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番外 ミルと最高の刀鍛冶

雪人が旅に出た後の二番角の町についてのお話

 ガタガタ、という音とともに背後で何かが転がり落ちる音がした。


「なんだ?」


 それを聞いて鍛冶屋の主――――――ミルは、疑念の声を上げる。今のこの鍛冶屋兼家にいるのはミル一人のはずで、そんな音を立てるような存在は無いと知っていたからだ。


 ということはこの不審な物音の正体は、誰かミル以外の不審者に他ならない。こんなところに建っている店に侵入するとは随分と物好きだが、自分の武器はここいらではそれなりに一級品として通じるものであるからあり得なくもない。なにせ、竜人国の中でも危険地帯と見做されているシュール・ロームの魔力を流すのに適した素材と、妙な特性を持った素材を使って毎日毎日鎚を振るい続けてきたのだ。


 最早何年こういった作業を続けてきたのかは全く覚えていないが、少なくとも人族の子供が子供を産んで独り立ちするのを見送った後に、その子供がまた子供を産んで孫が年老いて、動けなくなるくらいの長さだろう。ドワーフであれば、これだけの期間を鍛冶一本に費やせば、このくらいは上達する。


 肌身離さず体に引っ掛けている自慢の鎚を右手に握り、足音を全くたてない静かな歩みで音のした方に近づく。鍛冶師として研ぎ澄ました魔力感知で確認してもよかったのだが、それだと自分以上に気配を殺す術に長けた人物が相手だった時が一番怖い。ここ最近であった雪人の無能だったら、見落とす可能性はゼロに等しいが、生憎と自分にはある程度の魔力がある。感知性能は高いが、誤魔化しきれないものではない。


 魔力感知というのは要は呼吸なのだ。魔力というものが体内に存在する者は、どんなに極微小量であれ、体内の魔力の循環の為に周囲の魔力を呼吸のように吸収、放出を行っている。それは魔力量が多ければ多いほど一度の量が上昇し、同時に周囲の魔力の揺らぎを感知しにくくなる。


 つまりは、魔力のある人間にとっては自分の呼吸の音を聞きながら周りに耳を澄ませるような方法が魔力感知であるが、魔力の無い無能であったら自分は息をしないで周囲の人間の呼吸の音が分かるといった反則的な感知の仕方ができるのだ。


 これは日頃から魔力感知を息をするようなものだと捉えていたミルの視点から見たことでわかった真実であり、逆説的に言えば、彼女の魔力感知の限界を悟らせるものでもある。どうしても最強の武具を作れないかと自分を磨いて、研究していった先に見つけた発見だ。


 そんなことを頭の端にのっけながら油断なく武器の置いてある倉庫の方に向かい、廊下から倉庫に入る扉をバンと勢いよく開けた。音がしたのはこの部屋だが、突入する際に問題になるのはこの部屋の中にあるものが魔力をそのまま保持している物だということだ。複数の魔力の波長が入り乱れて密集しているこの場所は、例えていうのなら雑踏の中。周囲で静かにこちらに近づいてくる者には簡単に気付けない。


 果たして―――――と思いながらミルは中に突入する。だが、中には誰もいなかった。周囲をぐるりと見回して、人らしき姿が完全に無いことを確認する。


「勘違い……だったか?」


 自分の感覚が間違いだったのかと首をひねるミル。もしかしたら最近は滅多にない客人が結構大量に来ていたので、感覚が狂っていたのかもしれない。


 そう思いながら部屋の詳細を確認していくと……ああ、と納得した。


 納得するミルの視線の先では、一本の刀が鞘に入ったままに天を剥くように地面に垂直に突き立っている。

 それは未だに主無き振るわれない武器。魔力を通さない希少で硬質な永年の時を吸収して作られる水晶を削り出すだけで作られた芸術品のように美しい兵器。


 これを作った人物はもうすでにこの世にいない。ミルがこの刀を削り出した人物の最期を看取ったからそれは確実である。


 全く持って死にそうにない妙な雰囲気と刀剣に対する熱意を漂わせた奴だったが、それでも普通の獣人族であった以上、寿命はドワーフであるミルとは比べ物にならないほどに短かった。


 口癖は、「自分の作った武器で世界を変えるような英雄の手伝いがしてみたい」である。そんな大層な夢を掲げた人物は、凡そ四百年は昔に素材を取りに行くのに失敗してぽっくり逝ったっきり、そのまんまである。

 

 生涯数千万本の刀を打って、世に出た刀はわずかに六本。その内の三本は習作であったと本人も語り、今では破壊されて現存していないし、二本は作成して僅か百年で血塗られた妖刀として封印された。そして残った最高傑作と彼女の読んだ一本がここ、ミルの鍛冶屋に残されているのだ。


 概念としての刀、あらゆるものをあらゆるエゴを一刀両断にしてしまえるようなそんな武器。空想上でしかないそれを目指したというその刀は、例えそれがどんなひ弱な少女でも、体の弱いもやしでも、技術がその刀を振るうのに伴っていれば、それだけで世界の中でもいっぱしの存在になれるほどに強烈な武器であると、彼女は楽しそうに語っていた。


 と同時に、極限まで切れ味を追求し、振り回す軽さを追求してあるが故に、今まで何人もの才能ある剣士に試させても、一向に抜き放つことができた者はいない。歴代の剣聖もどんな名工も、この刀が一度鞘に収まった後に、もう一度その刀身を世の人間に示したものはいないのだ。


 魔法的な呪いがかかっているというわけでもなく、正しい形で刀を引き抜かないと引き抜けない様に鍔と鞘に細工をしているということだったが、それにしたって一人も抜けないというのは異常に過ぎる。


 試した剣士の中には空前絶後といわれた十二代剣聖だっていたというのに、どんだけ求める水準が高いのかと嘆息したくなったのが本音である。ホントは不良品押し付けたんじゃないのか? と思わされたことも一度や二度じゃない。


 この刀を抜くのに必要なのは、異常なまでの刀術の技量であるということ以外は何も教えてもらっていないミルにとっては、使えない武器である以上捨ててしまいたいというのが本音である。


 それを後生大事に倉庫の中にしまったままなのは、彼女も誰も使えないような武器を創り出してはとっておくような性分があるからかもしれない。恐らくはあの馬鹿鍛冶もそこらへんを見抜いたからこそ預けたのだろうが……こっちはいい迷惑である。お蔭で刀を捨てられない毎日だ。


「そこでいくとあいつは使えると思ったんだがなあ……」


 そこまで考えて、最近になって自分が使えないと評価していった武器をいくつか購入していった一人の男の顔を思い出す。


 魔力もなく、どこかの精霊に愛されているような雰囲気も持ち合わせていないし、特別な加護も持っていないような無能だったのに、発する気迫が異常に重かった一人の無能の男のことを。


 初め見た時は、魔力が無い圧倒的な弱者のはずなのにその異様なまでの気迫を感じ、一体何者なのかを警戒していた。決して相手に悟られない様に自分がいつでも動けるように臨戦体勢を整えながら、会話をつづけた時のことは今でも冷や汗ものである。


 しばらく話して、こいつは強い、と直感に来るものを感じたミルは同時に、魔力を使わないで戦うコイツならば純粋に刀術を鍛えているといってもいい。すなわち、あの刀を抜けるのではないかと試してみたのだったが、結局は駄目だった。


 何となくだが、あの男はどんな武器でも一通り使いこなす姿勢を示したことから、恐らくは武器を選ぶような戦い方をするのではないと感じた。

 

 つまり、刀術を一番に修めていても純粋に刀術の実力が異常なほどというには未だに足りないということらしい。あの男でも、飛んできた点による複数同時の攻撃を真っ二つにできる技量を持つとカシャに聞いたのに、それで足りないとかどういう要求しているのか全く分からない。


 結局は使えない武器を持っていくような趣味は無いからとおいて行かれてしまったが、抜けなかったことが結構悔しかったらしく、「もう一度刀術を練り直してやる」と息巻いて旅に出ていった。


 それが最終的にどう影響するのかは分からないが、この刀を扱えることが出来るように努力してくれる人物が居ることは、素直に感謝したいところである。


 ミルの親友であった鍛冶師が作りし刀が、いずれ日の目を拝むところを誰よりも見たいのは、ミル本人なのだから。


「まあ、もう少ししたらあの男が使えるようになってくるような気がするけどな」


 ミルはそれだけを口にして、煩く抗議してきた刀を元の場所に戻しておいた。

短編祭りやってます。よかったらよんでください

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