表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの日拾った手紙の話

作者: 玄斗楽

夜道のお誕生日プレゼント企画。改めてユートピアを自己流に解釈したらこうなった。

お誕生日おめでとう。ぎりぎりセーフ…だよね?

『拝啓、このボイスメッセージを拾った誰かさんへ

 僕は今、AK-NNという星にいます。とても小さな星で、三十分で一周出来ます。生物は住んでいません。僕と、廃棄されたらしい遺物が沢山あります。

 この星の土は不思議な色をしています。全体的に青い色をしているのですが、太陽にかざしたときだけ、白くなったり赤くなったりするのです。僕はこんな土は初めて見ました。もしかしたら、この辺りの星はみんなこんな土なのかもしれませんが。少なくとも、僕の故郷の星やその周りの星には、こんなに綺麗な土はありませんでした。宇宙は広いものです。出来るなら、もっと色々なところを見て回りたかったです。もう僕にはできなくなってしまいましたが。

 そうそう。貴方はこのメッセージをダザレ銀河ランド惑星系内部で拾ったと思うのですが、もしよろしければ一つ、お願いがあります。

 ランド惑星系の軌道上に、僕の乗ってきた宇宙船があります。船体に沢山の絵が描いてあります。太古の島国の言語でムーンを表す「三日月」という形の絵です。ムーンはもっとまん丸いモノだと聞いていたのですが、この絵は棒が沢山在るだけでムーンには似ていません。昔の人達は、どうしてこの絵でムーンを表したんでしょうね。この僕の宇宙船は、今は燃料切れを起こして軌道上を漂っているだけですが、燃料を補給すればまだまだ航行は可能です。貴方に差し上げます。是非もらってください。ご入り用でなければ、遺物館に寄贈するか、爆破していただけるとありがたいです。僕にはもう必要のないものですから。

 このくらいでいいでしょうか。…あれ、まだかなり時間が余っていますね。うーん…どうしましょう…。

 そうだ。貴方、昔話とかはお好きですか?といっても、僕のここまでの旅の話くらいしか出来ませんが。もしよろしければ、このまま聞いていてください。忙しいようでしたらこのメッセージは宙に捨ててください。また他の誰かが拾ってくださるまでこのメッセージが僕の代わりに旅をしてくれるでしょうから。

 では、ごほん。話を始めましょうか。




 僕の名前はナガレといいます。出身は、サザレ銀河ニジサキ惑星系のマガツという星です。僕が今いるAK-NNはナザレ銀河カンナ惑星系なので、銀河系二つ分は離れていることになります。かなり遠くまで来ていたんですね…。まあ、もとより戻るつもりはなかったのですが、こんなに離れてしまうと少し思うところがあります。

 僕が故郷を出たのは、今から2000年と49年と30日と3日前のことです。あの日は、ムーンがいつもよりマガツの近くに来ていたのです。当時15歳だった僕は、前日に両親と大喧嘩をしたところでした。そのせいでいつもよりイライラしていて、気分転換にムーンに散歩へ出かけたんです。貴方ももしかしたら知っているかもしれませんね。そのころがちょうど「ムーンの大移動」と呼ばれる現象の始まりの時期だったんです。全銀河の惑星系に存在するムーンが、近くのワープホールを通して共鳴し合い、一斉に入れ替わる現象のことです。今ではかなり知られていて、周期の解明までされたそうじゃないですか。いやぁ、進歩しているんですねぇ…。そう。そのムーンの大移動のときに、僕はマガツのムーンにいたのです。そしてムーンと一緒にランド惑星系に飛ばされたんです。マガツのムーンはちょうど隣の銀河、タザレ銀河ランド惑星系最大の星ミカエリスのムーンと入れかわりました。当時、まだムーンが移動することは一部の研究者の仮説でしか無かったし、ただの市民だった僕が知っている筈はありませんでした。一度移動したムーンは、その後1000年の間、元の場所には戻らないという事を知ったのは、ここ数年になってからです。

 とにかく、ムーンごと飛ばされてしまった僕は、今自分がどこにいるのかもわからないまま、ミカエリスに降りていきました。一つ隣の銀河だと知ったときには驚きました。だってそうでしょう?いつもどおり散歩に出かけたのに、降りてみたら違う星だった、なんて。夢を見ているのかと思いました。何回も頬をたたいたのですが、何度やっても目は覚めず、仕舞いには手の方が痛くなってくる始末で…困りました。そうしたら、見かねた現地の方が宇宙船をくれたんです。これで故郷の星を目指せばいい、と。それが「三日月」の絵が描いてある宇宙船だったのです。その当時でもかなり古い型だったので、いまじゃもう遺物と呼んでもいいくらいかもしれません。僕はその宇宙船を見たとき、ふと思いついてしまったんです。何もこのまま帰ることはないんじゃないか、ってね。せっかく他の銀河へ来たんだし、少しくらい他の惑星を巡ってみるのもいいんじゃないかって。そして僕は、進路をマガツと逆方向に向けたんです。このときおとなしく帰っていれば、多分今こうして一人でボイスメッセージを喋ってはいなかったと思います。


 最初に立ち寄った星では、一組の夫婦に出会いました。彼らは毎晩、喧嘩をするのです。お互いに些細なことで対立して、結局口を聞かないまま寝てしまうのです。そして翌朝起きて、お互いに「自分が悪かった、許してくれ」って。それを毎日繰り返していたんです。毎日ですよ?毎日。よく飽きないもんだなぁ、って感心しちゃいました。夫婦喧嘩は犬も食わない、でしたっけ?本当にしょうも無い喧嘩でした。その夫婦のところには7日間だけいさせてもらって、僕は次の星を目指しました。出発のとき、彼らは台所の鍋を一つくれました。

 次に立ち寄った星には、とても仲のよい四人の家族が住んでいました。二人の子供はとってもそっくりな顔をしていて…。そう、確か…双子と言うんでしたか。こんな奇跡があるのかと思いましたよ。当時は、子供は一家に一人、が基本でしたしね。ご両親もよく、二人とも育てようという気になったのは気が狂っていたとしか思えない、って笑っていましたから。その家はその二人もの子供のせいで、たいそう貧乏だったんです。毎日遠くの星まで働きに出かけなければいけなくて、とても大変そうでした。その一家は鍋を持っていなかったので、前の星でもらった夫婦の鍋をあげました。そうしたらたいそう喜んでもらえて。お礼に古くなったブランケットをもらったんです。古すぎて、あと三回くらい使ったら跡形もなくチリになっちゃいそうなほど薄くって。何度もつぎはぎをして、なんとかブランケットの体裁を整えている、といった具合でした。この家族のところには4日間だけいて、ブランケットを持って次の星を目指しました。

 ふぅ…。喋るのは久しぶりだから、少し疲れていまいました…。でもこれは最後のボイスメッセージボックスだから、大事に使わないと。あと…うん。まだもう少しなら喋れそうです。

 その後、僕はいろいろな星を巡りました。ブランケットをつのぶえと交換して、つのぶえを大きな石と交換して、大きな石はとても堅いパン、というものと交換しましたっけ。そんな風に行く先行く先で、前の星でもらったものを現地の人と交換しているうちに、あっという間に1000年くらいたってしまいました。とても、楽しかったんです。

 1000年がたったとき、両親からのボイスメッセージを拾いました。「今、ミカエリスのムーンに行けば、ムーン大移動と一緒にマガツへと帰る事が出来る。10日以内にミカエリスのムーンに向かえ」と。なんとも勝手なことです。彼らは僕の居場所をずっと知っていたのです。メッセージを受け取ったときには少しだけ懐かしい気持ちになりましたが、メッセージを聞いてそんな感情は消えてしまいました。だって、だってですよ?そりゃあミカエリスのムーンに移動してから、すぐにマガツを目指さなかったのは僕が悪いんですよ。そんなことはわかってます。でも、だったら1000年も放っておかないで、せめて10年に一回くらいは、いや、100年に一回でも、メッセージを送ってくれればよかったんです。やっと届いたメッセージにしたって、僕のことを心配している様子なんてないんですから。もう頭にきちゃって!このときぼくは思ったんです。もう絶対帰らないって。子供の癇癪に近いものがありますが、今、あのときとおんなじメッセージを受け取っていても、帰らない決断をしたと思います。だって、あの人達は、僕のことをずっと観察していたんです。檻の中に作られた迷路で道に迷うモルモットを、笑って眺めていたんです。そんな人達のところに、どうして喜んで帰ろうと思うでしょうか!

 …ごほん、ごめんなさい。少し取り乱しました…。

 そんなことがあってから、僕はタザレ銀河を出ることにしました。マガツがあるサザレ銀河とは逆隣にある、ナザレ銀河に向かいました。銀河を出るときに、銀河警察と少しトラブルがあったので、僕はどんどん人の少ない方へ、人の少ない方へ、と星を巡っていきました。1000年も立っていれば、もう時効でしょうか。…別に悪いことをしたわけじゃないんですけどね。そうしてたどり着いたのが、AK-NN、つまり今僕がいる星でした。この星には、最初にも言ったとおり、とてもきれいな土があって、人は住んでいないけど、とてもよいところです。宇宙船の燃料も切れてしまったし、僕の生命機構ももうすぐ停止してしまいそうなので、いつか貴方が遊びに来たときにこの星を案内できないのが、少し、心残りかな。ああ、いや、貴方がここまで聞いてくれてるかはわからないんですけどね。僕の宇宙船は、燃料が切れたら自動的にランド惑星系の軌道上に戻ってくるように設計されていたので、さっきバイバイしました。僕はずっと「ムーン」にのって旅をしていたんですねぇ…。

 ああ、いけない。もう少しでボイスメッセージボックスがいっぱいになってしまいますね…。

 もし貴方がここまで聞いていてくれたなら、ありがとうございます。

 きっと貴方と僕が出会うことは、きっと、きっと無いのでしょうけれど、いつか会えるといいですね。

 それでは、貴方の旅路に幸多からんことを。さようなら』







 その日、僕は旅に出て以来、初めて自分以外の生命機構に出会った。

ナザレ銀河の端の端、AK-NNという星で、機構の停止したアンドロイドを見つけたのだ。青い土に半ば埋もれるようにして眠っていた彼を、そっと掘り起こす。かなり旧式だ。一つ前の文明か、いや、そのもう一つ前の文明の…。そういえば、遺物保管星に、このAK-NNという星に着いての資料があったと記憶している。たしか、彼の名は、ナガレ。研究者の元から離脱した、一番最初のアンドロイド。現在存在する生命機構アンドロイドの完全系オリジナルタイプ。つまり、僕らの兄さん。

 彼には、現在のどの生命機構にも搭載されていない高度な知能と感情がプログラムされ、自分の意志が存在するのだという。

外見は、できるだけ人間という太古の生物に似せたのかとても精巧で、無骨な自分の外見と見比べて、少し羨ましい。金糸の髪の毛と、ハイメタルで作られたボディ、そのくせ指先や睫毛は柔らかく、まるで本物の生物のよう。

 背中のハッチをこじ開け、燃料がフルになっていることを確認してから、僕は彼を起動おこした。

 ゆっくりとその瞳を見せる彼に、僕は微笑んで手を差し出す。

「旅の続きを、しませんか」

彼は何度も瞬きを繰り返した後、戸惑いながらも僕の手をとった。

「えっと…喜んで?」

彼の手を引いて、立ち上がる。まずは何をしようか。どこへ行こうか。その前に、僕に名前をつけてもらいたい。彼の故郷に行ってみるのもいいだろう。彼が出会った人達は、さすがにもう生きてはいないだろうから、その子孫達を探してみるのもいいかもしれない。ひとまず、彼が20000年と少し前にたどった航路を、今度は逆方向にたどってみよう。


 そして、沢山旅をして、最後。かつてマガツと呼ばれていた惑星についたら、彼に伝えるんだ。

『あなたのおかげで、ここは今、こんなにも平和です』って。

『秀麗で脆弱な種は、もうこの星にはいません。おかえりなさい、ナガレ兄さん』って。

ああ、兄さんとの旅はどんなものになるんだろう。

とても、とっても楽しみだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な銀河の旅をありがとう。当日ならもちろんセーフだよ。二人はきっとジョバンニとカムパネラのように離ればなれにはなりませんよね。この物語、大切に胸にしまっておきます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ