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プロローグ

ボチボチ慣れながらの投稿となります。

なにぶん初めての投稿でございますので、お手柔らかにお願いいたします。


6/16、修正しました。


『レミアンヴェル王国によって行われた勇者召喚の義により、この後あなたは異世界へと召喚されます。

 しかしあなたには、【勇者】以外にも【称号】の選択権があります。

 あなたは、何になりたいですか?』


 真っ白い部屋に佇む桐生和人に、声は訊ねた。

透き通るような心に染み渡るような、美しい女性の声だ。

 けれど、声はすれども姿は見えず。ホントにあなたは『何か、イヤな感じがしますが……』気のせいですよ。

 1オクターブ位下がった女性の声に、和人は不遜な考えを改める。


 ホームルーム終わりのほんの短い休み時間に、それは突然起きた。

 閃光と共に大きな魔方陣の様な物が床に描かれたかと思った次の瞬間には、この白い部屋に一人で立っていたのだが……。


 まさか自分だけ?

 かと思ったが、どうやら同じクラスの男女各十五人ずつの合わせて三十人が、きっちりと個人単位で同様の質問を受けているらしい。


 このやりとり、一体何人(っていうか数え方は人でいいのか?)で分担しているのかと思ったが、全て声の主が一人で行っているそうだ。


何となく「大変ですね」と和人が言ってみたところ、

『ここは時間も空間の概念も曖昧ですから。

 同時のようであり、数時間おきに行っているようなものです。これは常識です』と答えがきた。


 常識……なのだろうか?

 色々と疑問は残るが、時間はたっぷりあるみたいだ。まあ良いことにする。


 落ち着いて考える余裕がある事を知った和人は、祖父の受け売りの不測の事態に陥ったらマニュアルを脳内で開くことにした。

 歩く戦国時代と呼ばれる程度には素行に問題のある年寄りだが、それ故にこんな時には役に立つ。


一、落ち着いて状況を把握しろ。周囲にあるものをチェックしろ。

 あたりは真っ白。何も無し。ゴミ一つ無し。白過ぎて壁や天井があるかすら分からない。


二、自己の確認。

 怪我は無し。心拍正常。軽くセットした黒髪、顔も触るが異常は無さそう。

 桐生和人、十七歳。高校二年生。

 記憶に間違いがないのは、紺色のブレザーに入ってたいた生徒手帳で確認。

 まあ、これまで偽造されてたらどうしようもないが……。

 着ている服は、教室にいたまま。白いワイシャツに臙脂色のネクタイ。グレーのズボンにブレザー。ほつれも無い。


三、他者がいたら、その観察。

 声しかない……。


四、コミュニケーションは可能か?

 一応とれてるようだ。交渉は……どうだろうか?


 ということで、質問タイムに入ることにする。


 どうやら和人たちは、とある世界にある【レミアンヴェル王国】という国に召喚されている途中らしい。

 召喚先は、所謂剣と魔法の世界。小説によくある「【勇者】を召喚して魔王を伐つ!」というアレである。


 とはいえ、クラス三十人全員が【勇者】ではインフレを起こさないのかと不安になったが、


『いえ、【勇者】とは偉業を成し人々を救った者を指し示す【称号】です。

 名乗る物でも、身につける物でもありません。

 希少性が高く、そのような者を召喚出来る確率は、砂漠で金魚の糞をみつけるような物です。

 従って、当然ですが今回の召喚に【勇者】は含まれておりません』


 と、声の主であり行き先の世界の管理責任者の一人であるというフェリーシャが、それはもうあっさりと答えてくれた。


 勇者召喚なのに【勇者】含まれておらず? それって、失敗じゃないのか?

 それとも、例えばここでギフトとかもらって、これから【勇者】になる?


『いいえ。

 今回使用された陣は、あくまでも異世界からの召喚を可能とするだけのものですから、召喚そのものは成功です。

 ただし、使用者が希望していた【勇者】の召喚に関して言えば、それはなされていません。

 人族管理人の私としては、それは申し訳ない。とは言え、【勇者】たる能力をよくもわからない者に与え、管理する領域を荒らされることは望みません。

 そこで、【称号】だけをあたえることとしました』


「平たく言うと?」

『その場凌ぎの辻褄合わせです』


 ああ、何か凄い脱力感が……。

 要するに完全名ばかり【勇者】を送り込むってことか?


「因みに、なんの【称号】もいらないと言ったら戻れるのですか?」

 念のための問いに対する答えは、和人の想像どおりだった。


『残念ながら、召喚のレールに乗ってしまった以上、戻すことは出来ません。これは常識です。

 また、【称号】は送り先が求めた条件ですので、何も無しはありえません』


『ふふふ。しかし、他の者はさして気にしていなかったようですよ。

 勇者に、魔法使い、賢者、剣士。手早く決めて、すでに召喚先に現れるための準備に入っています』


「それは、よく知らなかっただけでは……。でも皆それになれないんですよね?

【称号】って、一体何なんですか?」


『【称号】とは、言ってしまえば【ニックネーム】のような物です。

 ですから、ありていに言えば誰にでもそう呼ばれる権利はあります。

 例えばお金を持っている人物を、人は何の疑問も抱かず常識として【お金持ち】と呼びます。

 これが正しい【称号】のあり方です。これが常識です。

 しかし今回の場合、お金を持っていないにも関わらず【お金持ち】の【称号】を求め、人からそう呼ばれるようになったというだけで、その人物が本当にお金を持っているかと言えば、持ってませんよね。常識です」


 語尾の「常識です」がいちいち気になる。

 馬鹿にしている感じはないが、声の本人がいちばん非常識な存在のような気がして、何だかんだ釈然としない……。


『何か、不遜なことを考えましたか?』

「いえべつに」

『じーっ』

「言葉で凝視するのは、やめてくださいっ! ああっ、もう何でわかるんですか?」


『それは、私が人族管理人だからです。そして、現時点での最大の管理観察対象が貴方だからです。常識です』

 ああなんか、ものスゴいストーカーにでも遭ってる感じだと盛大に溜息つく。


「でも、【勇者】の【称号】があっても【勇者】になれるかは本人次第なんて、勇者召喚をした方にとっては半分詐欺じゃないですかね」

『頑張れば本当に【勇者】になれるかもしれないのですから、詐欺ではありませんよ。

 それに今回は解りやすいような工夫もしています。常識と言える措置です』


「因みに、なれなかったらどうなるんですか?」

『勇者の【称号】を持った、ただの人です。常識です』

「魔法使いの【称号】があっても?」

『すぐに魔法が使えるわけではありません。常識です』

「剣士の【称号】があっても?」

『もちろん、剣を死ぬほど振るわなければ、三流剣士止まりです。努力をしなければ、何者にもなれません。これも常識です』


 語られる内容を聞くにつれて、段々と召喚先に申し訳ない気持ちが沸き起こってくる……。


 その後も、和人は行く先の世界についてさらに色々訊ねた。

 魔法は普通の人でもそれなりに使えること。

 各国の情勢。魔王を含めた簡単な歴史。種族。

 いわゆる人族の他に獣人なんかもいるらしい。

 全くもってファンタジー世界だ。

 文明に毒された身では、生き残ることすら大変そうだった。


 ここでは時間経過の観念が無いとのことだったので、ついでに魔法の制御法やらを訊いたり試してみたり、長々と話し込んでいたのだが、何故かだんだん愚痴まで聞くようになってしまった。 

 会話も大分砕けてきたが、無駄な時間じゃなかったと思う。

 気持ちは固まっていった。


『では再度問います。キリュウ・カズト、キミは何になりたい?』

「僕は……」

 和人は、その答えに姿の見えない声が笑ったような気がした。


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