左下の牙の町
本当に遅れてすみません。難産だったんです
「せめてもうちょっとだけ常識を身に着けてくれるとありがたいんだけど。あれはどうにかならないかなあ」
そう呟いて、シャルク・チェリクはため息を吐きながら、中継休憩地となる左下の牙の町並を歩いていた。
はあ、と憂鬱気なため息をわざとらしいまでに大きく一つ吐き、道の左端を人混みにまぎれて歩いて行く。この町は、他の頭部に当たる町の住人が途中休憩地としてよることが多く、人の通りも多いので、面倒な厄介ごとを起こさないためにもそんな人通りになるべくまぎれるようにして歩いて行く。
この町では、旅の途中での食料の補給と十分な休息をとるために今日をいれて二日間滞在し、三日目の早朝に町を出ることになっている。
護衛の方でも食料や宿の準備に行く役割分担も早々に行い、護衛班ではシャルクが食料の買い出しに出かけることになった。
そんなわけで他の町の特産品なども集まるちょっとした発展のある街の、目移りするような商品を眺めては値段と商品の確認をして、買う店を厳選しているシャルク。常ならばそういう細かい作業も苦ではないのだが、今日に限って言えば少々憂鬱な気分だ。
原因は勿論、少々前から彼女の日常に乱入してきた厄介な天邪鬼の所為である。
「なんで戦闘終了直後に地面に倒れ込んだりするのよ……しかも理由が「フライムを間違って倒したから」って馬鹿じゃないの? どうせここいらでは有名な食べ物なんだから買えばいいじゃない、買えば。あれでも真面目に戦えばまともに見えるのに」
グチグチと先ほどあった戦闘での不満を口にするシャルク。日頃から奇怪な物事を研究するためといっては同系統の魔石を百個を超える数で収集したり、美味しい調味料を探すためと称して置き手紙を置いては三日間帰ってこなかったりと予想もつかない手段を行ってくる雪人であるが、今日のは輪にかけて酷い。もう一度フライムが食べたいとか何なのだ。一応これが自分は初の護衛任務だというのにもう少し気遣ってくれてもいいと思う。誰もが雪人のように戦闘経験豊富で、自然体でいられるというわけでもないのだ。
いや、あれは自然体というよりもなおひどい。ただの家の掃除をした時のどうでもいい些末事を解決するのと同じ感じである。前に一度、見たことがある掃除姿と同じくらいひどい。
「そこらへんどう思うイータ?」
シャルクはそのまま右肩に座っていた黒一色の可愛らしい人形に声を掛ける。このような光景を見れば、大人数の人がシャルクのことを頭のおかしい変人扱いをしてもおかしくは無いのだが、シャルクの言葉にしっかりと人形が反応したことで、恐ろしく低い確率でまだまともな人のカテゴリーにシャルクは残った。
そして話しかけられた人形の方はというと、いきなり話しかけられて驚いたのかビクッと肩を揺らし、ついで恐る恐るシャルクの方を上目づかいで見上げてくる。その様子から、どうやらこちらの話は聞こえていなかったようだと判断し、特に当たる理由もなかったので「別にいいわ。返事を期待したわけじゃないし」とイータに言っておくシャルク。
するとイータは安堵したかのようにほっと胸をなでおろすしぐさをした後、道行く人の持っていた武器が気になったのかふらふらとその方向に顔を向けていった。目移りするような動きをしているのだが、そもそもイータはシャルクたちのように光の反射を認識する視力によって、周りの状態を認識しているわけでは無いと雪人から言われていたので、恐らくはこの動きもイータの無意識の発露なのだろう。瞳の無い、のっぺらぼうという妖怪にも似た、しかし微かな凹凸によって顔と確実に認識できるイータの顔が、あっちへふらふらこっちへふらふらと忙しなく動く様子にシャルクも直前の怒りが風化していくのを感じる。
「……雪人から『イータは意思がある魔剣だ』って言われた時はそんなものがあるなんて信じられなかったんだけど、これを見たら逆にイータが魔剣っていうことの方が信じられないわ」
クスクスと手で口を隠し、気品を漂わせつつもどこか愛らしさを感じさせるような柔らかい笑いでシャルクはしばらく堪える様に悶えていた。そもそも彼女は、イータに偶にご飯を上げたりしてその喜んでる姿を見ては楽しんだりするのだが、今回のようにあっちもこっちも気になるといった風情のイータはあんまり見ない。
貴重なものが見れたと笑う反面、このことは絶対に雪人には教えない様にしようと少しばかり意地悪く考えたりするシャルク。そうやって彼女が道を歩いていると、道の人混みから少しだけ不自然な音が漏れ聞こえてきた。
「!―――――」
耳だけをピクリ、と動かし、喧騒の中、ここまで届いてきた声を拾おうと耳を澄ます。そもそもシャルクは猫系の獣人で、身体能力の優れている獣人の中でも更に耳がいい。鍛えていない者でも一キロ先の針が落ちた音すら認識できるといわれる中で、抜群に鍛えているシャルクはそれが隠されていない限りほとんどの音を拾うことができる。
そんな彼女が耳を澄ませば、例え喧騒の中でも、不自然だと思った音くらいは容易く聞き取れる。その音の様子から、どうやら誰かと誰かが言い争っているような声だ。
片方がまだ高い声をしているところを考えると、子供か少女かどちらかかもしれない。言葉の内容までは把握できないが、どうやらそれは人通りの向こうの路地の方から聞こえるので、助けに行った方がいいかもしれない。
「イータ、あっちの方に行ってもいい?」
シャルクが尋ねると、イータは何の躊躇いもなく頷いた。ここら辺、素直に頷かない癖に助けに行こうとする雪人とは大違いよね、とか考えつつ、人通りの少ない狭い路地の方へと入っていく。
狭い路地。色々と大通りの人達がゴミを勝手に捨てたりしているので衛生的とは言えないが、その分掃除の期間は短いらしく、そんなにゴミも散っていない。そんな小汚いと清潔の中間点を取るような場所に、熊の獣人の男と竜人の少女、そして幼い子供の三人が集まって口論していた。
「だから、その餓鬼が俺の服に食いもんの汚れをつけやがったから慰謝料を取ろうとしただけだろ! お前は関係ないんだからすっこんでろ!」
「そーはいかねーなーオッサン。流石にこんな年端もいかねー餓鬼から金をせしめようっていうのはちょっとばかしあたしの価値観からは見過ごせねえ悪事なんだ」
「じゃあなにか!? お前払うのか!?」
「いや、払うわけねーじゃん。あたしさっきスリにあって無一文になったんだから」
三人の立ち位置は丁度熊の獣人から少女が幼い子供を庇うようになっているので、口論と合わせて状況はすぐにつかめた。ただ、熊の獣人に対抗している竜人の少女の言葉が嫌に呑気で何とも力が抜ける。
「……取り敢えず、これも乗り掛かった舟かなあ」
シャルクはこれも仕方ないと、取り敢えず口論をおさめることにした。
シャルクが口論をどうにかして仲裁しようと頭を悩ませていたころ。雪人は、とうとう見つかった同好の士である冒険者の男と、話の合ったクロードと一緒に、「羽根付きスライム亭」という宿を訪れていた。
「羽根付きスライム亭って何とも凄い名前してるな……なんでこんな名前なんだ? 竜人族は種族全体で龍神信仰なんだろ? だったら名前もそれにちなんだものをつけるんじゃないかと思うんだが……」
「あれ? 雪人は知らないのかい? 竜人は確かに龍を神の如く崇拝してるけど、それが故に身近なところでは決して名前を付けないんだ。それにこの宿は、近場でとれるスライムを主に扱って美味しく出来るという通にはたまらない店なんだよ」
「……それは本当か」
「いや、どっちも本当だよ。嘘言う必要がないじゃないか」
雪人とクロードはそんな会話をしつつ、空いている席へと腰を落ち着ける。
取り敢えず雪人はクロードに勧められたフライムの刺身を頼み、ついでライトニングスライムの唐揚げを頼んだ。
「ライトニングスライムは単純に倒せば、その瞬間に強く閃光を出して、普通のスライムに戻ってしまう。だけど氷系統の魔法で氷点下いかに冷やしてから活動レベルを停止させた後に、ライトニングスライムの核を砕いて絶命させると、スライムに戻ることはないままに、しゅわしゅわした食感の美味しい肉になるんだよ」
「なるほどなるほど。……というかクロード。よくそんなこと知ってるな?」
「前に採取依頼で受けたからことがあるからね。君も冒険者やってればいつか受けるはずだよ」
「あ~。食えればいいかな俺は」
そうやってしばらくはクロードから冒険者の依頼で受けた時の体験談で魔物の生態で気になったことを話したり。魔物が使ってくる魔法自体について話し込んだりする。
途中、食事に舌鼓を打ちながら互いに自分が興味を持って発見した事柄を話し、主に雪人が質問し、クロードが答える形で会話が進んでいく。
「お前そういえばどこら辺の村にいたんだ? どう考えてもあの辺境から来たわけじゃないだろう?」
「僕かい? 僕は竜人族の村じゃなくてもっと物騒なところから来たかなあ」
「物騒? もしかしてシュール・ロームか?」
雪人は自分が一年間くらい引きこもっていた森のことを考えるが、クロードはとんでもないとばかりに首を振った。
「いやいやいや。あんな危険地帯にずっといたとかありえないよ。そっちじゃないそっちじゃない」
「そうか……」
クロードが首を振るのと同時に手を左右に慌てて振るのを見て、確かにあの森はまともに住めるようなところじゃなかったと納得する。そもそもの雪人でさえ、イータという特殊な存在によりつくられた安全地帯を発見できなければ異常な魔力場に当てられてそう長くは持たなかったはずだ。
あの森の最大の危険は住んでいた生き物でも命を狙ってくる植物でもない。ただ膨大に周囲を流れ続ける魔力があらゆる生き物を強制的に強くし、狂わせていくというところにあるのだ。それこそ、その生物が自分の強さに耐えられないほどに。
イータは数少ない例外であるし、雪人はそもそも奇跡のような偶然の産物だということだと改めて認識した。今後は余程相手が信用のおける人物でない限り、シュール・ロームにいたとかは話さないことを決意した。
「ってことは近くっていうと……どこ?」
「ありゃ? 地理はそんなに知らないのかい。魔国の血砂漠というところから来たんだよ」
「へえ……ってことはクロードは魔人なのか?」
「そうだね。僕は一応種族的には”混沌”に属する魔人の一族の者だ」
クロードの話す内容に随分と驚きを感じながら、改めてクロードの容姿を確認する。特に頭部に角が生えているというわけでもなく、尻尾があるというわけでもない。かつて魔王を名乗る人物と遭遇した時と同じように、見かけ上は一般的な人間と違う様子は無い。
表面上の違いが無いならばどこかにあるのかと、今度は透視に意識を向けて相手の魔力の知覚に集中する。すると人族の騎士や兵士と比べても非常に力強い魔力の流れを感じることができた。
それに、少々感じる魔力の質が特殊な感じがする。具体的にどうといえるほどに魔力の種類の判別はまだ得意ではないが、どうやら混沌というのが何かに関係しているらしい。性質的にそんな感じがする。
「というかそしたらヴァルデラ国とウェイン王国って戦争してなかったか? 俺も一応は人族なんだけど、そこらへんとか気にしないのか?」
「? 雪人はウェイン王国から来たのかい?」
「まあ、逃げてきた感じだな」
首をかしげる様子のクロードに、渋い顔をして答える雪人。というかあんな国に所属していたとか冗談でも言ってほしくない。
「じゃあ知らないのも当然か? あの国は結構情報鎖国していてね。あの国の外に人族の平和に住んでいる国は無いとか言わなかった?」
「ん、なんか言われた気がする」
「まあ、要は人族による単一国家はないんだけど、魔国にも人族が住んでいるところはあるし、竜人国にも人族の住んでいる村とか結構あるよ。要は、あの国が掲げているのは魔力的にも能力的にも弱い人族が安心して暮らせるようにってことだから、ある程度強い上昇志向を持つのは仕方ないところなんじゃないかなあ。最も、最近は随分ととち狂ってきてるけど」
「なるほどなあ。で、結局その話からどうやってお前が人族を気にしてないって話になるんだ?」
「そんなものは決まっているさ。僕は基本的に争い事とか俗世間の間に興味は無い。取り敢えずは出来れば正しい方が勝ってほしいとは思うけど、一魔法研究者としてはそんな事よりも研究の方が楽しいからね」
肩をすくめて語るクロードに、どこかしら力の入ったところは見られない。気楽そうに告げるその姿は、日が昇ったら沈むとか水が高いところから低いところへ流れるとか、そういった極めて当然のことを答えたに過ぎないような何とも言い難い自然さがある。
そもそも魔国自体、強烈な個人主義国家なところがあると雪人も書物では調べていたのでそんなものなのかとひとまずは納得しておいた。
そもそもが人の拒絶を受けてあまり人の機微に詳しくない雪人である。幾人かの知己は皆それなりに特殊な者であったために人間関係があまり得意でない自覚のある彼にとって、クロードが本当にそれで納得しているかは分からない。
ただ、敵意を持ってこないといっているのなら、少なくとも一旦はそれを信じてもいいと思えるほどにはクロードは人格的にも知能的にもまともだった。
よって気にする事無く、話を続けることを選択した雪人。クロードはその雪人の様子に多少目を見張っていたが、他人には分からない逡巡の果てに、すぐに会話に乗ってきた。
お互い、最低限の情報を交換した後は、残っている話題は共通の趣味である。そして、その趣味こそがほとんど二人のパーソナリティを決定している材料であるが故に、話し合いは自然と熱を帯びる。
「つまりクロードの研究対象は魔法の性質というか、魔法の自我があるかどうかという点についてなのか?」
「そうだね。雪人、これを見てよ」
魔法の実態についての研究を専門に行うというクロードの話しを聞き、雪人は興味津々でクロードの右手を見る。クロードの右手からは火の初級魔法”ファイア”による小さな灯火が乗っている。
そして左手には光の初級魔法”ライト”による小さな灯りが点いていた。
「ご覧のとおり、今僕は二種類の初級魔法を行使している。これは別に僕が二つの魔力の属性を持つからなんだけど、そこを置いといて、二つの魔法を見比べた時に何か疑問に思ったことは無いかい?」
「見比べてから……?」
内心、クロードが二属性だったことに驚きを感じつつ、魔法を構成している術を透視で透かして見る。右手に乗っている炎の方は、魔力そのものを燃やすかのように熱と光を周りに伝えているが、どうやら熱よりも明るさへと魔力を偏らせているようでそこまで熱さを感じない。
対する左手の光は、右手に輪にかけて明るさへと魔力が注がれているのがわかる。もともとの術式の属性もあるのだろうが、それを差し引いても光魔法の方は単位時間当たりの魔力の消費が少ない。
「……消費魔力量の効率か? もともとの属性だけじゃない、何か別の要因があるみたいな感じの差があるみたいなんだが」
「……凄いね。まさか一発で当てるなんて」
クロードは感心した顔を雪人に向けて、魔法を中断する。掻き消された後に辺りに漂っているのは、先ほどの魔法で作られた熱の残滓だ。
「それで? いったいこのことからどうして魔法に自我があるなんて話になるんだ?」
「まあまあ聞いてよ。取り敢えず順を追って話すから」
そもそも魔法というのは適性が無いと使えない特殊技能の一つである。現在ではありふれてはいるが、何らかの要因によって決定される適性が決して崩されることの無い壁となって立ちはだかる属人的技術のことだ。
そして、そんな魔法の等級というのは一般に初級やら中級やら分けられているのだが、それを分けているのは一般的にその魔法に込められた適性魔力の量だとされている。
つまり、その魔法を構築する人物の適性が高ければ高いほど魔法は少ない魔力で行使しやすく、その分より高い等級の魔法を行使することができるというわけだ。
この考え方は、一般にも広く浸透し「魔法論」としても広く認知されている。
「ただ、僕はそう思わないんだ」
クロードも初めはこの説を非常に強く信じていた。
何しろ百年二百年の昔とかの話では無く、魔法が発見されたとほぼ同時代の説であり、理論であったからだ。更に、その後発見された魔法的な理論も皆、その理論の正しさを裏付けるような代物ばかりだった。
ただ、一人だけ。どうしてもその理論で魔法の使用状況が証明できない人物がいたという。
「魔王サタン様だ」
クロードは一時期気まぐれで魔王が戦っている戦場に赴いたことがあるという。
戦場という特殊な環境において、魔力が大規模に荒れ狂ったらどうなるのかというのを一目見ておきたかったからだというのだが、その時彼が見た光景は異常の一言だった。
ほとんど初級魔法ほどの魔力だけで上級魔法並の大爆発を引き起こし、初級魔法を起動するよりも更に短い時間で特級魔法を連発する。明らかに込めた魔力の量よりもはるかに大きな魔法を行使し、あまつさえそれが魔族にとっての最大の武器である固有魔法を使っていないという状況だった。
「もし、既存の魔法論が正しいと証明するのなら、適性がいくら高くとも本来はつぎ込んだ魔力量以上の魔法が発現することはあり得ないんだ」
だが魔王サタンは、その常識を打ち砕いた。
たった一人。戦場に立っているだけで敵を阿鼻叫喚させ、千を超える軍とすら匹敵するその威容。強烈な個人主義であった魔国が現在の形になっている理由は、ほとんど彼のその圧倒的な強さに心酔した者達が多い。
「この事実を説明するために、僕は一つの過程を立てた」
そもそも魔法とは、ただの魔力によってつくられた構成物ではないのではないかという仮説。
魔法を構成している魔力自体、生命力の余剰分という見解がなされている以上、その生命力を編み上げて作ったかのような魔法自体に、自由意思が持たれないのはおかしいのではないかと。
つまり、魔法には自我があり、それぞれの系統によって、世界のどこかには存在する魔法が、その人間に祝福を与えるような形を取っているのではないかという仮説。
つまり、魔法は生きて、個人に力を貸しているのではないかという疑問。
「僕はそれを証明するために旅をしている最中かな」
「また随分と大きな疑問を持ってるな」
クロードの熱い口上に聞き入って頷いている雪人。彼自身、そのような発想は無かっただけに、クロードの考え方は随分と新鮮に感じられた。
確かに彼の言う通り、魔力というのが真に生命力の余剰分としてあり得るというのなら、魔法にだって意思のようなものが芽生えてもおかしくは無いだろう。それが世界中で意思を統一しているのかどうかは知らないが、そういうわけなら注いだ魔力に見合わない効力を発揮する魔法があってもおかしくは無い。
ということは必然的に雪人はどの魔法からもそっぽを向かれたということである。また随分と面倒なことだが、そもそも彼は魔力を持たないのだからそれも当然の気がする。
「――――――?」
ふと、そこで雪人は疑問を感じた。
そもそも彼が魔力を持たないのは、魔力を生成する能力と魔力を体内に蓄積する能力の二つが欠けているからだ。
だが、そんな雪人であるが生命力という点に化してはそこまで他者と比べて劣っている気はしない。
なにせ、魔境として恐れられるシュール・ロームで過ごしたのだから、少なくとも生命力は一般よりは上であろう。
では何故、魔法の適性はなかったのか。魔法はそもそも個人の魔力を見て適性を与えるというのならば話は分かるが、ウェイン王国の実験資料を見る限りでは、魔力の無い、高い魔法適性を持った人間もごくわずかだが存在していたはずだ。
こうなってくると魔法自体が何を見て判断しているのか分からない。というかそもそも、魔力とは、生命力とは何なのかという疑問さえ―――――
「雪人? 大丈夫?」
思考の深みにはまり、辺りが見えないほどに集中していた雪人のすぐ横から、高く落ち着いた声が聞こえる。
その声からどうやらシャルクが戻ってきたらしいと認識し、「大丈夫」だと堪えるために横を向くと――――
「誰だお前?」
「んあ? よろしく?」
そこにはシャルクとイータと、もう一人尻尾の生えた竜人の少女の姿があった。
次回は、予定では一週間後です。新しい日程のせいでごたごたが続き、更新も遅れそうなんですが、ある程度慣れたらペースを上げていきたいと思います




