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1.ご一行様、召喚されました

6/16修正いたしました。

 和人が一度閉じた目を開けると、そこは窓も無く薄暗い石造りの部屋だった。


 長い間使っていなかった、独特の微かな湿気とカビ臭さ。

 しかし、紺色のブレザーの制服を着た三十人+αが入っても大丈夫!なくらいにスペースに余裕がある。


 壁にまばらにつけられた篝火による灯りは、心もとないけれど室内にいる人間の顔を映し出すには十分だった。


 一列に並んだ生徒たちの前には、槍を持った兵士が数人と、その後ろには豪華な衣装に身を包んだ如何にも王族といった三人が立っている。

 その三人を、和人はフェリーシャから聞いていた。


 真ん中のくすんだ金髪をオールバックにして王冠を被っているのが、レミアンヴェル王国の王様、ヴィン・ブリステル・レミアンヴェル王。

 三十半ばくらいで長身。白地に金の細工をあしらった衣装に包まれた体は、かなりガッシリとしている印象だ。


 その向かって左に立つ青い服の金髪イケメンが、和人たちと同じ歳周りで十六歳のアーシャル第一王子。

 因みにカボチャパンツに白タイツではない。白いスラックスを履いている。

 王様と同じスカイブルーの瞳が、クールな印象だ。


 王様の右側にいる長く明るい金髪の少女が、身長も胸部も慎ましい三歳下のフリエンテス第一王女。

 薄いピンクのドレスも相まって、儚い美少女といった感じだった。

眉間に寄せられた皺で美人が台無しだが、その表情からひょっとしてこの召喚に良い思いを抱いていないのかもしれないと和人は思った。


 十二歳のテリアンドス第二王子は病弱でこの場にはおらず、かつて戦乙女とも呼ばれた勇猛なセレティネス王妃様は、半年前に魔人族に殺された。

 その死こそが、勇者召喚の切っ掛けになったという話だった。


 そして、この儀式を執り行ったのが、今にも倒れそうにふらついている魔法省のエリート魔法師。

 彼を支えている近衛隊隊長が「召喚が成功した……」と、生徒たちにも聞こえる声で呟いた。


「召喚…って?」

 近衛隊隊長の声に反応した生徒の誰かが声を漏らした。

「召喚って、アレか?」

「あの声もそう言ってたけど、ホントだったの?」

「ここって異世界ってこと?」

「マジか?」

「やだ、帰してよ!」

「ふざけんなよ! 何のために受験勉強してきたんだよ!」


 ひと際大きな声の方を向くと、銀縁眼鏡をかけた痩せたクラスメイトが叫んでいた。


 仕方がない反応だと和人は思う。

 梅原は小、中から高校に入った後のついさっきまで、有名国立大に入ることだけを考えていたのだから。

 この世界にそんな物が無い以上、彼のこれまでの人生が「残念無駄でした」と言われたようなものだ。


「騒ぐな!」

 クラスメイト男子のその声に梅原が息を飲み、結果声は収まった。

 さすがは柔道部期待の星=安座間啓である。体もだが声がデカイ。

 しかし、そのおかげで緊張感はそのままだが、場が少し落ち着いた。


 安座間は高圧的で、常に自分は正しいと思い込んでいる男だ。

 そんな安座間に関わるのが面倒だから、誰もが適当に相づちをうっていたのだが、それを完全な同意と思い込み益々付け上がってしまったという、どうしようもないというか、なんというかな男だ。


 そんなこいつが取った【称号】はアレなんだろうなと、和人には簡単に想像がつく。

 だからだろう。元々尊大な態度の安座間が、「俺が勇者様だ!」と言わんばかりに腕を組んで偉そうだった。


「安座間君も黙って」

 ズンっと長い黒髪とボリュームあるバストを揺らして、一人の少女が前に出る。

 委員長こと、倉茂由香だ。


 学年でもトップクラスの成績優秀者だが、人当たりがよく面倒見が良いので女子からの信頼がある。

 同性に好かれる人は信用できる人が多いというが、委員長へのクラスでの信頼度はかなりのものだ。


 その委員長が前に出たことで、クラスメイトの視線は彼女に集まった。

「お騒がせして申し訳ありません。しかし我々が混乱している状況であることは、ご理解いただけますでしょうか」


「勿論だ」

 右手で前を塞ぐ兵士を分け、王様が静かに歩いてきた。

「突然異界へと呼びつけたのはこちらだ。先ずは申し訳ない」

 そして突然、王様が頭を下げた。

 生徒たちの驚きは当然としても、後ろの王子達もさぞ驚いたのだろう、慌てて王様の側に王子が駆け寄った。


「父上! 王が頭を下げるなど!」

「良い! 我は恥ずかしいのだ。自分たちではどうにもならぬと、異界の者を呼びつけたのだぞ。

 しかも、見れば戦とは無縁の姿ではないか! そのような者たちにすがろうとする我こそが情けない」

「それでも、この者たちは勇者として召喚されました。只者ではないはずです!」


 王子がその顔を上げ、和人たちを見た。

 キラキラの金髪に西洋人のイケメンである。女子の間で何とも表現出来ない声が上がる。

 因みに和人の感想は、見てないけど王妃似だよねコレ。である


「すまぬ。我らとしては、まさかこれ程の人数が来ることは想定していなかった。

 ここは空気が悪く場を改めたいが、準備に時が必要だ。

 先ずは清潔な部屋を用意するので、そこで待ってはもらえないだろうか。

 説明は数刻のうちに必ず行う」


 王様も王子も良い人達そうで良かったと、和人は胸を撫で下ろした。

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