隠し子!?
「これからのことを話すから、よく聞けよ。」
「は!?これから!?俺はこれまでの話をしてる。」
「俺には時間がないんだ。今日中に神戸に帰らなくちゃいけない。」
兄はそういう人だ。良くも悪くも過去に起こってしまったことはもう変えられないのだから仕方ないという考えなのだ。
でも・・親が死んでいるのに?
俺がこれだけ怒っても、顔色一つ変えない。
俺が頭を抱えると、兄からはため息が漏れた。
「勝手に話すぞ。」
話すからな。ともう一度念を押したあと兄は今後のことを話始めた。
頼れる親戚はいないので高校卒業までは、今の家に住むこと。
持ち家なので家賃の心配はないこと。
光熱費は口座引き落としになっているので気にしなくて良いこと。
毎月1日に生活費を10万円振り込むので、足りなかったら連絡すること。
ホームキーパーを雇ったので食事や掃除について心配しなくてもよいこと。
「以上だ。なんかあったら連絡をくれ。」
「ホームキーパーなんていらねぇ。」
「は?料理も掃除もろくにしたことがないくせにか。」
「だから、できるようにするんだろ。とにかくホームキーパーはいらない。」
「初めの1か月くらいつけたらどうだ。」
「いらないって。」
「お前・・」
「どうせ、遺産から出る金だろ!?そんなことに使う必要はない。」
「・・わかった。無理だと判断したらすぐに連絡しろよ。すぐに契約する。」
そう言って、紙袋とATMのカードを置くと病室から出て行った。
点滴が終わったタイミングで風呂に入るように看護師に促される。
兄が揃えたそれはとても気が利いていて、下着やパジャマも新調してあった。
それがまた自分のイライラを増幅させる。
今日はイライラして眠れそうにないと思っていたが
食後の薬が効いたからか、ぐっすりと眠った。
朝起きるとイライラは治まり、どうでもいいとさえ思うようになった。
俺は自慢だった兄すら失った。
あんな感情の欠片もない奴、もう知らない。
「お世話になりました。」
晴れて退院になったので、看護師に挨拶して帰ろうとすると引き留められた。
「あら澄田さん。着替えるの忘れてるわよ。」
「え?あぁ。着替え無いんで。」
運び込まれたときに着ていたスウェットを着るわけにもいかないし、パジャマで帰るしかない。
「嘘よぉ。お兄さんがきちんと用意してたわよ?」
「は!?兄がですか?」
「えぇ。もうひとつ紙袋が置かれてたはずだけど・・」
病室に戻り良く確認してみると、紙袋がベッドの下に入り込んでいた。
「あれ~。誰かが落としちゃったのかしら。ごめんなさい。」
「いえ、大丈夫です。」
「着替えてから帰ってね。」
にっこりと笑うと看護師は手を振って行ってしまった。
紙袋の中にはジーンズとロンTにジャケットが入っていた。
全てサイズがピッタリでまた体の中に閉じ込めはずのイライラが戻ってくる。
帰り際ナースステーションへの挨拶でもきちんと笑顔を作れているかわからないほどに。