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プロローグ 

ヤクザ風の顔をした高校生、金田獅子雄は、妹の頼みでコンビニへお菓子を買いに出かけた。

そんなコンビニで、彼は美少女と出会うのだが。

 金田獅子雄(カネダシシオ)、それが俺の名前だ。

 俺の名前に獅子と言う字が使われた理由、そいつは親父の金魚好きが原因。

 金魚には、オランダ獅子頭(シシガシラ)という品種がいて、そこからとったとのこと。

 この様に金魚の名前をつけられたのは、俺以外に妹も同様だ。

 妹はこげ茶の茶髪をポニーテールにして、ダメージ系の派手な服を着ている。

 そんなパンク系の服をを好む妹の名前は、金田出雲(カネダイズモ)、俺の1つ下だ。

 何故出雲と名付けられたかと言えば、出雲南京(イズモナンキン)と言う金魚が居るからだ。

 そんな我が家には、あと二人姉がいる。


「イズモ、優しいお姉ちゃんがお小遣いやるよ。獅子雄!お前は煙草買ってこいよ!」


 上の姉二人は双子で現在は二十歳ちょうどで、二人の性格は全くもっての真逆。

 一人は元ヤンキーで現役の大学生、もう一人は数年部屋に引き籠もってる。

 今俺に煙草を買いに行かせようとしたこの人は、金田竜子(カネダリョウコ)

 茶髪の髪にウェーブをかけ、見た目はとても綺麗な人なのだが、性格に難ありだ。

 妹の出雲に対しては異常な程に甘いが、弟の俺に対してはキツく当たる。

 元々がいじめっ子体質の、ドSな性格をしてるからかもしれないが。


「高校生に煙草買いに行かせる気かよ?自分で行けよ」

「アタシに逆らうなんて、五万年早いんだよ!良いから行ってこい!お前の顔なら買えるだろ!店員に凄味(すごみ)を効かせろ!」


 反論すると、必ず無茶振りを言ってくる。

 あるいは、人がテレビを見ている時に、後ろから蹴りを入れて来る。


竜子姉(ねぇ)!あまりお(にぃ)に無茶な事言わないで!あ、お兄にお願いがあるんだけど。今日お昼過ぎ辺りに、学校の友達が家に来たいって言うから、お菓子買っといてもらって良い?」


 我が家での、俺の味方は妹の出雲くらいだ。

 元々、俺と出雲は実の兄妹だが、竜子さんとは血が繋がってない、義理の姉になる。

 家の親はバツイチ同士での再婚で、姉二人が我が家へ来たという形だ。

 親父達が再婚した時、俺と出雲はまだ幼くて、あまり理解が出来て居なかった。

 ただ引っ越すと言う事が出来ないのは、子どもながらに知っていた。

 なんせ…家は、熱帯魚専門店だからだ。


「お前が友達を連れてくるなんて珍しいな。家で魚でも買う相談とかか?」

「違うよ、普通に遊びに来るの。最近転校してきた子なんだけど、妙に意気投合しちゃって」


 ヤバい…兄さん、目から涙が出てきそう。

 今まで出雲の友達が、我が家へと遊びに来た事があっただろうか。

 兄である俺が凶悪面という事に加えて、熱帯魚屋だから魚臭いとか言われたりして、苛められたりしていたのに。

 俺の部屋に来て泣いていたあの出雲に、友達が出来たなんて。

 よし!お菓子を沢山用意してやろう!ケーキも用意してやる!


「アタシの煙草もついでに買ってこい!ナインスターな!」

「だから買えねぇっての!俺捕まるから!」


 後ろでギャーギャーと騒ぐ姉(元ヤン)を無視して、俺は買い物へ出た。

 俺がいなくなれば、諦めて自分で買いに行くか、部屋に置いてる別のを吸うだろうから。

 実際、コンビニなんて家から歩徒歩五分の所にあるんだから、普通に買いに行けよな!

 まぁここの店員、接客態度が悪いから行きたくないんだけどな。

 店員がいつも無愛想で、店長は異常な程に口臭が酷い。

 特にレジに出てきたとき、煙草を吸いながら出てきたときには、目を疑った。

 店に入っても、挨拶とかも無ければ、睨み付けて舌打ちされる。


「出雲はチーズケーキで…友達は何が好きなんだ?聞いとけば良かった」


 とりあえずは適当に買って置いて、余ったのは家族で食べれば良いか。

 他に買って置いた方が良い物は…そうだ、龍子姉さんのポテチだ。

 あの人、竜子さんと性格が逆だから、大分親しみ安いんだよな。

 小さい頃から、出雲ばかり可愛がる竜子さんと違って、俺にも優しくしてくれた。

 双子なのに、なんであそこまで違いが出るんだ?


「んー!届かない、ちょいやー!」


 ポテチをカゴに入れた後、飲み物を買おうと別のコーナに移動すると、女の子が飛び跳ねていた。

 正確に言うと、缶コーヒーを取ろうとしているのだが、手が届かない様子だ。

 遠くから見ても分る美少女だ、綺麗な金髪をフワフワしたツインテールを結んでる。

 てかコンビニにロリータ系かよ…勇気あるな。


「手伝うかい?欲しいメーカーを教えて」

「あの…首領(ドン)を、五本お願いします」


 振り返った少女は、とても整った顔をしており、まさに美少女という言葉がぴったりだった。

 もしかすると、外国の血が流れているのかもしれない。

 でもこちらを見た瞬間に、一瞬で青ざめて目に涙を溜めながら、小刻みに震え初めてしまった。

 やっぱり怖がられるよな…こんな厳つい顔をしているから。

 それにいきなり話し掛けられたりしたら、警戒するのも普通だな。

 とりあえず缶コーヒーを渡して、店を後にした方が良いか。

 レジの方で、店員がこちら怪しんでる。


「あまりここのコンビニ、使わない方が良いよ。店員の態度悪いから…あとお弁当を買ったりするのも要注意だから」


 突然こんなことを言われて、戸惑うのは分かるが、大体が事実だ。

 俺の友人がここの弁当を食べて、腹を下したと言う話を聞かされた。

 前にも、客の前で卵を温めて、爆発させたと言う噂も聞いたこともある。

 多分この子は、この店を利用するのは初めてかもしれないから、注意しておく。

 この辺りの人は、大体が知り合いばかりで、顔を知らない人は大抵が別のところから来た人だからだ。


「あ、ありがとうございました」


 顔を下に向けたまま、その子は静かにお礼を言ってくれた。

 俺はそれを見て、なんだか少しだけ、癒された気分になっていた。

 その後は家に帰り、冷蔵庫に買ったものを詰めていると、竜子さんが絡んでくる。

 大体の要件は、タバコを買って来たかというだけの内容だが。

 正直に俺は買ってきていないと答えると、背後からヤクザキックを食らわされる。


「買って来いって言っただろうが!ナインスターとヨロスピとカクボロだって言ったよな!?」


 最初に要求してきた品より、明らかに2つ増えてるんだけど。

 なんでヨーロピアンスピリットとカクボロ追加してんだよ、自分で買えっての。

 あとあのコンビニ、タバコの品揃えが悪いって自分でも言ってただろ。


「お兄、お菓子買ってきてくれた?」

「適当に買って置いたぞ。あとケーキも買ってきたら、好きなのを選んで貰えよ、俺は屋上に居るから」


 大体の用事も済んだ事だ、今日に限っては天気もかなり良い。

 だからこそやっておかないといけない事が、1つある。

 俺は高校生だが、小遣い稼ぎとして、金魚のブリードをやっている。

 家の裏にある庭では、金魚の王様と呼ばれて居る蘭鋳(らんちゅう)を繁殖。

 屋上では、金魚の女王と呼ばれる、土佐錦(トサキン)を飼育している。

 金魚好きになったのは、親の影響だろう。


「待ってお兄、今日来る友達がお兄にも会いたいって言ってたんだよね。なんでも、お兄の飼ってる土佐錦が見てみたいって」


 ほう、俺が長年育ててきた土佐錦に、興味があるのか。

 いいだろう…見せてやろうではないか。

 俺の自信作の金魚達を!特に今日は太陽が出ているから、元気が良い!

 そのためには、水替えが必要だ!

 見てもらうには、ベストコンディションが大切だからな!


「あ、もう来たみたいだから。一緒にお迎えしよ?先にお兄の顔に馴れて貰わないと、相手も怖がっちゃうから」

「へいへい。どうせ俺の顔は、最終兵器級ですよ」


 実の妹にまで言われると、結構ダメージがデカい。

 自覚はしているんだよ、怖がられる顔だっていうのは。

 手だって傷だらけで酷いし、身長もデカいから余計に怖さが増すらしいから。


「イズモ、友達が来てるけど、凄い子を友達にしてんだね。アタシは部屋に居るから、獅子雄(そいつ)が何かしたら呼びな」

「大丈夫大丈夫、お兄はそんな事をしない人だから」


 去り際に蹴りを入れるなっての、地味に痛ぇ。

 蹴られた部分を摩りながら、出雲と一緒に出迎えると、見た事のある白いドレスが目に映り込んだ。

 それに見覚えのあるツインテールに、首領コーヒー。

 多分、さっきのコンビニで会った子だ、間違い無い。

 相手の方もなんか気づいてるっぽいけど、顔をこちらに向けようとしてこない。


「いらっしゃい!紹介するね、これが私のお兄、怖い顔をしてるけど、根はすっごく優しいから。さっきも私たちのために、ケーキまで買ってきてくれたんだよ」


 まさか、コンビニであった子が出雲の友人だったなんて。

 お兄ちゃんびっくりしすぎて、目玉が出目金みたいになりそうだ。


「こ…こんにちは。先程は、ありがとうございました。」

「いやいや、普通のことをしたまでだよ。それより、出雲の友達がこんなに可愛い子だなんて、驚いたよ」


 ロリータ系で、初めての友人の家へ来るのも、かなり驚きだけどな。

 でも出雲とは正反対なイメージが、少しだけ強い。

 どちらかというと、出雲はパンク系を好んでいるから、並ぶと違和感が。


「あれ?二人ってもう顔見知りなの?うそぉ⁉︎どこで知り合ったの⁉︎お兄ってば絶対にモテないって、竜子姉が言ってたのに!」


 結構失礼なことをズバズバ言ってくれるな、この熱帯魚娘。

 あとあの人も、妹に影でとんでもないことを言ってくれやがって。

 仕返ししたいけど、復讐が怖いからやめておこう。

 目の前でも、妹の友人がアワアワしてるけど、大丈夫なのか?

 見ていてこっちが心配になってくるくらいに、凄くビビってる。

 やっぱり俺の顔が怖いのか、それしか考えられないよな。


「二人が知り合いなら、私の部屋に先に行ってて。私お菓子とか持って行くから」

「それなら俺が持ってくから、お前は友達と一緒に部屋にいたらどうだ?」


 しばらく押し問答を繰り返したのちに、竜子さんが運んで来てくれる事になった。

 これに関しては、竜子さん本人の希望だからだ。

 多分、出雲の友達を気に入ったからなのかもしれない。

 結局任せた所、俺の分のケーキが無かった。

 頬に生クリームをつけたまま持ってくるな!私が食べました感満載なんだよ!


「綺麗なお姉さんだね。出雲ちゃんとそっくり」

「そうかな?私って、どちらかと言うとお兄に似てると思うんだけど」


 断言しよう、それだけはあり得ないと。

 俺なんかに似てしまったら、悲惨な結果を招くことになるぞ。


「忘れるところだった!二人共、自己紹介してないよね!?これ、こんな顔してるけど、名前が獅子雄って言うんだよ!まさに厳つい獅子みたいな顔してるでしょ!?」

「お、お兄さんに失礼だよ。申し遅れました…私、西野亜紗妃(ニシノアサヒ)と言います…出雲ちゃんとは、学校でお友達をさせてもらってます」

「少しだけ聞いてるよ、最近転校してきたんだって?大変だと思うけど、何かあればいつでも出雲を頼って良いからね。あと何か困った事があれば、俺も出来る限りの事はするよ」


 それからしばらく話していくうちに、少しずつ打ち解けてくれたようだ。

 緊張していた顔は徐々に緩み始め、笑顔が見え出した頃には、楽しく会話が弾み始めていた。

 ケーキを食べながら、出雲が部屋で飼っているベタの話しになり始め、俺の飼っている金魚を見に行く事になった。

 屋上は金魚専用の飼育場に改造してあり、親父もたまにここで金魚を育てたりしている。

 基本的には、俺が土佐錦と蘭鋳を飼育するのに使ってる訳だが。


「それでね、ベタにはクラウンテールとか、ダブルテールって種類がいっぱいいてね!最近だと鯉ベタってのも出回ってるの!これがもう可愛くて!」

「出雲ちゃんは、ベタが大好きなんだね。私も小さい頃に飼ってたけど、直ぐに死んじゃって」


 悲しげな顔をする亜紗妃ちゃんに、慌てながらフォローをする出雲。

 なんだか、こう言う妹の姿を見るのは、久々かもしれないな。

亜紗妃ちゃんの元気を取り戻す為に、俺達は屋上へ行くことにした。


「足元に気を付けてくれよ、ホースに躓かないように」


 俺が育てた金魚達は、太陽が出てるおかげで元気が良い。

 優雅に泳ぎ回ぎ回って、こちらに気づくと餌を要求してくる。

 特に土佐錦の面白い所は、睡蓮鉢と呼ばれる下へ掛けて細くなっている鉢で飼育する事。

 この金魚は、尾ひれが反り返る特徴を持っていて、それを作る為には睡蓮鉢での飼育が必須条件。

 円を描く様に泳ぎ続けて、ひらひらの綺麗な尾ひれが出来上がって行くのだ。

 ただ餌がイトミミズを要求してくるのが辛い所だが、今では人工飼料も増えたから、大分飼いやすくなった。


「これ全部、お兄が育てた金魚!ざっと五十匹?くらいいるかも」

「そんなに居るわけないだろ。せいぜい多い時でも15が限界だ、今じゃ7匹程度しかいないけどな」


 一応は趣味として養殖をして、販売もしている。

 金魚の中でも蘭鋳と土佐錦は人気がある上に、良い個体だと高値で取引される。

 俺の金魚の場合は、一匹数万で売れた事すらあった。

 大体の稚魚は、親父が売りに出したりしているから、余り残る事はない。

 まるで子どもの巣立ちのようだ。


「変ってない…昔と、一緒…お兄さんの、金魚好きも」


 唐突に放たれた言葉に、戸惑う俺と出雲。


「私…小さい頃に、ここへ来たことがあったんです。その時に、大きい魚が水槽から飛び出して…驚いて泣いちゃったんです」


 大きい魚が飛び出す…とすると、アロワナかポリプテルス辺りだな。

 かなりの頻度で水槽から飛び出すから、困りものな連中だった。

 小さい子にとっては、トラウマにもなるかもしれない。


「泣き止まない私を連れて、お兄さんはここへ連れて来てくれたんです。凄く綺麗でした…お兄さんが見せてくれた金魚…魚って、こんなに綺麗になれるんだって、思いました」


 小さい頃に家に来てると言われたが、家には結構客が来るからな。

 でもそんな事があったような、無かったような。

 まぁもしかしたら、あったのかもしれない。

 まだ所詮は、鼻垂れ小僧だったから。

 だとしても…こんな綺麗な子なら、忘れないと思うんだけどな。


「もしかしてだけど、亜紗妃ちゃんって…土佐錦を見てから、女装に目覚めたとか?」


 この出雲から出た言葉が、後々…大変な事態へと繋がっていくのだった。

出雲による発言で、亜紗妃が女で無いことを知ってしまった獅子雄。

彼はこれから一体、どうなってしまうのか。


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