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3.ご一行様 就寝のお時間ですが……

6/16修正いたしました。

 驚愕と愕然の鑑定会が終わり沈黙の食事会の後、日も暮れてきたとのことで一時解散。

 和人達は王城敷地内にある別棟に案内された。


 外国からの要人が宿泊する際に、一緒に来た警護の人間を纏めて収容できるという木造の別棟はかなりの部屋数があり、三十人全員が個室を与えられた。

 二人以上が一部屋になると何をするか分からないという理由と、ベッドが一つしかないということも理由なんだろう。


 二階建ての二階。

 窓から入ってくる風は、少し草の香りがして考えを巡らせて火照った頭に気持ちが良かった。

 しかし景色は石造りの城壁が邪魔をして、あまりいいものではなかった。


 因みに、トイレは1階に共同のトイレが二ヶ所。それを男女で使い分けることにした。

 驚くべきことは、人々の服装や建築物から文明は中世くらいかと勝手に想像していたが、トイレが水洗だったことだ。


 風呂は1階に十人くらいが入れる共同浴場があるそうなので、時間を決めて男女で使い分けることにした。


 ベッドは少し硬めだが、煎餅布団に慣れた身の和人に不具合はなかった。

 とりあえず、する事が無いので和人はそのベッドに横になり、怒涛の一日を整理していた。


【勇者】の【称号】は、安座間の他に四人がとったようだ。

 全員揃って【到達レベル】は予想どおり【0】の嵐だったが、【勇者】であることには変わりはないと開き直った。

 委員長は【賢者】。

 残りの男子は【剣士】と【魔法使い】で半々。


 女子の人気は【魔法使い】のようで、少数派に【剣士】や【聖女】。

 【アサシン】などという物騒なのもいたが……和人には、それが誰なのか想像がついた。

 恐らくだが、【到達レベル】もかなりあるだろう。


 などと考えを巡らせていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。


「誰?」

「オレ」

「わかんねえよ」

「正樹」

「最初から言えよ」


 言いながらドアを開けると、そこには和人よりも少し背が高い短髪の熱血イケメンスポーツマンの友人、遠藤正樹がいた。

 バスケット部ではエース…とまではいかないまでも、二年生でレギュラーに選ばれる実力の持ち主。あとは成績さえ良ければ優良物件だ。


 で、その隣なのだが、

「なんで委員長がいるの?」

「そこで会ったの」

 と、倉茂由香が1メートル程先の床を指さす。

 一緒に来たのではなく、彼女なりに最初から用があったということらしい。

 まあ、要件はアレだろう。


「入っていい?」

「どうぞ」

 断る理由が無いので入ってもらうことにした。


 しかし椅子が1つしかないので、それは由香に使ってもらう。

 男子二人はベッドに腰掛ける。

「男同士でベッドって、なんかイヤなもんだね」

 和人が呟くと、正樹の同意した。

「そうだな。なんか落ち着かねえや」

「そういうのいいから、桐生君に質問!」

「単刀直入。さすが委員長!」


「茶化さない。で、アレは何なの? あのバカげた【称号】は」

「バカじゃないよ。考えた結果だよ」

「だって、【人】よ?」

「正気だよ。ねえ委員長、正樹も。あの時、どうやって【称号】決めたの?」

「変な声に、召喚されることと行き先の状況聞いて……」

「だってファンタジー世界だろ? だったら、選ぶのは【勇者】とか、【魔法使い】とかじゃねえのかよ」

「でさあ、質問した?」

「なにを?」

「【勇者】を選んだら、【勇者】になれるのかって」

 二人の顔が、「なに言ってんの、こいつ」と呆れ顔になった。


「だって、【称号】もらえるんだぞ」

「ちょっと待って、桐生君は質問したの? 答えは?」

 和人は、ホラー映画のようにズズ~っとにじり寄ってくる由香のおでこを手で押さえて進撃を止めた。

 このままでは、ベッドに押し倒されてしまう!

 いや、貞操の危機はないのだが。


「いや、近いよ委員長……あのね、【称号】ってのは、何かを成した者を称える為に与えられるものなんだとさ」


 本来の【称号】には、【到達レベル】なんて物は無いだろう。

 しかし皆は何もしてないのに、訊ねられたままにあの部屋で欲しいと思った【称号】を選びとった。

 実力もなく、ただ気持ちだけで、【自分がなりたい称号】を選んだ。

 結果として、【称号】の資格の無い者=【到達レベル:0】の嵐となってしまったのだろう。


「勇者召喚で求められたのは、あくまでも勇者の【称号】であって、実力は関係ないってことかしら?」

「まあ、こっちの人にしてみれば、勇者の【称号】を持ってれば、その実力があるってのが当たり前だそうだから。

 まさか、勇者召喚が勇者の【称号】を持っているだけの人を呼び出すこと、なんて思わないでしょ」


「なるほど。確かに剣を持ったこともないオレが【剣士】をとっても、そりゃ【到達レベル:0】だわな」


 正樹が、ため息をついて天井を見上げた。

「なんかさ、違う自分になれるみたいで、ワクワクしてたんだけどな」

「違う自分になんかなれないよ。こっちの人も、なりたい自分になりたくて頑張ってんだからさ」


 そして和人は、【称号】関連の能力値が比較的上げやすいことや、【称号】はその発動によって魔力や技能のレベルを底上げする力はあっても、縛られる物ではないことを伝えた。

【称号】は渾名のようなもので、【剣士】を選んだからって、どうしてもそれを目指さなければいけない訳ではないということも。


「でも、能力値の補正や上昇があるなら、目指すのも悪くないって感じね」

「生半可なことじゃないだろうけどね」


 和人はそのまま仰向けにベッドに倒れこんで、正樹と同じ天井を眺める。

「あと、そもそも勇者召喚ってのが、博打みたいな物だって言ってた」

「博打?」

「うん。勇者の【称号】ってさ、本来は魔王かそれに相当する者を倒した後に、その達成者につく【称号】なんだってさ」

「「はあ?」」


「まあ、他の世界で魔王を倒して【勇者】の【称号】を持ってる人もいるでしょうけど……」

「経験者募集の広告みたいだろ、勇者召喚」

「そんなにアチコチいるか? 魔王討伐の経験者」


「いなさそうよね。あんまり」

「そんなだから、勇者召喚ってのはゴッソリ持って来るんだと」

「なにその、産出国から砂をゴッソリ持って来て、あとから砂金探すみたいなの」

「無駄多すぎんだろ、ソレ。無かったらどうすんの?」


 本当に、何を考えて召喚したのか……というか、知らなかったのが正解らしい。

 そして、辻褄合わせでフェリーシャが僕たちに【称号】だけを与えた。

 勇者召喚という【儀式】が成功したというアリバイのために。

 いい迷惑だ、としか言いようがない。


「でも、」と由香は言った。そして、

「責任は責任として、とってもらわないといけないわよね」

 伸びをして立ち上がった。


 きっと誰かが、この国に対して責任を問わなければいけない。

 和人達が無力なことが判った以上、某かの保護は必要だ。

 その為には、交渉役がいる。

 とは言え。


「なあ、委員長……」

「なに? 桐生君」

「ここでまで委員長やる必要はないよ。なんの責任もないし、平等に無力なんだから」

「ん、それでもさ……困ったことに、ここで頑張るのが【私がなりたい私】なんだな、これが」


 由香は和人の顔を見ると、寂しそうに笑った。

 いや、寂しそうじゃない。不安なんだ。

 同じ高校生の女子に、そこまで背負わせていいのかと和人は頭を掻いた。

 ああ、情けないったらありゃしない。


 何かを成した者を称える為に与えられるものが【称号】なら、他の世界で片手間に学んだもの程度で正しく【称号】があたえられる訳がない。

 それでも『キミたちの世界の人間は、こちらに比べて知識や基礎水準が高いから、うまく行けば結構化けるかもね』とフェリーシャは言っていた。


 この世界には無い、現代日本の知識が豊富な由香のことだから、【賢者】として化けるかもしれない。


 しかし、それはずっと先だろう。

 今はまだ、異世界に放り込まれたただの女子高生だ。

 それが国を相手にだなんて、どんだけデカい荷物をしょい込むつもりだろうか。


 でも、和人には和人の都合があった。

 それは、上手く行けば由香の助けになるかもしれない内容だが、今は言えない。

 だから、


「潰れそうになったら、愚痴くらい聞くけどさ」

 くらいは言っておく。

「頼りにしてるわ」


 由香は、そう言って手を振ると、ドアに向かった。

 正樹もそれに続く。

「あっ、【称号】が【人】って理由聞いてねえや……まあ遅い時間だし、また今度な」

 正樹がそんなことを言い残して、二人は部屋を出て行った。

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