最果てのプロロオグ
8月下旬、夏の日照りに照らされながら、僕、壱一人は、通学用のリュックを背負い、一人通学路を歩く。
今年から教室に空調設備が整ったので、夏休みの日程が3日ほど削れてしまったのである。
夏休みの宿題をボチボチやっていた僕にとって、3日の消失は、それほど小さくはない。
今年の宿題は27日に終わった。夏休み終了の、一日前。
僕の通う高校に今日、転校生が来る。そんな噂が流れている。女子か男子か、教室の話題はそれで持ちきりだ。転校生のことなんて、考えるのがめんどくさい。ので、ここは小説を読むことにする。文庫本の方がいい。ハードカバーは重くて机に置かなきゃいけないから。
小説のページ数が残り僅かになったとき、予鈴がなった。
白髪交じりの頭を掻きながら、担任の先生が教室に入ってきた
「えーあれだ、みんな知ってると思うが、このクラスに新しい仲間が加わることとなりました」
新しい仲間、件の転入生の登場だ。
髪の毛が白い。
「皆さんはじめまして、私の名前は、、、」
転入生がチョークを持ち、黒板に名前を書き込む。
『壱一継』
「壱だなんて苗字は珍しいだなんて思っていたけれど、そこまでめずらしくないのかな」
なんて事を考えていると、めんどくさいことになった。
「壱の隣席開いてるよなぁ、そこ座ってくれ壱」
「よろしくね一人くん♪」
僕を父と読んだことより先に、目に飛び込んできた物があった。
『文庫本』ただの文庫本だが、僕にとってはただの文庫本じゃない。というか、その、いや、それ以前に、その文庫本はたった一冊。世界にたった一冊しかないはずの文庫本だ。
「君は...一体?」
正直この時点で、壱さんは僕にとって、もうただのクラスメイトではなかった。だが、それ以上になるとは、この時まだ思っていなかった僕である。
すると、壱さんの口が開く。
「私が今から言うことを、貴方は理解できないでしょう、けれど私は嘘をつきませんし、これから話すことも全て事実です。それをわかった上で話しを聞いてください。」
「私の名前は壱一継、貴方、壱一人の娘です」
これは、ある一冊の文庫本がもたらす、主人公、壱一人の選択と喪失の物語。