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第二話 秘密を隠そうとしない。

朝から怒りに満ち溢れ、龍子の部屋を襲撃する竜子。

それを止める為に、学校へ行く前に獅子雄は苦労するのであった。

 俺は休日を満喫する事が、一切出来なかった。

 正確には、一睡もする事が出来なかったのだ。

 妹の友人を部屋に泊める約束をしてしまったが、相手は男子のはずなのに、緊張して眠ることが出来ない。

 自分でも相手は男である事は分かっている、ちゃんと分かっているのにも関わらずだ。

 理由は明らかに、見た目が美少女過ぎるからだろう。

 出雲に言われてベッドを貸したものの、普通に同人誌を持ち込もうとした事には驚いた。

 あっちも驚いた顔をしていたが、何故にバレないと思えるのだろうか?

 他にも竜子さんにリバースされたせいで、部屋の後片付けも鉄だう羽目になった。


「出てこいっての!いつまでも閉じ籠もってんじゃねぇよ、この犯罪者予備軍が!今度という今度は許さねぇからな!」


 昨晩の事件から、完全な責任転嫁をしようとしている竜子さんだが、龍子姉さんが出てくる事はないだろうな。

 まず龍子姉さん本人が、この件には一切関わっていない。

 いや…一部関わりがある事は間違いないのだが、微妙なラインに立っているんだよな。

 それを言ってしまうと、俺自身も似たような立ち位置になってしまう。

 もしこのまま扉を蹴破られてしまった場合、同人誌活動の手伝いをしている事がバレてしまう。

 そんな事になったら、三人があらゆる方向へと突っ走る結果になってしまう。

 ここはなんとか怒りを鎮める必要がある。


「落ち着いてください。扉を壊したら親父達に怒られますよ?それに龍子姉さんは関係ありませんよ」

「関係ねぇわけねぇだろ!?あの可愛い出雲が…天使の様な出雲が…野郎ぶっ殺してやる!ケツに鉛筆ぶち込んで奥歯ガタガタ言わせたあとに、鼻から鉛筆貫通させてやる!」


 かなり危険な事を言い始めたので、羽交い締めにしたが、後頭部で頭突きをされてしまった。

 そのせいで学校へ行く前に、鼻から大量に血が出てきた。

 竜子さんは完全に頭に血が上っているのか、こっちの状況には気づいていない。

 自分の服に血が付いたりしたら激怒をするのに、完全に我を忘れている。


「ちょ、竜子姉!お兄が鼻血出してる!てかなんで物置の前で暴れてるの!?…まさか、お兄が連れ込もうとして」


 この状況を見ての、その結論へと辿りつく理由を是非とも聞いてみたいものだな。

 あとここの部屋、物置じゃなくてお前の姉の部屋なんだけど。


「馬鹿な事を言ってる暇があるならどっかに隠れてろ。しばらくは落ち着きそうにもない…あと、これの原因は昨日の事件だ」

「あーやっぱり?竜子姉にバレない様にしてたんだけど、昨日のでやっぱり荒れたかぁ…昨日の件でなかなか寝られなかったんだよね。亜紗妃ちゃんも、落ち込みながら帰って行ったから」


 そういえば、朝方も結構テンションが低かったな。

 やっぱり大切な本にゲロ掛けられたら、落ち込んでも仕方がないか。

 俺も野鳥に金魚を襲われた時、どれほど落ち込んだことか。

 だからこそ、二人の気持ちは痛い程分る。

 幸いにも、亜紗妃ちゃんは帰ってくれているから、この状況に巻き込まずに済んだ。

 とにかく落ち着かせないと、俺もそろそろ限界が近づいてきてる。

 この人、元々ヤンキーだから凄い喧嘩なれしてんだよな…だから力が凄い。

 伸長でも10センチくらいあるけど、簡単にふりほどかれそうになる。


「竜子姉の馬鹿!いつもお兄を苛めて!今だって心配してくれてるお兄に怪我させて!昨日だって私の本だけじゃなくて、亜紗妃ちゃんから借りてる本もあったのに!もう知らない!」


 勢い良く出雲が放った言葉が聞いたらしく、思いっきりへたりこむ竜子さん。

 戦意喪失してしまったようで、動く気力も無いようだ。

 これなら放置しても良さそうだと思い、俺は学校へ行く準備をしようとした瞬間に、それは唐突に起った。

 背後からドンという鈍い音が響き、悶えるような声が聞こえてくる。

 恐る恐る振り返ってみると、顔を押さえながらのたうち回る竜子さんに、それを見下ろす貞子。

 いや…あれは貞子の様な雰囲気を醸し出している、龍子姉さんだ。

 明らかにお怒りモードになってるから、原稿を書いていたのかもしれない。


「…成敗」


 静かにそう言い放つと、こちらに気づいたらしく、いつもの笑顔で手を振りながら扉を締めた。

 普通に笑顔を向けられても怖ええよ!


「なんでだよぉ!?なんで私ばっかり!こんな目に合うんだよぉ!?なんでだよぉ!?」


 アンタは負けた博打打ちか?

 ただ一言だけ言って起きたい、龍子姉さんマジでナイスです。

 見ていてかなり痛いと分るが、こっちも鼻をやられてるから、ほんの少しだけスッキリした。

 しかし…最悪なタイミングで突撃をしたものだ。

 龍子姉さんを怒らせる方法の1つには、活動作業への妨害が二番目に有効。

 普段はとても優しく、大人しいが…食事を奪うか妨害するだけで鬼に変る。

 俺も以前に一度だけ怒らせてしまった事がある…あの時は本気で死ぬかと思った。

 直ぐに許してくれたから良かったが…あれは夢に出てくるくらいの、トラウマ物だ。


「なんか凄い声聞こえたけど、お兄もしかして…殴った?」

「俺があの人に勝てると思うか?秒殺で終わりだよ。それ以前に、失神するかもな」


 鼻にティッシュを詰めているせいで、朝食の味があまり分らなかった。

 まぁ…何もつけてないトーストなんだけどな。

 食卓テーブルで、三人の中で二人が鼻にティッシュを詰める、異様過ぎる光景。

 お互いに鼻血を出しているから、馬鹿にする事すら出来ない。


「許さない…絶対に許さない」

「ねぇ…さっきから竜子姉がブツブツ言ってるけど、何があったの?物置に向かって怒ってたし」

「気にするだけ損だ。食べたなら行くぞ…全然止まらないな」


 朝食を終えた俺達は、家を出て学校へ向かおうとした時、恒例の警察による職質をされた。

 どう見たって高校生だろうに…ヤクザ顔だけども。

 指だって五本あるよ?傷だらけだけど。


「君が高校生なら、なんで髪をオールバックにしてるんだね?普通にしたまえ」

「はぁ…こうしてる方が、色々と便利なものでして」


 実際の所、俺の頭は普段はオールバックにして、まとめている。

 理由としては、水槽に髪が落ちるのが嫌なのと…髪を下ろすと全然顔に合わないからだ。

 普通に出来るならしてるんだよ!出来ないからこうなってるんだよ!

 過去に坊主も試した事があったが、今よりも迫力が増すだけだった。


「大体学生が髪を伸ばしてるのがおかしいんじゃないか?男子なら頭を丸めるとかしたらどうなんだ?それになんだこの手は?喧嘩でもしてるのか?」

「これは喧嘩と言いますか…仕事上仕方なく」


 俺が仕事上と言った瞬間に、警察官の目付きが変った。

 隣では、昨日の如く出雲が噛みつきそうだしで。


「じゃあとりあえず、署まで同行してもらうか?詳しい事はそっちで聞くから、そこの君は学校へ行きなさい。友達はこっちで大切なお話があるから」

「は?なんで私だけ?てか友達じゃなくて、私の兄なんですけど?てか遅刻するから、行こ!」


 無理矢理手を引かれながら、俺達は走り始めた。

 背後からは警察の声が聞こえてきたが、追いかけてくる気配はなさそうだ。

 周りからは、走る女子高生とヤクザにしか見えていないんだろうな。

 危ない光景にも見えるかもしれないが、俺達は別に悪い事をしてるわけじゃない。

 ただ…学校に遅刻しそうになっているだけだ!


「あ、もしもし?ごめんね、またポリに絡まれてて。うん、もうすぐ着くから…ああ、持ってきてるから大丈夫」


 走りながらも、出雲は携帯で誰かと連絡を取り始めた。

 この様子からして、相手は亜紗妃ちゃんだろう。

 朝家を出る時も、必死に鞄の中に同人誌らしき物を詰め込んでいたから。

 しかしだ…よくよく考えてみると、二人は一体どこで本を読んでいるんだ?

 男子と女子で歩いていたりしたら、普通は噂になったりしても、おかしくはないはずだ。

 普通であれば、兄である俺の耳にも入ってくるだろう。

 頭の中が疑問でいっぱいになっている間に、待ち合わせらしき場所に到達した。

 そこには学校の制服に身を包んだ、亜紗妃君ではなく、亜紗妃ちゃんがいた。

 男子用の制服ではなく、女子用の制服にスカートを履き、髪の毛もまたツインテールに結んである。


「ねぇ、お兄…あれって、亜紗妃ちゃんが絡まれてるよね?私の勘違いじゃないよね?だってあの人達、顔にピアスとか開けてるから学生じゃないよね?」


 出雲よ、お前は一体どれほど視力が良いんだ?

 俺にはこの距離から、亜紗妃ちゃんの周りに男が三人にしか見えないぞ?


「はい!ここはお兄の出番!か弱き乙女二人を守って!さぁ行った行った!」


 背中を押されながら、四人の前まで行ってしまったが…相手が完全ヤンキーじゃないですか。

 もう俺終わったんじゃね?顔面で威圧するとかの話しじゃないって。

 私服で相手をするならまだしも、今日に限っては制服なんですけど!

 あと走り続けてるせいで、息切れが。


「あ?何お前?俺達に何か様ですかぁ?…ああぁ?や、ヤクザ?」

「おうおうテメェ等!何俺の女に手出してくれてんだ、ああ!?おいコラ!?」


 やめなさい出雲!お兄ちゃんがボコられても良いのか!?

 人の背中に隠れて、アフレコで応戦するんじゃない!

 相手も相手で何ビビってんだよ!?明らかに声がおかしい事に気づけよ!?

 亜紗妃ちゃんもちゃっかり背後に隠れてるしで、俺はどう対応したらいいの!?


「やんのかテメェ等!とっとと失せねぇと、ピラニアいっぱいの水槽に放り込んでやろうか!?品種は何が良い!?ナッテリーか?ブラックか!?ダイヤモンドイエローか!?」


 相手にピラニアの品種言っても分らないだろうに…てかどうしてピラニア限定だ。

 それと、後半に出した二種類は単独飼育しかできないぞ!

 あとうちの店にピラニアなんか取り扱ってない!いるのは同じカラシン科のネオンテトラくらいだ!

 あとはピラニアをかなり小さくしたような感じの、ブラックテトラくらいだぞ!


「どないするんや!?エンコ詰めるか!?それともテメェ等のチ○コにするか!?」


 相手は俺が頭がおかしいと思ったのか、一斉に逃げ出して行った。

 喧嘩とかにならなくて良かったが、まずは出雲に拳骨を落としておく。


「痛ッ!何するの!?せっかく手助けしてあげたのに!」

「友達を守ろうとするのは偉いが、状況を考えてから行動をしろ。あと女の子がむやみに下ネタを使うな、分ったか?亜紗妃ちゃんは怪我とかしてない?」

「大丈夫です…ありがとうございました。出雲ちゃんもありがとう」


 本当に、全員が無事で良かった。

 下手をすれば、警察沙汰になっていた可能性もありえた。

 相手が逃げてくれたというのは、不幸中の幸いと言ってもいいだろう。

 学校に着くまで、ずっと御礼を言われ続けるのには参ったが、隣で自分のお手柄だと思って居る出雲に少しイラッとする。

 出雲が適当な挑発をし続けたおかげで相手は逃げたが、一歩間違えれば大変な事になっていた事は、間違いない。

 もしあの状況で、俺の顔がヤクザ風じゃなければ、どういう行動をとっていたのだろう。

 もしかすると一人で突撃をしていたかもしれない。


「お兄、休み時間にそっち行くから」

「なんでこっちに来るんだよ?お前、今まで来たことなんてなかっただろ」

「私がお願いしたんです。皆でお弁当が食べたくて…駄目ですか?」


 涙目で聞いてくるのは反則だろう…断り難すぎる。

 元々断る理由すらないんだが、断るつもりもないけどな。


「別に来ても良いが、気まずくないか?一応は一年上の学年だぞ?」

「別に問題なくない?実際仲の良い兄妹でしょ?それに亜紗妃ちゃんを彼女的ポジションにするとか」


 今、普通におかしな発言が飛んで来たぞ?

 誰を誰の彼女にするとか言ったような気がするが、気のせいであってくれよ?


「でもそれだと、お兄さんに迷惑が掛るよ。私は出雲ちゃんの友達だから…えっと」

「出雲の友達って事は、俺の友人で通せば良いよ。昨日だって家でご飯食べたりしたからさ、友人みたいなものだろ?」


 別に友人とかとして通さなくても、うちのクラスでは問題なさそうだけどな。

 普通に後輩とかが遊びに来たりするから、珍しい光景でもない。

 ただ心配なのは、出雲が妹だって事をしってる連中が、あまりいないことだろうか。

 まず顔が違いすぎるせいで、家族とも思われていないからな。

 だいたい俺が途中で警察に捕まって、出雲は先に学校に行ってる。

 だからこうして一緒に登校する事自体が、非常に希な事だ。


「じゃあ昼休みに行くからよろしく!早弁とかしないでよ?」

「お前こそ弁当足りないとか言い出すなよ。出雲が何か悪さしたら、遠慮なく頭叩いていいから」


 二人と別れて、教室まで向かったまでは良かったが、教室の窓から見られていたらしい。

 一斉に質問攻めにされた挙げ句に、嫉妬から跳び蹴りが飛んで来た。

 そこへ更に追い打ちを掛けるかのように、質問が流れ込んでくる。

 出雲が妹であり、亜紗妃ちゃんはその友人と説明をしたものの、信じる人は全然いない。

 まさにクラスの男子を敵に回した時であり、最悪の時間が始まったのだ。



 教室の窓から外を眺めながら、授業を半分聞き流しているうちに、昼休みが来てしまった。

 睡魔に負けそうになりもしたが、なんとか眠らなかった。

 帰ったら一度昼寝でもしよう。

 そうでもしないと、体が持ちそうにない。

 ただでさえ朝早くから土佐錦の水替えをしてる上で、眠る事が出来なかったのも加わって、体がかなりしんどい。


「おい頭、本当に妹が来るのかよ?嘘ついたらジュース奢れよ」

「別に良いが妹だって証明されたら、俺達三人にジュース奢れよ?」


 クラスの男子数名がドヤ顔をしてるが、どこからその自信が来ているのだろう。

 まぁこの賭けは、どう考えても俺の完全勝利だけどな。


「ここが二年のクラスかぁ~、思ってたより緊張しないね?てかお兄が目立ちすぎなんですけど!高校生に混じるヤクザにしか見えない!」


 入り口の方から、こちらへと女子二人が近づいてくる。

 教室内がざわつく中でも、一人はいつものペースで歩き、もう一人はその後ろに隠れている。

 にしても上級生の教室を堂々と歩くなんて、我が妹ながらに凄い勇気だな。

 それかただの馬鹿なのか?ドヤ顔を決めながら俺の前に来た。


「約束通り来たよ。お兄ってぼっちかと思ってたけど、案外違うんだね」

「失礼なやつだな、友人はちゃんと居るっての。そうだ二人共、無料(ただ)でジュースが飲めるぞ」


 賭けは俺の勝ちと言う事で、ジュースを買って来て貰う間に、弁当を広げたまでは良かった。

 考えたら、1つの机で弁当3つは狭くねぇか?

 二人は普通にしてるけど、明らかに狭いよな?

 俺は弁当を手にもって食べれば、机のスペースを少しなら確保出来る。

 これで二人は快適に食事が出来るはずだ。


「お、お兄さん…手、疲れませんか?交代します」

「いいよ、家で水槽を運んだりするのに比べたら、全然楽だよ。むしろ出雲や竜子さんの手伝いさせられる方が大変だけどな」

「いやいや、どう考えても私の方が楽でしょ?だって竜子姉はアロワナだよ?それもアジアを三匹も部屋に泳がせるとか、私には考えられない」


 それは確かに言えているのだが、お前の部屋にいるベタも相当大変だがな。

 60センチ水槽にベタの雌を30匹ほど、過密に飼育しているせいで、頻繁に水替えを強いられるんだよ。

 数を減らせって言っても、全部が可愛いから手放したくないと言い、最後には泣く泣く竜子さんに渡す事になる。

 オスの方は、結構綺麗な個体を作るから、うちの店でも結構人気が出てる。

 一応はネット販売もしているから、そっちで結構売れるんだよな。

 以前に、蘭鋳用に買った新品のトロ舟にベタを放流されたのは、ある意味では良い思い出だ。


「か、金田君?そちらの美少女二人の紹介してくれ…てか本当にお前の妹なのか!?本当は両方妹か!?」

「妹の出雲と、友人の亜紗妃ちゃんだよ。二人共、同じクラスの遠田だ…一応、変態だから気を付けろ」


 変態と言う事を聞き、少しだけ引き気味になる二人。

 そして俺は、胸ぐらを掴まれたが、重くて持ち上がらなかった様だ。


「なんでそういうことを言うんだよ!?俺は変態じゃない!」

「いやいや…あの行動を見たら誰でも変態だって思うぞ?見かけたときは心配したが…流石に、何時間もああやってるなんてな」


 俺は学校の帰りに見てしまったのだ…コイツが、公衆トイレに何時間も籠もっている所を。

 最初はトイレに寄ったのかと思ったが、家に帰って数時間後に買い物に行ったときにも、コイツはまだトイレで待機していた。

 その後も数時間ほど買い物や色々とあったが、帰る時にも公園を通ったら、またトイレの所に居た。

 恐ろしいのが、窓から外を覗いていた所だ。

 あの時見た顔は、絶望と怒りに満ちていたな。

 もう龍子姉さんにその事を何気なく話したら、AVでも見過ぎたのだろうと言っていた。


「お前…見てたのかよ?声掛けろよ!恥ずかしいだろ!?」


 恥ずかしいなら最初からするなよ!?


「ねぇねぇ、イズモちゃんで良い?二人って全然似てないんだけど、血とか繋がってる?」

「はい、正真正銘の兄妹ですよ。ただ上には更に姉が居ます」


 やめろぉぉぉぉ!それだけは隠していた事なんだよ!

 俺の顔だけでも凶器なのに、元ヤンキーの姉が居るなんて…恐ろしいだろうが!

 しかも竜子さんにも口止めされてるんだよ…学校で家族である事をばらすなって。

 小学生の時に、姉が居ると言う事で友人数名が家に押しかけた事があった。

 そいつ等は最初こそ普通に遊んでいたが、俺の目を盗んで竜子さんの下着を持ち出そうとしていたんだよな。

 その結果、俺も含めて全員フルボッコにされた。

 あれから余計に、姉が居ることを隠すようにしてきたのに。


「こっちがアサヒちゃん?えっと確か、男の子なんだよね?本当の女の子みたい。ああ、私は宮崎香里(みやざきかおり)、一応学級委員長をしてるからよろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 教室内が更に騒がしくなる中で、顔を赤くする亜紗妃ちゃん。

 その隣では、黙々と弁当を食べ続ける出雲。

 気がつけば休み時間も大分過ぎており、俺達は一斉に弁当を食べ始めた。

 休み時間が終わってからも、授業中に手紙が回ってきたかと思えば、妹の連絡先要求だった。

 速攻破り捨てたが、一体何人が連絡先を要求してくる気なんだ?

 てか出雲ってモテるのか?兄である俺から見ても、美形であることは確実だ。

 親馬鹿ならぬ、兄馬鹿と言われても仕方がないが。


「お兄、お兄!ハゲお兄!バトラクスキャットみたいな顔のお兄!」

「ああ…悪い。つか、なんでバトラクスキャットなんだよ?俺の顔はあんなに丸くないし、顎も出てねぇだろ?」

「何キャットですか?猫の話ですか?」


 知らない人が聞いたら、普通に猫の話にも聞こえてくるだろうが、俺達の話は熱帯魚だ。

 名前にキャットと着いているが、実際にはナマズの名前。

 口から猫のような長いヒゲが生えていることから、キャットフィッシュとも言われている。

 アイツ等は、小さい頃は可愛いのだが…成長すると一気に大型になる。

 調べたりしないで買っていくと、後々が酷い結末になってしまうから、家では極力取り扱っていない。

 注文等をして貰えれば、仕入れる事も可能だが、極力大型ナマズは取り扱いたくない。

 普通に100センチを超えたりするから、水槽だけでも最低180センチ水槽が必要になる。

 一応竜子さんの部屋には、2メートル超えの水槽が設置されてるが、メンテが馬鹿みたいに面倒だ。

 ただし、バトラクスキャットは中型で、他の種類よりは大きくもならない。


「それでね、すっごい可愛い顔してるの!馴れると手から餌食べてくれるんだから!」

「えーそれ可愛い!今お店にいるの!?」


 めちゃくちゃ食いついてきてるな…でもバトラクスって、人によって好き嫌いがあるからな。


「今日見に来てよ!昨日のお詫びもしたいから、ね!お兄もそうでしょ!?」


 ちゃっかり人の事を巻き込みやがった!

 まぁ丁度良いか…昨日の同人誌の件で聞きたい事もあったから。


「二人共、昨日竜子さんに駄目にされた同人誌だが…手に入るとしたら、欲しいか?」

「欲しいけど…今だとプレミアついてると思うよ?特にやられたのは龍先生の作品が多かったけど」

「手に入れられるんですか?すごく高いですよ?龍先生のは品薄が続いてるくらいですよ?」


 品薄が続いてても…一応本人が家に居るからな。

 前に在庫が余ったのが幾つかあるとも聞いてるから、もしかすると手に入れる事ができるかもしれない。

 しばらくの間は、タダ働きを条件で譲って貰えるか、掛け合ってみる必要がある。

 出雲本人が直接頼む事が出来れば、譲ってくれるとは思うんだけどな。

 だけど…何年も顔を会わせていない。


「手に入れられるみたいだけど、お兄に友人で誰かいるの?」

「ちょっと耳貸せ…あまり大声で話せない事だ」


 亜紗妃ちゃんには悪いが、龍子姉さん本人からバラさないように言われている。

 ファンに知られると、自分以外にも家族にも大きな被害が出る可能性があるかららしい。

 結構そういう話は聞いたことがあるが、聞かされると結構怖いものだ。


「よく聞け出雲。お前には、姉が二人居る…お前が忘れているだけで、金田龍子って姉が居るんだ」

「…誰それ?竜子姉に言ったら名前違うって怒られるよ?」


 …駄目だこりゃ。

 いっその事、本人に会わせた方が手っ取り早いか。

 家に帰ったら聞いて見て、会って貰えそうなら夜にでも、二人で部屋を訪問するとしよう。

 反応が全然予想出来ないな…びっくりするのか、あるいはあまり驚かないか。


「竜子さんは双子なんだよ。お前が物置だと思ってる場所は、竜子さんの双子の姉である龍子姉さんが住んでいる」


 可哀想な物を見る目をやめなさい、全て事実なんだよ。

 今日の朝だって見ていたはずだろ?竜子さんが扉に向かって怒っていたの。

 小さい頃の状況を色々と話して見たが、いまいちピンと来ていないようで、首をかしげるばかり。

 我が妹の記憶力が心配になってくる自体になってきた。

 あっちはあっちで、俺の方を心配してる顔になってるしで。

 だけど…会わせると竜子さんの逆鱗に触れる様な気もしてくる。


「もう一人、お姉さんがいるんですか?」


 普通に聞かれてたよ…てかバレたよ。

 龍子姉さんは、あまり人に会うことを嫌がってるから、会わせるのも気が引ける。

 だけどなぁ…目がキラキラしてるんだよなぁ。

 今すぐにでも会わせてください的な視線と、凄い自信が伝わってくる。


「…本人に聞いて見てからな。あの人…家族以外に会いたがらないから」


 と言っても…たまに友人が遊びに来ることもあるけどな。


 家に到着すると、何故か亜紗妃ちゃんも一緒に着いてきていた。

 ただ遊びに来ただけなのかもしれないが、事前に話しておいてくれよ。

 お菓子とか何も用意してないんだけど…ジュースはまだ残ってるか。

 家にお菓子が無いことを悩みながら、リビングの扉を開けると竜子さんが残ったお菓子を食べていたと思った。

 よくよく見てみると、髪は黒い上に、目の下にクマがある事から龍子姉さんだと判明。

 口にペッキーを咥えながら、部屋に帰る途中のようだ。

 だがこれは好都合だ、これで出雲も信じるはず。


「竜子姉、黒髪にしたの?それに眼鏡超似合う!」

「え?私…龍子だけど?出雲ちゃん、私の事忘れたの?何年も部屋に籠もってるけど…私もよく一緒に遊んでたのに」


 やっぱり忘れられてるとなると、ショックがデカいよな。

 手に持ってたお菓子を落としてしまうほどだから、かなりダメージが来てるようだ。

 ジワジワとこっちに近づいてきて、涙目で出雲に縋り着く。

 それに対して戸惑いを隠せない出雲は、俺と亜紗妃ちゃんに助けを求めるが、どうしようもない。

 家族を忘れたのが悪い…居間の方から殺気が漂ってくる。

 ゆっくりと扉が開くと、木刀を持った竜子さんが現れた。


「竜子姉が二人!?なんで!?どうして二人もいるの!?」

「だから双子なんだって。目の前に居るのが、長女の龍子姉さんで、あの木刀構えてるのが妹の竜子姉さんだよ」

「…本当に覚えてないの?お姉さんなんでしょ?」


 全員が居間に移動して、状況の整理をする事になった。

 お互いに向かい合わせに座るのだが、俺の隣には龍子姉さん。

 俺達の前には竜子さんに出雲、そして亜紗妃ちゃんの形になった。

 明らかに苛ついている竜子さんに、いつでも応戦出来るようにGペンを持ち直す龍子姉さん。

 正直、学校から帰ってきてから、こう言うことはやりたくはない。

 店の方も手伝わないといけないのに、余計疲れる。


「お前の仕業だろ!出雲が犯罪者予備軍になったの!あんな変な本ばっかり描きやがって!」

「確かに一般的には受け入れられないかもしれないけど…竜子と違って、家にちゃんと生活費だって入れてる。家族の誰にも迷惑を掛けてないのに」


 二人による言い合いはしばらくの間続いたが、ついに竜子姉さんが爆弾を投下した。


「気持ち悪いんだよ。何が同人作家龍(ロン)だよ…双子の妹のアタシの気にもなれっての」

「「!!!!!」」


 出雲と亜紗妃ちゃんの視線が向いた。

 同時に青ざめる龍子姉さんだが…一瞬の隙を突いて、Gペンを投げつけた。

 飛んで行く三本のGペンは見事に木刀に刺さり、二人が一斉にお互いの武器を構え、睨み合い始める。

 俺は急いで龍子姉さんを落ち着かせると、出雲も同じく竜子さんを落ち着かせる。


「竜子姉、今言ったのって本当!?あの人が龍先生だって!」

「アタシは詳しくしらないけど、なんかそんな名前だったはず。男同士が…駄目、気分悪くなってきた」

「なんでバラすの?私が必死に隠してきたのに…アナタのせいで台無し!獅子雄君、出雲ちゃん…私、部屋に帰る…今日の夕飯はいらないから」


 完全に怒らせてしまった。

 あれはしばらく部屋に近づかない方がいいな…面倒な事になってきた。

 竜子さんはクッションを投げたりして、八つ当たりをしてるしで。

 出雲と亜紗妃ちゃんは興奮が隠せないのか、お互いに顔を見合わせてキャーキャー言ってる。

 どうする事も出来ない俺は、店の手伝いをするために、居間を後にした。

姉の龍子が出雲と亜紗妃に憧れの同人作家とバレてしまった。

次回、二人による、獅子雄腐男子改造計画始動!?

二人の魔の手から逃げる事が出来るのか?あるいはその道に墜ちてしまうのか?

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