美少女とも言えるし、美少年とも言える…男の娘と言った方が正しいのだろう。
上半身裸の状態でこう言うことをされている今、俺はとても複雑な心境に陥ろうとしていた。
いや、もう陥っている。
見た目が美少女というのが強いせいで、やはり胸の高鳴りが強くなる。
これ以上はダメだ…これ以上の事をするのはダメだ。
ちゃんと自分の理性を保て…熱にやられていても、自分を抑えろ。
「ダメだ、俺は…思ってくれる事は嬉しいけど、俺達は男だ。だから…こう言うことは」
言いかけていた途中で、意識が朦朧とし始め、全身が激しい寒気に襲われ始めた。
体が上手く動かずに…今日一番の酷い頭痛が頭を襲う。
「顔が、顔色が悪いですよ!?まさか熱が…私、出雲ちゃん達呼んできます!」
誰かを予備に走って行ったみたいだが、ちゃんと服は持っていってくれたのだろうか。
にしても…こんなに酷い風邪は久々だな。
体が怠い挙げ句に、吐き気までしてくるなんて。
「熱上がったって大丈夫なの!?お兄の顔がア○ターみたいに真っ青…ごめん、ちょっと盛りすぎたけど、かなり重症なヤツじゃん!病院言った方が良いって!」
こうして、俺と竜子さんは母によって病院へ強制的に連れて行かれた。
お互いに先生に怒られたものの、俺は殆ど記憶にはないが、竜子さんは酒を飲んだ事を相当説教されたらしい。
車の中ではかなり不機嫌で、母に対してかなり文句を言っていたような気がする。
そのせいで二人の喧嘩する声で、頭痛が悪化してしまった。
家に帰ると亜紗妃ちゃんと出雲の姿はなく、家の中は殆ど無人に近い状態になっていた。
母曰く、親父が家に送って来る事になったらしく、付き添いで出雲も一緒との事。
「獅子雄は部屋で寝ると言ってもね…どうしても辛かったら、お父さんが帰ってくるまでソファで寝てて。問題は馬鹿娘の竜子の方だけど…誰に似たんだか」
「テメェも大概の事してんじゃねぇか!?私が寝ぼけている間に変な事をしやがって!今すぐ表出ろコラッ!」
唐突に始まる喧嘩であったが、病人相手に容赦なく鉄拳制裁が下された。
「誰に向かってそんな口聞いてるか分ってる?次また舐めた口きいたら、お前の○○○○○を外部フィルターのストレーナー吸水口でぶち抜くから覚えておきな」
うん…我が家の姉二人が強い理由は、やはりこの人の血だ。
普段からは全然見えない雰囲気を、切れた時にそれを一気に出す。
怖すぎて出雲ですら反抗する事なく育ったが、竜子さんは相変わらず逆切れをする。
あと竜子さんに対しての脅し文句…それだけはやめてあげてください。
形は確かに似ているような気もしますけど、男である俺でもかなり恐ろしく感じますから。
「全く、本当に誰に似たんだか。病人は病人らしく寝てろっての」
アンタも病人に対してもう少し優しくしろよ、自業自得なんだけどさ。
「お父さんが帰ってきたら説教だから。少し待ってて、今日はリビングに布団敷くから、二階上がるの無理でしょ?」
結局は熱が収まらないので、安静を考えてリビングで眠る事になった。
良い事があるとすれば、大きいテレビが見放題と言う事だろう。
この調子なら明日も学校は休まないとダメか。
インフルエンザじゃなくて安心できたのだが…一番の衝撃は、亜紗妃ちゃんからの告白だ。
昨日の件は聞き違いだと信じたかった。
現実はどうだ?あのタイミングで告白されるなんて思いもしなかった。
断った場合…やっぱり悲しまれるんだろうな。
「獅子雄君…起きてる?」
天井を眺めているところへ、唐突に龍子姉さんの顔が現れ、驚きのあまり悲鳴を上げそうになってしまう。
悲鳴が上がる前に口を押さえられたが、片手には濡れているタオルと、水が溜められている洗面器がある。
「なんだ龍子姉さんか…びっくりさせないでくださいよ」
「ごめんね…お母さんから、暇があったら様子を見てって言われてたから」
いつもは部屋に引き籠もっている龍子姉さんが、わざわざ看病をする為に、部屋から出てきてくれた事に涙が出てくる。
「ところで聞きたいんだけど、亜紗妃ちゃんに告白されたってホント?同人誌の参考にしたいんだけど、いいかな?}
俺の感激を返してくれ…俺の心からの感激と喜びを返してくれ!!
風邪の状態で亜紗妃から告白されて獅子雄だったが、複雑な心境のままで眠ってしまう。
次回、獅子雄と亜紗妃に進展はあるのか。




