第一話 妹の友人が、美少女にしか見えない。
妹の友人で、美少女の亜紗妃が実は男であると知った獅子雄。
そんな彼の身には、思わぬ事態が待っていた。
我が妹の友人が美少女…だった。
ロリータ系の服を着ていて、綺麗な金髪の美少女…だと思っていた。
それが…それがだ、性別が男という事実。
どこからどう見ても、ハーフの美少女だったのに!
なんで俺がこんなにモヤモヤしてんだ!?
出雲の友人に、俺が口出しする理由なんてないだろ!
「何か悩み事?お姉さんに聞かせて」
「大した事じゃないですよ。それより、龍子姉さんは同人誌を書いた方が良いんじゃないですか?いつまでもゲームしてると、メンバーに怒られますよ」
悩んで居る事を見抜いたこの人は、金田龍子。
我が家の長女で、竜子さんの双子の姉。
俺と出雲に取っては、義理の姉に当たる人だ。
髪は黒いロングヘアーで、目の下にはデカいクマがあり、眼鏡を掛けている。
この人は数年間ずっと、自室に引き籠もって居て、部屋から出るときはトイレかシャワー時くらい。
部屋はいつも暗く、家具類は全てがゴシック調でまとめられている。
一応は売れっ子同人誌作家であり、サークルでは自分の名前から取って、ペンネームを龍として活動している。
と言いつつも、殆どの必要な物はネットで注文をして、俺が受け取った後に部屋で渡す。
竜子さんは龍子姉さんの事を下に見てるらしく、廊下ですれ違うと、舌打ちをした後に睨んで行く。
出雲に関しては、驚いた事に、存在自体を半分忘れられてしまっている。
本人曰く、半分都市伝説的な感覚らしい。
「ネタが…浮かばない。幾らネタ収集をしても、全然良いネタが出ない…獅子雄君は、何か良いネタ持ってる?特にBLなら何でも良いから」
「俺に聞かないでくださいよ。BLとかに興味ないし、俺はどちらかと言うとノーマルですから」
残念そうな顔でこちらを見てくる龍子姉さんだが、直ぐにパソコンへと向く。
一応、義理とは言え弟が居る部屋で、BLゲーを平然とする根性。
ヤバいシーンに突入しても、隠すどころか、感想を求めてくるときとかは勘弁して欲しい。
「トランスルーセントが白点病になってるから、薬入れておきますよ。水温は少しずつ上げてください」
「了解。ところで、出雲ちゃんの友達は帰った?私、トイレ行きたいから」
既に帰った事を伝えると、急ぎ足で部屋を出て行った。
同時にペットボトルが転がってきた。
机の上に戻そうかと思い、拾うと妙に生暖かい。
スクリーンの光で中身が見えたのだが、うっすらと黄色みがかってる。
俺はペットボトルを、机の上にゆっくりと置いた後、部屋を後にした。
一瞬、亜紗妃ちゃんの話をするのもありかと思ったが、何か悪い気がしてやめた。
リビングの方では、寛ぐ竜子さんと出雲。
二人してテレビを見ながら爆笑をしているが、一名程見覚えのあるツインテール。
さっき帰ったはずなのに、どうしてリビングに居るんだ?
「あ、お兄。亜紗妃ちゃん、今日泊まって行くことになったから、部屋貸してね」
「獅子雄、可愛いからって手出すなよ?何かあったら叫びなよ、直ぐに助けに行くから」
手出すなよって…俺は男に手を出す気なんてない!
元々性癖事態が違う上に、俺は女が好きだ!
「そんな悪いです。私は、別の所で寝ますから」
「大丈夫、お兄ってば、ああ見えてかなりのヘタレさんだから。手を出すどころか、眠れないかもね」
「言えてる言えてる。ヘタレどころか、ただの雑魚レベル」
雑魚のヘタレで悪るかったな!良いよ泊めてやるよ!
でも本人の気持ちを考えてみろよ!逆にヤクザと眠る覚悟があると思ってんのか!?
別に男だと分れば俺に問題は無いんだ!相手の心境が問題なんだ!
寝れなくなるんじゃないのか!?
軽くトラウマを植え付けて仕舞うレベルじゃないのか!?
「じゃあ決まったから、今日はお寿司食べよう!私ウニが良い!亜紗妃ちゃんは何が好き!?」
「わ、私はサーモンが好き」
大はしゃぎの出雲と、テンションについて行けていない亜紗妃ちゃん。
それに同調する竜子さんだが、注文をするのは大体が俺の役割。
店の方で、明日の準備をする両親に何を頼むか聞いた後に、次は龍子姉さんへ聞きに行く。
このときに、お客が来ている事を伝えて置かないと、あとあと大変な事態に発展する。
トイレ等で遭遇する場合があるから、教えておかないといけない。
「オニオンサーモンとはまちで、後はタコ。届いたらいつもの様に部屋で食べますか?」
「お客がいるなら部屋で食べる。あとこの部屋に入らないように、注意しておいて、私もヘッドホンしてプレイするから」
普通は、ヘッドホンをしてプレイするものなんだけどな。
家族に知られたら恥ずかしいと思うのだが、この部屋って角部屋な上に、パソコンの壁の向こうは外。
更に壁には防音材まで着けているから、音漏れは殆どしない。
あとはこの状況を知っているのは、俺だけであって、両親は知らない。
このことを知っているとすれば、あとは竜子さんくらいか。
殆どが、これが原因で、軽蔑されているような気もするが。
「もし廊下ですれ違ったりしたら、挨拶はしといた方がいいと思いますよ。出雲とも仲が良いみたいですから」
廊下ですれ違ったとしても、二人はそっくりだから、間違えるかもしれないけどな。
初めて会った当時は、二人共最初は見分けが付かなかった。
直ぐに正確の方で違いが分ってきて、見分けが付くようにはなった。
現在では、竜子さんは髪を染めてるから、直ぐに分る。
でも両親はもう何年も、龍子姉さんを見たkとが無いはず。
ただ頻繁に荷物が届いて、家中段ボールだらけになるのに苛ついてはいた。
熱帯魚の品で段ボールが増える上に、あれだけの買い物をされてるからな。
部屋に引き籠もっているのも、あまり良いと考えていないみたいだし。
「寿司は注文したが、飲み物とかあったか?」
「あー、無いかも。ごめん、お兄買ってきて、竜子姉は車出して」
「流石に妹の頼みでもやだ!亜紗妃が可愛いから、お姉ちゃんはここから離れたくない!」
気がつけば、竜子さんは亜紗妃ちゃんを膝に抱えて、幸せそうな顔をしていた。
珍しい光景だが、亜紗妃ちゃんの方も、顔を赤くして恥ずかしがってる。
男だからその気持ちは分る、背中に胸が当たってるんだろうな。
出来る事なら、助け出してやりたい気もするんだが、俺の身が危ない。
竜子さんは元々がヤンキーだから、かなり喧嘩馴れしてる。
俺は多分、ワンパンで倒されるはず。
「竜子姉、亜紗妃ちゃんが困ってるから離してよ!もう三人で買い物行くから!暗くてもお兄が居れば変質者逃げるもん!」
確かに変質者は逃げるよ?前にお前と一緒に買い物に行ったとき、遭遇したからね。
でもあの時、逃げた変質者が通報したんだよな…女子中学生がヤクザに絡まれてるって。
お前が通報するのかよと大声で叫んでしまったが、警察の人にも疑われるしで。
出雲と竜子さんが誤解を解いてくれたけど、あとから色々と要求された事がある。
結局は相手の方が捕まった訳だが、本当にそっち系の人間じゃないか、最後まで疑われてたっけか。
「出雲ちゃんは、変質者に会った事あるの?」
「前に数回ほどあるけど、お兄を見て大体逃げてくよ。最後に見たのなんて、自分で交番に逃げ込んだから」
「やめてくれ、俺の傷を抉るな…いまでも警察からマークされてるんだ」
実質、本当に警察からマークされてる。
出雲と歩いてるだけで、警察から職質されるレベルで。
高校の制服を着ているにもかかわらず、必ず職質を受ける、もう人生が辛いよ。
「とまぁお兄は顔面凶器の割には、かなりの豆腐メンタルだから…ただ肉食魚を相手にしてるときは大分変るよ。あの手の傷なんて、小さい頃に囓られたヤツばっかりなんだから」
「豆腐メンタルは余計なんだよ。でもこの傷は確かに、店の魚にやられたらものばかりだ、喧嘩とかでできた傷じゃないからな」
手を上げてみたものの、じっくりと見られると恥ずかしいな。
本当に傷だらけだしな…ガーに何度噛み付かれた事か。
「てかこんな事してる暇ないじゃん!早く買いに行かないと、お寿司が来ちゃう!」
出雲に手を引かれながら、急ぎ足で家を飛び出して行った。
三人でスーパーまで来てみたが、ざわつかれてる。
ヤクザが来たと思われているからだろうが、顔見知りの人は、挨拶をしてくれる。
一瞬ビクッとされるものの、すぐに俺とわかると笑顔を向けてくれるのが救いだ。
てか出雲よ…カゴにジュースとお菓子を入れすぎじゃないか?
飲み物を買いに来たのに、ポンポン入れて来る。
会計の時に金が間に合うか分からないが、とりあえず棚に戻して行く。
「あー!なんで棚に戻しちゃうの⁉︎今日は三人で宴会しようと思ってたのに!」
「宴会って、これお前も出すんだよな?全額俺持ちはしないぞ?」
絶望的な表情に変わっていく出雲の顔、隣では亜紗妃ちゃんが戸惑った顔をしてる。
こんなカゴいっぱいのお菓子を見せられたら、仕方がないか。
それも兄に全部出させる気でいたのにも驚いたが…竜子さんの仕業だな。
前々から気になっていたが、明らかに出雲を甘やかしすぎている気がする。
ただでさえタバコ代で金が飛んで行くのに、その上で出雲のお菓子代でさらに飛んでたのか。
両親に小遣い倍増の交渉をしていたのは、これが原因だったか。
「出雲ちゃん、全部お兄さんに出させるのは悪いよ。私、自分の分は自分で払います」
「亜紗妃ちゃんは出さなくていいよ。お客だから、ここは俺が出しとくけど、出雲は自分で出せよ」
「なんで⁉︎竜子姉はいつも買ってくれるのに⁉︎お兄は厳しすぎると思う!」
厳しすぎません!これが普通です!
「じゃあ私が出すよ。今日は泊めてもらうから、そのお礼に」
「それはそれでこっちが悪いよ。私が無理言って泊まってもらったのに」
「分かった、今日のところは俺が出してやる。出雲は後で小遣いから返してもらうからな」
再び絶望的な顔をする出雲を置いて、レジへと進んんで行く。
ここで気をつけることは、店員は顔見知りのところに並ぶこと。
初めて会う人だと、完全ヤクザと勘違いされた挙句に、酷い時は警備員を呼ばれた。
直ぐに誤解が解けたものの、なぜか俺まで注意された。
不憫すぎるが、店員のおばちゃん達には励まされたのが救いだったな。
「お兄!会計早すぎ!まあここは奢りと言うわけで!」
「すみません…私まで」
困ったな…若い蘭鋳を買うための金が。
だが、出雲に友達ができたから、祝いとしてはいいかもしれない。
ほとんどがお菓子とジュースだが、本人が良いなら良しとしよう。
でもこれは流石に、買いすぎだろうに。
袋だけで三つ、金額も軽く一万も吹き飛ばしたからな。
高い菓子ばかり選びやがって…ジュースも同様に高くて良いやつを選んでるしで。
あとでしっかりと回収してやるから、覚えてろよ。
「暗くなって来たから、やっぱり変質者でるかな?最近出没してるみたいだから」
「怖いよね?先生も注意するように言っていたし、別の学校でも被害が出たんだよね。いきなり目の前に現れて、コートの中身を見せて来たって」
なんか学校でも噂になっていたような気がするな、先生も言っていたっけか。
突然背後から声をかけて来て、振り向いた瞬間に、自分の裸を見せつけてくると言う変態。
いわば露出狂が出没しているということである。
ただ見せつけてくるだけで、襲いかかって来たと言う話までは聞いていない。
他にも学校では色々な噂を聞いたりしている。
深夜のコンビニに現れる、ゴスロリ衣装に身を包んだ女性。
顔は美女だが、噂では道路とかで出会うと家についてくるとか、呪われるとかがある。
あとは学生服を来たヤクザがいるとか…これは完全に俺のことだ。
とにかく、色々な噂がある。
俺自信が噂になると言うのも、かなり悲しいことだ。
「あ、そこの三人。質問したいんだけどいいかな?後ろの男の人は誰?お父さん?」
背後から声をかけられ、振り向くと警察官が立っていた。
疑いモードですね、はいお仕事お疲れ様です。
「実の兄ですがなにか?いつも兄をヤクザ扱いして来ますけど、私不愉快なんです。兄は確かに顔はヤクザみたいに怖いですが、高校生なんですよ⁉︎ヤクザみたいですが!」
出雲…庇ってくれているのはわかるけどよ、ヤクザ言い過ぎだ。
合計三回くらい言っていたぞ、ヤクザ顔は確実だが、傷つくんだぞ。
警察官の方も困ってるし、複雑な心境だな。
とくに出雲は昔から、家族のことを貶されたりすると、相手が年上だろうが関係なしに怒るんだよな。
その迫力は竜子さん並みの勢いで、相手に詰め寄って行く。
相手の方も押され気味に、後ずさりを始めてる。
「落ち着け出雲、学生証を見せれば済む。これ学生証です、妹がすみません」
学生証と俺の顔を交互に見た後に、学生だと分かってくれたようだ。
直ぐに学生証を返してくれた後に、謝罪をしてくれただけマシか。
以前、俺に異常に疑い続けた挙句に、違うと分かると紛らわしい顔をしていた俺が悪いと言われた。
あの警官がいる時こそ、出雲に居て欲しかった。
「大丈夫ですか?警察の人も酷いです。いきなり疑うなんて」
「それが仕事だからね。この顔も、諸刃の剣みたいなものだよ」
「諸刃の剣より、破滅の剣だったりしてね」
う、かなりダメージが入ってきた。
諸刃の剣より、破滅の剣か…否定できない。
ただこうして心配をしてくれるというのは、すごく有難い。
美少女だったら相当嬉しいのだろうが、相手は男子だからな。
なんとも言えない状況なんだけど、目がうるうるしてて可愛い。
畜生!どうしてこんなに可愛いのに、性別は男なんだ!?
人生で女にもてた事も無ければ、美少女とお近づきになれる事すらなかった。
でも現在は目の前に美少女(?)がいる。
だけども女じゃない、正しくは美少年なんだろう。
現実は残酷すぎる…残酷の粋を超えてる。
「あー怠い!もう早く帰ろうよ!せっかく楽しい気分が台無し!今日はどんちゃん騒ぐぞー!」
夜だと言うのに大声を出す出雲に、俺は背後から軽くチョップを入れる。
小さい頃から、出雲は興奮すると大声を上げて発散しようとする。
そこを俺がいつも、背後からチョップを入れて止める、お決まりのパターンだ。
たまに反撃をしてくる場合もあるのが、怖い所だがな。
「出雲ちゃん、学校と全然違うね。いつも学校では、皆の人気者で少し物静かなのに」
「あはは、学校ではなんていうのか…あまり素の私が出せないっていうか…う~ん」
「単に昔みたいになるのが嫌なんだろ?現状が楽なら、それで良いだろ。俺も学校でたまに学校で見てるが、問題なさそうだしな」
昔は苛められていたから、家以外では素を出す事を嫌がっている。
俺の顔が厳つい事が知られてからは、苛められる事はなくなった。
代わりに何故か人気が出たりしていた。
学校の方でも結構モテるらしいのだが、あまり誰かと付き合いたいとかはないと言っていた。
理由は知らないが、逆に反感でも買うんじゃ無いかと心配していたが、支障はないらしい。
逆にモテてモテて大変とか、家でアピールすらしてくる。
それで竜子さんが俺に、八つ当たりをしてくる。
「簡単に言っちゃうと…私の家って熱帯魚屋だから、苛められてたの。今だと皆、普通に接してくれるけど…学校が違うってのもあると思うけど」
「私も昔苛められてたよ。見た目が他の子と違うから…ハーフと言えば分るけど、私ってクォーターだから」
クォーターか…子どもだとあまり聞かない言葉だろうな。
「え?ハーフじゃないの?私てっきりハーフだと思ってた」
「ごめんね、私…お父さんがハーフで、お爺ちゃんがルーマニア人なの」
「かなり綺麗な顔立ちをしてると思っていたが、ルーマニア人か、なるほどねぇ。だからここまで美人になるわけだ」
結局の所は、男であることには、代わりはないんだけどな。
しかしもったいないよな…本当に女だったら。
いや待て…これはもしかすると、本当は女の子なのかもしれない。
出雲と二人で俺を騙そうとしてるのではないだろうか?
可能性は捨てきれない、まず証拠が無いからだ。
それに竜子さんが抱っこしている間だって、出雲は男だと話さなかった。
駄目だ!もう何が正解で、何が間違いなのか分らなくなってきた!
「わ、私が美人ですか!?は、はは、恥ずかしいです!」
「超照れてる!もう可愛い!家に帰ったらさ、お風呂入った後にゲームしようよ!私一人だと、お兄を倒せなくって」
楽しげに会話をする二人を、後ろから見つめていると、ホッとしてくる。
妹には友人が居て、気軽かつ楽しげに話して居る姿を見れたからか。
または…過去を無事に克服する事が出来たからかもしれない。
悪い方にではなく、良い方に進んでくれた事が、嬉しい。
それから俺達三人はぶ無事家に帰る事が出来たが、既に寿司を食べている竜子さんの姿があった。
両親の姿は無いことから、仕事場で食べて居るのかもしれない。
手を着けられていない寿司が4つあるから、龍子姉さんは食べて居ないのだろう。
つか運んでくれたって良いだろ、それか届いてくことを教えてあげたりしたら。
双子なのに、竜子さんが一方的に嫌っているからな。
「お帰り二人共、先に食べてるから」
「竜子姉、頬にお米付いてる。あと友達が居るんだから、もう少し行儀良くしてよ」
出雲の言うとおり、手に米粒を大量につけたまま、ソファで胡座をかきながら食べるな。
あと自分の好物を殆ど食べてるけどな、良いネタばかり狙ってんじゃない!
殆ど大トロがないぞ!?それにウニまで食べられてる!
これじゃあ何の為に小分けを頼んだんだ!?人のを食べるなよ!
だが龍子姉さんの分には手を出してないか…てか、手出したら本気でキレられるからな。
食べ物の恨みは恐ろしい…前にもプリン食べられた腹いせに…顔スレスレにGペン投げつけられてたっけ。
驚いた事に…壁にぶっささったからな…引きこもりでも、やっぱり一卵性の双子か。
「よく見たら煙草吸ってる!煙草は部屋で吸うって約束でしょ!?なんでそんな大っきいの持ってくるの!?私アニメでしか見た事ない!いつ買ったの!?」
「いいっしょこれ。シーシャって言うんだけど、まぁ水煙草ってやつ?前から欲しかったんだよね、さっきやっと届いたから試してんの」
この人…もう煙草愛好家通り超して、ただのニコチン中毒だな。
部屋の中には煙草で溢れかえってるし、色々な煙草とか葉巻をコレクションしてる。
しかも部屋の前を通っただけで、もう煙草臭いんだよな。
「信じらんない!もうやだ!私達部屋で食べるから!行こ!」
三人前の寿司を手に持ち、出雲は部屋へと向かってしまった。
その後ろを、申し訳無さそうに歩いてく亜紗妃ちゃん。
俺は龍子姉さんの分を持ち、部屋へと向かおうとしたら、面倒な事に絡まれた。
狙いは大体予想が出来ている。
俺が持って居る寿司を狙っている上に、食べた分を俺の寿司から変えておけと言う物。
とても卑しい行動である上に、かなり陰湿である。
「根暗の寿司はアタシが貰うから、お前の分を根暗に」
寿司目掛けて手が伸びた瞬間に、もの凄い早さで竜子さんの額に謎の固形物が衝突した。
固形物の正体は、消しゴム。
新品の未使用品ある上に、ビニールすらも剥がされていない。
飛んで来た方を見てみると、こちらへとGペンとインクを投げつける構えを取る、龍子姉さんの姿。
目が血走ってるから、とてもお怒りでございます。
もしかするといつまでも寿司が来ないことに苛ついて、部屋から出てきたのかもしれない。
てか部屋以外で会うなんて、数年ぶりだ。
「チッ…部屋から出てくんなっての。気分悪い、酒買ってくる」
激しい音を立てながら、部屋を後にする竜子さん。
対して龍子姉さんは、寿司を受け取った後に、御礼を言って部屋へと戻って行った。
二階からは、痺れを切らしたのであろう出雲の呼ぶ声が聞こえてくる。
いつもと変らぬ日常に、少しだけの変化があると言うのも、また良い物だな。
かなりおかしい点もあるのだが、そこは目を瞑るとしよう。
「大声で呼ばなくてもちゃんと行くって。コップを用意してたんだよ」
「とか言いつつ、竜子姉に絡まれてたんでしょ?自分が気に入らないことがあると、直ぐ八つ当たりするんだから」
「でも喧嘩する程仲が良いって、言いますよね?」
そうであれば良いが、一方的なんだよな。
「みんな揃った事だし、食べよっか。私、友達とお泊まり会するのって初めてなんだよね」
「私も初めて。電話でパパとママに話した時も、凄く驚いてた…だけど、やっぱり緊張する…パパ以外の男の人が居る家に初めて泊まるから」
段々とテンションが下がり始めると、ゲームを取り出し始める出雲。
どうやら食後のゲームをしようとしているようだが、パーティーゲーム。
何百回と遊んできたヤツだが、毎回俺が勝ってしまう。
手加減とかをしてるんだがな…出雲本人が弱すぎるのか、コンピューターにまで負ける。
「今回はお兄がコンピューターとで、私と亜紗妃ちゃんがコンビを組むから」
「面白い。じゃあお二人にハンデをくれてやる…そうだな、俺の方のキャラ設定を最弱にして良いぞ」
それからは、三人でゲームをしたものの、俺の圧勝で終わってしまった。
色々と試行錯誤をしてみた物の、結果は変らずに、俺が勝つばかり。
皆で考えている間にも、家の風呂が沸いたと言う事で入って貰うとしたら、出雲が何故か先に入ってこいと言い始める。
普通は客が先に入る物なのだが、一体何を企んでいるというのだろうか。
亜紗妃ちゃんも同様に、先に入ってくれてと言われてしまう。
仕方なく入る事にしたのだが、何かを企んでいるようで仕方が無い。
「客人より先に入るって、気が引けるな…」
風呂場に設置されてる鏡に写り込む自分の体…最近また筋肉が付いてきたな。
家の水槽を運んだりしているうちに、勝手に体が鍛えられてしまう。
水槽事態がかなりの重量、水を入れたら軽く百キロを超えたりする。
大分水を減らしているとは言え、水がなくても20キロはある。
頻繁に運ぶとなれば、自然と体は鍛えられてしまう。
このせいで余計、顔に対して体も追いついてきて、威圧感が増していく。
前にも店にきたお客さんが、俺の顔を見て直ぐに逃げ帰った事もある。
子どもにも速攻泣かれて、傷ついたりしたな。
昔はもっといい顔をしていたのに、何故こうなってしまったのやら。
「考えたら…俺の部屋で寝る訳だから…男で間違いないんだろうな」
頭を流し、体を洗い始めようとした時に、扉が突然開いた。
誰か間違って風呂に入ってきたのか?
竜子さんには伝えてある、てかあの人は決まった日にしか湯船に浸からないしな。
今日は湯船に浸かる日じゃないから、シャワーのみのはず。
だから深夜辺りに入りに来る。
あと考えられるのは、龍子姉さんか、親父達か。
「し…失礼します…お、おお、お背中お流ししますね」
この声は確か…はぁ!?なんで風呂場に来てるの!?
心の中で焦りながらも、冷静に背後を振り向くと…体にタオルを巻いた亜紗妃ちゃんが居た。
恥ずかしさの余りに顔を真っ赤にしてた上で、手にはボディータオルが握られている。
「えっと…どうしてここにいるのか、説明してもらえるかな?」
「出雲ちゃんが…御礼をするなら、こうした方が喜んでくれるって…私、喜んで欲しくて」
どうしてそこで泣いちゃうの!?これじゃあ俺が泣かしたみたいじゃん!?
気まずい上に、どういう雰囲気なの!?
「まず落ち着いてから、ここから出ようか。話は風呂を上がってからだ」
「でも…私、御礼がしたいんです!」
ええええええ!?なんで抱きついてくるの!?
あとタオル落ちるのタイミングが良すぎ!抱きつく瞬間に落ちないで!
位置的にも超ギリギリなんだけど!あと10センチ背が低かったらアウトだよ!?
あと肌白いな!雪みたいに真っ白だ!
「気持ちは嬉しいけど、流石にこれは駄目だよ?」
「男同士でも…ですか?」
そういうと、俺から静かに離れ始めた。
俺は目を瞑っていたが、一瞬視界に写り込んだ…男のシンボルが。
あれは確かに…あれだったよな?
男なら誰でも所持している、勲章とも言うべき急所。
間違いなくこの子は、男だって事は分ったが…異様過ぎるんだよ。
人生で一番複雑な心境と言うのは、今まさにこの時だと言い張りたい。
だって俺…壁に手を突いてがっくりきてる。
「大丈夫ですか!?のぼせてしまったんじゃ」
「違うよ…状況が複雑過ぎて、俺が追いつけていないだけだから。頼むから泣かないでくれよ…分った!じゃあ背中だけでも流してもらうよ」
まずは…亜紗妃ちゃんは本当に、亜紗妃君と言う事で決まりだが。
一体出雲のヤツは、何が目的でこんな行動に出やがったんだ?
風呂上がりにとっちめてやるからな…兄を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる。
ん?なんだか…背後の息が荒くなってる?
俺の勘違いでなければ、呼吸音が明かに激しくなっているような気がするんだが。
さきほどまでタオルで擦られていたのが、いつの間にか消えて、ツルツルした物で擦られてる。
ツルツルとした物には、2つの突起物が存在していて、生暖かい。
あと耳元に声が聞こえてくるんだけども…妙にいやらしい。
「ハァ…ハァ…どうですか?気持ちいいですか?」
「気持ち良いと言うか…タオルで擦ってるよね?ちゃんとタオルを使ってるよね?」
俺はシャワーを手に取り、曇った鏡をお湯で流した。
すると鏡に映った扉からこちらを覗き込む、出雲の姿があった。
確信犯じゃねぇか!あの馬鹿妹!
それに携帯までこっちに向けて、なんて事考えてんだ!?
俺が気づいて居る事に気づいたらしき出雲は、そそくさと扉を閉めて逃げて行った。
「魚が一匹逃げたけど…君はどうする?このまま続けて、俺から説教を受けるか、出雲と二人で説教を受けるか」
俺の問いに対して、部屋で説教を受ける事を選んだらしく、シャワーを浴びて風呂場を出て行った。
これでゆっくりと湯船につかれると言いた胃所だが…説教をしてやらないといけないからな。
歳上として、兄として当然のことだ。
部屋に入るとテーブルや床の上には、色々と見覚えのある本が大量に並べられ、二人でこちらをニヤニヤと見てくる。
大半が龍子姉さんの部屋にあった同人誌ばかり、てか俺が手伝って作ったやつ。
まさかBL同人誌制作を、バイト感覚で手伝っているのがバレたのか!?
可能性は否定仕切れないが…俺がBL好きと勘違いされてるかもしれない。
このままだとヤバい事になる、兄がBL好きだなんんて思われたくない。
「この本は…どうしたんだ?借りてきたのか?」
「違うよ。これ全部、私達の趣味」
「一部は…私が貸してる物です。特にこの、龍という先生の作品は、私の私物です…もの凄く面白くて、感動出来るんです」
女装男子であり、BL大好きだったのか…なんてこった!
よりにもよって龍子姉さんのファンときてるんだから、奇跡に等しすぎる。
困った事になってきたぞ…もう本人に会わせた方がよいくないか?
だけどお客を部屋に入れるなと前から言われてる上に、妹の出雲すら存在を忘れてるからな。
それ以上に、出雲までも腐女子になっていたことに衝撃だ。
これって俺が怒られるパターンじゃね?絶対怒られる!
「お、お兄さんも読んで見てください!きっとハマりますよ!」
同人誌を開いて顔にぐいぐいと押しつけられたが、その内容殆ど知っている。
後ろからは出雲に羽交い締めにされた上での、正面からは同人誌の襲撃。
よりにもよって、俺がベタを塗ったところを押しつけてくる。
「お兄は私が腐女子だって気づかなかったでしょ?周りには隠してるから、全然知られていないけどね。亜紗妃ちゃんには、たまたま同人誌を買うところで出くわして、更に意気投合したんだよね」
怖いって!俺の知ってる出雲じゃない!
もう別人レベルだって!知らぬ間に力強くなってるし!
俺…このまま掘られるのかな…嫌だな。
諦めかけた瞬間、扉が勢い良く開き、酔っ払った竜子さんが突撃してきた。
右手に葉巻を持ち、左手にはビール缶を握りつつ、灰皿を指で挟んでいる。
「イ~ズ~!ア~サヒちゃ~ん!お姉ちゃんが遊びにきた…お?おお?おげぇぇぇぇぇ!」
出雲の部屋に入ってきた瞬間に、大量の同人誌を見て吐き始めた竜子さん。
この人…下ネタとかに対しての耐性ってのが、全くないんだよな。
犬の芸でちんちんと言うだけで、顔を真っ赤にして黙り込むくらいだから。
どうやら出雲達の同人誌は、刺激が強すぎたようだ。
思いっきり本に向けてリバースしてる、つか酒臭ッ!
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
家中に響くであろう悲鳴と共に、酒と吐瀉物の入り交じる臭いが部屋中に広がる。
数冊の同人誌が駄目になったな…残念だが、広げてるのが悪い。
部屋でリバースされるのは気の毒に思うが、今回だけは感謝だ。
問題は、これから出雲とどうやって接していけば良いんだ。
そして亜紗妃ちゃんとも、顔を会わせるのが気まずい。
衝撃事実の連発に頭を抱える獅子雄。
妹と後輩二人に悩まされる日々が始まる。