隠し子!?
腕に点滴がついている。
どうして?
見覚えのない天井をみながらハッとする。
夢だ。全部夢だったんだ。よかった。そうか、夢。
長い眠りについていた。
ここは病院・・だよな?
どれくらい眠ったのだろう。
ずいぶん長い、リアルな夢だった。
体を起こすと全身が怠い。
何があって俺はここにいるんだろう。
「起きたか。」
「は!?」
呼びかけられた相手に驚いてすっとんきょうな声を出してしまった。
「兄ちゃん!?」
「あぁ。久しぶり。」
「ひ、久しぶり。」
神戸の医大に行ってから、正月でさえ一度も家に帰ってこなかった兄が何故か目の前に立っている。
どうして?
「お前、今日一日入院な。」
「にゅ・・?」
「あと、風呂も貸してもらえ。着替えとかシャンプーとか諸々揃えておいたから。」
そう言って紙袋を高く掲げた。
あの兄が俺の物を揃える?どうして?
「あ、りがとう。」
「栄養失調。睡眠不足。」
「え?」
「お前の病名。」
「病名?」
「そう、病名。何日も何も食ってないし寝てないし、風呂にも入ってない。」
「な・・なんで?」
俺の問いかけに、初めてまともに兄ちゃんと目が合った。
「・・知らねぇ。自分に聞け。」
段々と自分の記憶が戻ってくる。
夢じゃない。
夢じゃなかった。
夢だと思ったものは全て現実だった。
「おい。聞いてるか?」
「賢治?」
「・・何しに来たんだよ。」
「は?」
「今頃何しに来たんだよ。」
兄が頭をかきむしる。困ったときの癖だ。
「悪かったよ。まだ高校生のお前に喪主をやらせるなんて、悪かったと思ってる。」
「外せない学会だったんだ。」
「両親の葬式より大切な学会ってなんだよ。」
兄のことは大好きだった。
憧れの、自慢の兄だった。
だからこそ、ショックだったんだ。
「外せない学会ってなんなんだよ!!」
声が擦れる。
あれ。そういえば、俺最後に声を出したのはいつだっけ。