スライムの宴
やっちゃった感がパないです……頼むので、批判はしないで~
街道沿いにある道から見て陰になるところに隠れていた七体のスライムを、最大レベルである約五メートルまで伸び切ったイータで豪快に薙ぎ払う。
巨大な軌道半径を得て振るわれた刀身は、バターのように小魔物たちを切り裂いた。
よくしなり、よく馴染む。腕にくる負荷は思いがけないほどの重圧で体を襲うと同時に、至極頼りになるもので、攻撃の直前にイータに口頭で頼まないといけないという隙を考えても、この威力と攻撃範囲は魅力であった。
前方を半径五メートルほど薙いだ後に刀身を戻してもらい、ゆっくりと納刀。
「まずは一撃」
次に昆虫系魔物であるスリガラバッタ、オオノコカマキリという透明なバッタとギザギザの殺傷力の強い鎌を持つカマキリの隠密して潜伏からの飛びかかってくるに対し、短く五十センチほどの短刀に変わってもらったイータを左手に順手で蟷螂を右手逆手に構えその場で三回転。刀身の勢いで押し切るのではなく、回転することで引き切ることで向かってくる十二匹の害虫を駆除。これを倒さないと荷物が齧られるので、荷物の護衛任務では最優先での排除となる。
「これで三撃?」
ぼたぼたと地面に失速して落ちていく昆虫たちを見ることもせず、次に向かうのは雪人の右側方、進行方向前方で苦戦しているホムラの方へ。
打撃攻撃主体の劉術では、彼の退治する物理無効型スライムであるディビジョンスライムに対しての相性は最悪である。打撃透徹、振動拡散といった衝撃を上手く操る打撃方も劉術にはあることを雪人は聞いていたが、ホムラが未だにその領域に達していないことは既に本人から聞き知っている。
もしもそのような魔物が現れたら足止めはしておくので止めはどうにかこうにか他の人物が刺してほしいと、恥を忍んで頼んできたホムラは今、その言葉通りにまとわりつかれるディビジョンスライムを殴っては後退させ、他に向かってくる数だけは多い魔物たちを優先的に殲滅している。
他にいる護衛ががりである冒険者並びに武術家達は、襲い掛かる小さな魔物たちを振り払うので精いっぱいだ。故にこの状況では、常に精密かつ高精度で戦うことを基本としている雪人が最も自由になりやすく、同時に最も援護に回りやすい。
それでもホムラの方に走っての接近戦はただの時間の無駄なので、短刀状態のイータの切っ先をスライムの方に向け、一瞬で伸びてもらった。
過たずディビジョンスライムの柔らかな体を捉えた刀身は、そのまま物理無効を発揮する肉体に対し、あっさりと貫通するという恐るべき効果を発揮した。とは言えこれは簡単に予想がつく。ディビジョンスライムは打撃は無効であるが、斬撃は威力を吸収し二つに分裂するのだ。
故に斬撃の属性に入る刺突であればディビジョンスライムの柔らかな肉体を蹂躙することはたやすく想定できることであり、同時にそれはイータによる捕食対象へと還元されることを意味している。
伸び切ったイータの刀身の先で、あっさりと干からびて水だけになり破裂したスライム。塩を掛けたナメクジのように魔力を失ったら水しか残らないという実にクリーンな結果に、そもそもスライムとは何ぞやという疑問を感じざるを得ない。
そういえばディビジョンスライムを防具に応用する研究があったような気がすると脳裏に浮かべてイータに合図をする。
「まあ、一撃かな?」
疑問は他所に。イータに瞬時にいつもの打刀程度の長さに戻ってもらい、後ろから襲い掛かってきたユニコーンなどのあるような一角獣のような硬質な部分を持つスライム、通称、兜スライムを振り向きざま一刀両断。ナイフでの対応でもよかったのだが、やはり日本刀を持って敵が兜ときたら兜割りの練習がしたくなったのでやっただけである。
見事に額にある角の部分から真っ二つになって地面に落ちる二つの塊。その両断の一瞬で魔力を吸いきっていたのか、地面に落ちた角は一分すらも残らずに草原の中に溶け込んだ。
「腕は鈍ってないな」
とは言え客観的に見れば六十点がいいとこだろう。スライムは硬質の角を持っていたとはいえ、実際の兜ほどの強度は持っていなかったし、今のは魔力の弱い生物的に強度の低いところをイータの強度と切れ味と魔力吸収の特性を併用した相当に有利な状況だった。
だがそもそも実際の意味での兜割リは有段者ですら失敗するような、達人名人の使う秘技の内の一つである。実際に真っ二つにできたのだからこれでいいかと納得したが……同時にそれをほぼ見よう見まねで真似させられて、習得するまで鎧を着た特攻を防ぎきるという「ほぼ実戦だよな?」と突っ込みたくなる訓練を思い出し、ちょっと顔を顰めた。
確かに兜割りができるようになってみたいとせがんだのは自分だったが、それでも出来るようになるための訓練にアレは無いと思っている。本人としては「やっぱり実戦でできなきゃだめだぞ」とあきらめさせる意味でやっていた特訓で、まさか本当にできるようになるとは思わなかったと、兜ごと頭まで切れそうになって涙目になりながら言われたが。
そんな風に自分の兜割りもどきを評価すると、次に向かってくるはずの敵に備えて武器を構える。
だが辺りに潜んでいる魔物から一向にこちらに向かってくる様子は無い。どうやら自分のあっという間の殲滅速度が相手に強い警戒心を与えたようだ。
はあ、とため息を一つ吐く。出来ればこういう感じの多数の敵と相対して戦う訓練になるこういう戦闘はあまり欠かしたくないのだが、出てこないのでは仕方ない。ここはイータとの連携を重視しての戦闘経験を優先することにした。
そもそもスライムというのは魔力を隠すような高等技能を使うことはない。故に簡単に魔力感知に引っかかるし、陰に隠れるくらいではこのように捕捉されるのがおちである。地面に潜む者。草の中に身を隠す者。まだまだ残っていたこっそりと隠れるように動いていくスライムを伸縮途中のイータが自分の形状を変換し、一薙ぎの間に二閃の斬撃を放つ。
あっさりばらばらとなるスライムたちの魔力をイータが地味に食い尽くす。どれも一つ残さず一瞬で食べきるあたり、彼女は大食いかつ早食いの才能がある。
それともこれから始まる町生活の中で、今のうちに食いだめをしようというのか。そんなあほな感想を雪人が抱けば、まるでそれを読み取ったように肩に乗ってるイータの木人形がポカポカと首の方をたたいてきた。
「悪い悪い。後でおねだりでもなんでも聞くから今は許してくれ」
何となく考えていたことを女性の勘で察知され、形勢不利な雪人である。
やはりイータも半植物とはいえ女性である事を再認識し、この気難しい相棒との付き合い方をどうしようかなと真剣に悩む。
およそ女子との交流どころか人間同士の交流自体ほとんどなかった雪人にとっては、対人関係は不得手中の不得手だ。これが適当にからかってあしらうくらいだったら良く絡まれていたこともあったので簡単にできるのに、真面目に話すとなると結構難しい。
うわあ、ダメな人だ。そう今更な自己認識を新たにし、背後から飛びかかってきた一匹の魔物を振り向きもせずにイータで貫く。
見もしなかった一撃は、狙ったかのように兎のような魔物ホーンラビットの弱点である喉を貫通し、剣先は後頭部に抜けている。今しがた雪人が狙われたこの一撃は、魔力を隠蔽して放たれた気づくはずもない攻撃であったが、些かどころかかなりお粗末なものであった。
第一、魔力を隠蔽して動く人間の気配ですら雪人は知覚できる。どんな生き物も呼吸をしなくては生きていけない様に、魔力というのもある程度外に放出し、吸収するという循環を行わなくてはいけないのだ。雪人は魔力を持たないのでそんな厄介な制約が無い分、周りの魔力の呼吸音を正確に聞き取れるのだ。
そんな彼にとって低級魔物の魔力隠蔽など三歳児のかくれんぼに等しい。つまりほとんど隠れていないかくれんぼになっていないゲームということなのだが、そもそも雪人が三歳児の時はだれにも見つからない隠れ場所を探して、幼稚園を脱走した黒歴史があったのでこの表現は封印した。
そんな無駄なことに思考を費やしていた彼も真面目に周囲の状況を把握し始める。前方は武術家集団、後方は冒険者で固まって連携を取っており、これは恐らく日頃の練度を考えた武術家たちの判断だ。
そして肝心のシャルクはというと、後方の冒険者集団に交じって魔物たちに対抗して剣を振るっている。
流麗な剣を振るう動きに停滞は無い。眼前に飛び込んできた三匹の小魔物に対し、確実に急所を狙った突きを二つ、斬りを一つ。それだけで刀身に振れた魔物がはじけ飛んだのは魔闘技”振風剣”という超高速振動によって剣の切れ味を上昇させると同時に、切った敵に振動を加えて破裂させる致死の剣。一瞬で三匹の魔物を撃退し、隣で近距離に近づかれた魔術師の方へ援護に行く姿には、かつて雪人が剣を振るわれた時にあったいくつかの隙も遠目で見ている限りでは少なくなっている。特に、戦闘の中で剣を突き出してからの引き戻しの際にあった次の動きへの一瞬の迷いともいえる動きの停滞が無くなっているのが大きい。
流術。その真価は攻撃を完璧に流すことでもなければ、ダメージを体内で分散させることでもない。スローモーションにすら見えるほどの優雅さの中に隠されたエネルギーを一滴も無駄にしない攻撃の柔軟性にこそ価値が見出される。
流水、といわれる動きの極意。無駄のない動きの中に隠されたひそやかな攻撃力はゆっくりとだが確実に相手を追い詰める。
今は小さな魔物が複数回にわたって同時に襲撃してくるという状況であり、魔闘技を併用する剣により敵の急所を切り裂くような戦い方だが、もしこれが一対一の状況であればじっくりとだが確実に相手の体力だけが失われていくような戦闘結果になるだろう。
動きの鋭さ。無駄な体力の消耗の排除。大凡二つの要素にさらに磨きを掛けられたシャルクの動きは雪人と対峙した時から一回り上がっている。
ここ最近、奇剣術を研究するために魔闘技を見せてもらい、その動きと魔力の無駄を指摘することを繰り返していたのが一因かもしれない。それで飛躍的に上がった実力が自分のおかげかもしれないと思うのは流石に自惚れや失礼に値するだろうが、確実に彼女は初戦闘を経た経験で実力を遥かに伸ばしてきている。
それを見れば雪人の心配は無い。残り二人の劉術馬鹿コンビはどうせ男だし、ある程度傷がついても勲章とかいう感じの男なのでほっといても問題ない。
では雪人は特に何もすることは無いのかといえば違う。殲滅速度が他のグループとは桁違いであるが故に、彼の周囲にいた魔物は一時攻撃を停止していた。
ただそれも戦力が足りない間だけのこと。徐々に集まる気配。それは恐らくは仲間の救援信号を受けた他の魔物。
「鬼が出るか蛇が出るか。出来ればでかくて強い方が楽なんだが小さくて弱くて多い方は期待したくない――――――」
目を見張り、動きが停止する雪人。彼の目の前に集まったのは三十に及ぼうかという小魔物の集団。それを見れば、魔法などの広範囲への攻撃手段がほとんど存在せず、限られた攻撃しかできない彼にとっては、背後の馬車の荷物を守るのはほぼ致命的な状況だというのがわかる。
だが別に、雪人の動きが止まったのはそんな計算が敵を見た一瞬に頭の中で働いたからではない。雪人にとっては護衛失敗も任務失敗も冒険者をやる以上いつかはやるかもしれないことで、それが人命などに関わらない範囲ではそこまで失敗とも思わない。そもそも、これだけの魔物が大量に発生している事前情報も無かったし、人員も圧倒的に不足している状況では失敗してもあまり構う気もしない。
雪人の視線の先には、空を浮かぶ半透明のゼリー状の肉体があった。
「あ、あれはもしかして……」
宙に浮かぶその姿を見た途端、雪人の意識は急激に加速を始める。辺りの光景がスローモーションのように見えるのは、極限の興奮がもたらした極度の集中力によるもの。
俗に言う忘我。雪人はその境地に至ったままで、無意識のうちに左手でミルによってつくってもらった鉛玉を掴み、前方に投擲する。速さは流石に火魔法のファイアボールや風魔法のウィンドカッターほどではないにせよ、その重さとかけられた回転はその先にいる生き物を撲殺するのに十分な威力を秘めているはずであった。
しかし、その自分でも十分だと判断できる一撃がその先の空中にいた魔物のゼリー状の体に跳ね返される。
「!? やはりあれは……」
攻撃を弾かれたことで何らかの確証を得た様子になる雪人。そしてすぐに魔物を斬るべくイータを引き抜き、周りに「自分が向かう」と宣言した。
二、三聞こえた聞き覚えのある情けない嘆願の声には、「自分で何とかしろ」と叫び返して一直線に敵に向かう。自分が移動するごとに明確になっていく敵の細部。聞こえてくる魔物たちの鼓動。魔法の発動の為に魔力を展開する気配。それらに最早反射の領域で、知覚、対処、反撃までの一工程を編上げていく。
魔獣「一突き蛙」の跳躍を一歩分足をずらしてよけ、着地点に右手に持っていたクナイを飛ばす。その間に距離を詰めて撃ってきた複数の火と風魔法による合成魔法”ストーム・ファイアブレッド”による銃弾のような火の弾幕を躱せるものは躱し、躱せないものは動かせる範囲で右手を使って奇剣術”転飛燕”で叩き落とす。
数多くの敵がいる中で、雪人の視線は空中に浮かんでいるスライムの亜種に一直線に向いていた。
「フライムか!」
雪人の叫びに反応したのかフライムと名付けられている魔物は空中でぷるんと一度振動し、ついで宙に浮かんだ状態から光属性初級魔法レイを放ってくる。
光弾というよりは細い閃光のような一撃が一直線にこちらに向かうものの、その内包する攻撃威力に比例してか、はたまたフライム自体の魔法構成力の弱さが露出した結果故か、魔法の動き自体は実際の光よりは非常に遅い。
少なくとも十数メートルはある間合いを一秒もかけずに飛んでくる光弾は、間違っても遅いとは言えない速度であったが、発動前の兆候から発動の瞬間が読めてしまえば攻撃面積の小さな直線的攻撃などかわすことは容易い。すれ違うようにして斜め前方に踏み込んで魔法の光線を躱し、フライムに対して自分の持つ中で唯一効果のある刀剣による斬撃を放つために一切の停滞をせずに間合いを詰めていく。
普通にフライムを倒し、斬るだけならば何の問題もないだろう。イータで斬りさえすれば、全く問題なく敵を倒せることは間違いなしであり、それならば遠距離からイータに一度伸びてもらえば一瞬で決着がつく。
だが、雪人はそこをあえて自身の奇剣術でフライムを倒すことにした。
理由は自身の戦闘スタイルの関係上、最も相性の悪い物理斬撃無効の性質を持った相手を奇剣術だけで倒せるかどうかの確認。
それは崇高な自身の実力を把握するという最も大切な作業であり、これはある程度のリスクを考慮してもやらなくてはいけない義務なのだ。
決して、一度食べたフライムの唐揚げが美味しかったのが原因じゃない。
「上手く一撃で斬られやがれ!! 味の為に!!」
透視と時見で周囲の敵を把握し、向かってくる攻撃をいくつかのストーリーを想定して数手先まで予測。状況に上手く適応するようにして、周りから来る物理、魔法の種類を問わない攻撃の雨を自分のいいように誘爆させていく。
瞬間的に過剰な密度となる空間存在魔力。それは荒々しい勢いと流れと持ち、魔力を編上げるのは難しいと同時に、雪人の奇剣術が最大の効果を発揮する独壇場。
「新技だ! 喰らえ!!」
細く編み上げ蜘蛛の網のように広がる鋼線を左手から投擲するように伸ばす。前方に大きく広がった網の端のほうを素手で掴み、胴体ごと回転させる勢いで空気を巻き込むように振り回す。
それと時を同じくして、右手に持ったイータからは一メートル大の巨大な骸骨の手にも見える触手を生成。そのまま両手を振り回す様にして回転しながら両腕を自分の上に持っていく。
都合上一度しか使えない周囲の魔力の流れを大きく偏向をさせる一度限りのギミックを発動。そうして上空に巻き上げるようにして縦方向に収束させた魔力は辺りの総量から見ておよそ五割。網自体にも特殊な粘液で魔力を集積しやすい回路を刻んでいるにしては、巻き込んだ割合としては低い。ただ、この瞬間で言えば、次の奇剣術を使うのに魔力量は十分足りる。
左手を網から離し、両手でイータを握る。その一瞬にイータは骸骨の手を切り離し、大きく背中に大刀を構える。そこから大きく円を描くように袈裟懸けの一撃が放たれて、斬撃は上空で荒れて蠢いていた魔力を地面に叩き付けるように誘導する。
疑似的に局所的な下降気流を発生させる奇剣術。
「”螺旋鎚”!」
螺旋という名前を関した一撃は、まるで高速で回転する小型のドリルのように空気を抉りながら、その場にいた全ての魔物を巻き込んで炸裂した。
「くっそう! なんでなんだ! なんでお前は根性もなく、潰れて弾けちまったんだよぉ!」
雪人が地面に腕と膝をつけ、目の前に広がる惨状を前に虚しく叫んでいた。
地面に生えていた芝は半径五メートルほどが吹っ飛び、草原の中に唐突に作られた露出した地面によってできる黒と茶の入り混じったサークルは、中心部にいくほどに高さが低く、より地面が抉られている結果になる。
広い範囲で削られているために深さがあるようには見えないが、深さ五十センチは優に超えているような大きな穴。削岩機によって削られた岩盤を思わせるその後には、いくつも魔物の死体の破片が散乱しており、少々精神の弱いものには見せられない惨状だ。
その円の僅かに外側の淵で叫ぶ雪人。この世の悲哀と絶望を体現したかのような背中に、聞く者に憐れみを催させる悲鳴。その背後ではイータがいたわるように背中を撫で続けており、その姿にはこの状況を作り出した威厳や気迫は垣間見えず、先ほどまで鬼神と見まごうばかりの働きをしていた凄腕の戦士の有様に、周りの冒険者も不審よりも先に心配して声を掛けた。
「おい……大丈夫か」
「これが大丈夫に見えるか!? せっかくイータに捕食べられないように使いにくくかつ手品か大道具でしか使わないような奇剣術でようやく敵を倒したのにバラバラになりすぎて再生不能の回収不能だって!? 一度くらい叫んでストレスを発散しなきゃやってらんねえよこんなもん!!」
「お、おう」
雪人の言葉の中には、普段の彼を知らなければわかるはずもない単語がいくつか含まれていたが、雪人の語気の勢いで丸め込まれる冒険者たち。イータでさえも木人形をおろおろするばかりだ。
冒険者が戸惑う仕草を背中に感じて何を思ったか、雪人はそのまま言葉をつなげた。
「わざわざ仕込みに三十分はかかる鋼蜘蛛の糸の網を使って用意して、それを使って攻撃を上手く実戦でもできるように何度も何度も練習練習……。一回ごとの成功率も低く、扱うのも難しい鋼線をイータと息の合った連係までに昇華するのに一体何日使ったことか……。それでようやく成功させた一撃が、こんな結果になるなんて……畜生!」
ダン! と地面に握り拳を叩き付ける雪人。恐らくは先ほどからの不意の遭遇戦に始まり、止めに気力を使った奇剣術の反動で、多大な緊張の反動として、精神が高揚しきっているだけのことなのだが……残念なことに、そこには意味の分からない勢いだけはあった。
そもそもそんな使いにくい技を何故作った、というか何故そんな派手な技を使ったのだ、というツッコミも勿論聞いていた冒険者の心の中にあった。あったが、彼らはどうしてもそれを言い出せない何かの勢いを雪人から感じた。先ほどまで真面目に慰めていたイータですらも両手を空に上げて後ろに倒れ込んでいる。
だが一人、その雪人の勢いに共感するようにして頷く男の姿がある。
肌は黒く、髪は茶髪。元の世界では黒色人種という感じの極めて体格のいい体。だがしかし筋肉が過剰についているわけでもなく、ばねとなる瞬発力のある筋肉が全身に鋼を絞ったように纏われており、細面な顔に、赤い瞳を合わせれば実に映える美貌といってもいいだろう。
そんな男が雪人のよく分からない勢いに、まるで同情するかのように実に真面目な表情で何度も頷いている。
「分かる。実に分かるよその気持ち。僕も自力で開発した術式が自分の思い通りに行かない結果を出して、何度枕を涙で濡らしたか……故に君の気持ちはよく分かる。いや、分かるといっては傲慢だね。「少しばかりは想像がつく」という方が正しいか。だが今は、失望に震える君の仲間だ。いや、仲間にさせてくれ」
ゆっくりと雪人に後ろから近づき、ポン、ポン、と背中を二度叩く。労わるようなその手からは傍目から見ても、並々ならぬ感情がこもっている。
それは慰めを受けた雪人本人が最も感じたことらしい。はっ、と俯せにしていた顔を上げ、まるで救世主を見るかのごとく後ろにいた男を振り返る。
「ま、まさかお前も分かるのか……あの悔しさが」
「ああ……察するに君はどうやらフライムを入手したかったんだろう? 戦闘の様子を見ていた限り、手に持った魔剣は魔力を吸いとる性質のようだし、それを表に出さない様に物理攻撃でフライムを倒す為に使ったんだろう。あの中にいた魔物の中で、そいつだけが唯一、その魔剣で倒した時に素材を手に入れられない魔物だった。故に君は、不利になると分かっていてもあの大仕掛けを発動させる必要があったんだろう」
「スゲエな……そこまで分かるとは。その卓越した魔力感知能力……もしかしてお前、魔法式を作る研究している口か?」
「その口ぶりを聞く限りでは、君もかい? どうだろう? ここは一度、次の町で美味しいフライムの料理でも食べながら、お互いに研究に対して思うことを話してみないか?」
「!……いいだろう。実りのある会話にしようじゃないか。俺は雪人だ。よろしく」
「僕はクロードという。気軽に呼んでくれ」
がっちりと握手を交わす両名。その姿を周囲で見て、そこに何か新しい友情が芽生えたことにほっこりしている男冒険者たち。
その後方からは「嘘だろ……あの奇人クロードが」「馬鹿な……あいつと話が会う奴だと……!?」という比較的冷静な冒険者の呆然とした呟きも聞こえるが、それは前方でよく分からない熱気に当てられていた冒険者たちには届かなかった。
故に、そのよく分からない共感を断ち切ったのは、それよりもはるか遠方から届く一人の少女の声だった。
「雪人、分かったから。貴方が作った新しい奇剣術が凄いのは分かったから。だからお願い。お願いだから地面から早いとこ立ち上がってくれない? 皆見てるんだから、ほら、あっちに子供だっているんだし」
冷ややかな視線。熱の無い声。離れている二人の距離。これ以上ないほどの軽蔑と冷たい視線をぶつけられた状態で、雪人も、その雪人の熱い情熱に感化された阿呆な漢たちもバツの悪そうな顔で無言で頷くことにした。
近くでは、「あ~あ」とでも言いたげに首をすくめる相棒の姿が
遠くには、今の叫びに共感しなかった女冒険者や、状況をよく分かっていない子供の姿が見える。
あんまりといえばあんまりな惨状に、雪人も冷静になるとちょっと恥ずかしかった。
この後からシリアスが続く(予定)ので、ちょっと息抜きと現時点の雪人の実力把握に。
それと奇剣術が上手く効果を発揮するのに、ある程度の縛りがあることの強調かな?




